第5話

「あれーどこだっけな?なんかここら辺だった気がするんだよなぁ」


「魔法陣探すなら昼の方が良かったって思いますけどねー」


「姫ちゃん〜魔法使い向いてるね。今のでやる気ごっそり落ちたから。あ、詠唱した?」


「あーそうですねー魔法使いました」



優雅なコーヒーブレイクのあとにひたすら瓦礫をどける作業を繰り返さなきゃいけないなんて誰が想像できたでしょうか?

かれこれ2時間は目的の魔法陣を探していて私は先に倒れていました。上記のような意味もない会話をもう何度も繰り返していて、何もない荒野で満月だけが私たちを照らしていました。


「今日は月がまん丸で綺麗ですね。食料もない残ってるのはお酒だけという絶望的な状況でさえなければ最高なのに、ウッ……」


「姫ちゃん泣いてるの?アッハッハ」


「笑ってますし……。いいですもう死んでしまうんですから全部許します」


「こんなんで死なないから安心しなって。ほら、流れ星!」


「もう飽きましたよー泣」


悲しき人間の性を感じますが、最初こそ感動した流れ星も数十回もみると感動が薄れていました。

でもただ寝ているのも退屈なのでやることので、流れ星を数えていると赤い二つの流れ星がずっと消えないことに気づきました。


「いや、あれ、星じゃない……」


「え?」


アランが流れ星と勘違いしたものが騎士が使う移動用魔道具から出る魔力の光だと気づくのに時間はかかりませんでした。


近くになると魔力の光と止まり、その代わりに一人分の足音が聞こえてきました。

体を起こして待っていると顔立ちが整い、若さの中に高潔さを兼ね備えた青年がこう切り出しました。


「勇者アラン。お初にお目にかかります。

騎士ダレン・シェルツ・ダンバートと申すものです。戦士長キョウより命を受け、あなたを捕捉しに参りました。御安心ください。大人しく投降してくだされば危害は加えません」


それを真っ先に聞いたとき、私は、『あ、この男やったな』と感じました。なんか怪しいと思ってたんですよね。お金を渡してなんかげっそりした顔で無くしたと言っていたし。



「…………」


「無言はやめてくださいよ」


「いや、なんかこういう犯人あぶりだすときって俺何もしてないけどなんかやったかな~って不安にならない?」


「それは…………わかります」


「でしょ」


「二人とも今の状況分かってますか?特にアランさんあなたは捕らえられる立場なんですよ」


少し困惑したダンバートの前に、すっと手を出したのはもう一人のダンバートより少し背の低いボブカットの女の子でした。とてもかわいらしい顔をしていましたが、その体つきは騎士にふさわしくがっちりとしている女の子でした。


「ここは私にお任せあれ」


「珍しくやる気だなローズ。良し、頼むぞ」



そういうと、ローズという若い女騎士は目にも止まらぬスピードで私の前に移動し後ろに手をまわしました。

そしてゆっくりと額縁で囲まれた羊皮紙と万年筆を取り出しました。そのどちらもピンクでかわいらしい羊の装飾がされていました。


「ファンなのでサインください。宛名はローズちゃんでお願いします」


「ローズ!!貴様は緊張感というものがないのか!!」


キリッとしていたダンバートは、すっかり困り顔になっており王国の一騎士から、まるで妹をしかる兄のようになっていたのです。


「会長、シスター姿のシスティ姫なんて今後一生お目にかかれないですよ。目にしかと焼き付けとかないと」


「に、任務中は会長と呼ぶな!!」


「え、何〜?会長って何〜?え、おじさん気になるな〜」


意地悪くアランが聞くと、顔が赤くなっているダンバートをしり目にローズが話をつづけました。


「私達はシスティ姫ファンクラブに所属してて、私は副会長でダンバート様は会長なんです」


「やめろ!!それを言うな!!」


「わぁ、なんだかドキドキしますね。自分のファンクラブがあるなんて」


「泥酔した姿、見たことないんだな」


「なんですか?」


「いや別に」


「やっぱり実物は可愛いです。お人形さんみたいです。握手もいいですか?」


「はい、もちろんです!」


「餅ーーー。手がすべすべもちもちぷにぷにのお餅ーーー。生まれてきてくれてありがとうございます」


ローズはほぼ表情を変えず感情も出さずに淡々と私の事をほめちぎりました。こんなに急に褒められたこともないので、すっかり私はいい気持になってしまいました。


「あと、すいません会長も握手してあげてもらっていいですか?一応会長なので」


「えっ」


「こんなことでよければいくらでもどうぞ。ダンバートさん?ですよね。いつも王国の平和を守っていただいてありがとうございます」


「あ、あ、あの。ぼ、ぼ、ぼくはその。いや、嫌だという意味ではなくて……。あぁ、もう!!とにかく!!私は貴方を連行しに来たんですから大人しく城にお戻りください!!」


「なんで俺が捕まんなきゃいけないのよ〜。キョウは口数少ないのに大事なことは言わないから、今回だってなんで捕まえんのか教えてもらってないんじゃないの?」


「うっ」


「図星か」


「おっしゃる通りでキョウ戦士長が何考えてるかわからないんですよねー。だから私たちもこの作戦に何の意義も感じてないのでやる気がないのです。なにより、かわいいシスティ姫様を守るために騎士になったのにこんなことで嫌われたくありませんもん」


「ロ、ローズさんもかわいいですよ」


「神ファンサ……」


「そっか~上からだと大変だな~」


「ですねー。出世すると大変だー、会長」


もうすっかり頭を抱えてうずくまったダンバートは大きくため息をついていました。


「でも、ダンバートさん。私達本当にただ旅をしてただけで…本当に何もしてないんです。信じてもらえませんか?」


「ほらー姫様もこう言ってますよー?」


「……わかりました。撤退します」


「本当ですか!?」


「会長……いいね!」


「アランさん、その名で呼ばないでください」


「ただし、何もなかったと報告するわけにはいかないので、ここで何してたかだけを教えてください。それを聞いて、私がキョウ戦士長に納得していただけるよう説明いたします」


「ありがとうございます!!」


「い、いや、大したことではないんですよ、ハハハ。では何をしてたか、お願いします」


「はい!!私たち今から転移するんです!!」


その瞬間、夜に赤い切れ込みが入りすべてが赤色に包まれました。そしてすぐに目の前で爆発がおきました。私は、わけもわからず混乱その場に座り込みました。

その時の私は飛んできた瓦礫が届かなかった理由が勇者が咄嗟に出した防御魔法であることにも気づきませんでした。

爆発の中心、土煙の中出てきたのは大きな槍を持った女性でした。

黒い髪に赤い瞳が月に照らされ綺麗だなと思うと同時に死神はこんな姿なんだろうという圧迫感に支配されていました。


「キョウ戦士長!?なぜ!?ここに!?」


「全部聞いてたのか。真面目でむっつりなお前らしいよ」


「黙れ」


「ま、待ってください。ちょ、ちょっと落ち着きませんか。多分何か誤解があると思うんですよ。転移といってもあの、その。あ、そうだ!ほら、コーヒーを飲みましょう、ね!」


「姫様言ってやれー」


「馬鹿か、貴様は。殺されたいのか!」


キョウはゆっくりと私を見ると、口元に人差し指を持ってきました。

赤い瞳がカミソリのような向けられ私は蛇ににらまれたカエルのように動けなくなりました。


「システィ姫少しの間口を閉じていただきたい。私はアランと話をしているんです」


「ヒェ」


「落ち着けよ、姫ちゃんが怖がっちゃうだろ。何しに来たんだよ?」


「それはこちらの質問だ。転移とはどういうつもりだ?」


「転移ってもただの移動だろ、目くじら立てんなって」


「……」


「?なんだよ?」


?」


「?俺は俺だろ。こんなイケメン他にいるか?」


「……そうか」


「話しても無駄だ」


キョウは、槍を持ち戦闘態勢に入りました。キョウの持つ槍から出ていた赤い炎と蒸気がとまり、それと同時に剣先が赤く染まり始めました。そしてその熱で刃先に近い空気が歪んでいるのが暗闇でもわかりました。


「付き合ってやるよ」


アランも剣を抜き、電撃をまといました。

城で見せた電撃とは違い、密度の濃いもので、周囲の地面に当たるとそこがえぐれその威力が城の時とは桁違いなのがわかりました。


「これは本気マジですねー」


「ど、どうしてですか?転移ってそんなに悪いことなんですか?」


「わかりません。ですが最優先は貴方です。私達は貴方を必ず守ります。ローズ、防御三式を最大展開、正面は私に任せろ」


「了解。姫様、ローズ達の後ろにいてくださいねー。傷一つつけませんよ」


私は、怖くなりました。事を簡単に考えていたのかもしれません。

目の前にいるアランとキョウが本気でぶつかるかもしれない状況を私の不用意な一言で起こしてしまったという現実が受け入れられませんでした。


数秒の睨み合いが続いた後、突然アランが笑いだしました。


「何がおかしい?」


「いやさ、お前は本当に変わんないなと思って」


「……どういう意味だ?」


「目の前の事にまっすぐすぎなんだよ。それがいいとこでもあるんだが、おかげで時間稼ぎにはなった」


私は無意識にしたの地面をみました。

かすれていましたが、底には何か曲線が書いており、瞬時にこれがなんなのかを理解しました。


「魔法陣──」


「姫ちゃん、目潰れ!!」


「ひゃい!!」 



反射的に目を瞑ると、前からアランが何かを呟きました。

地面が強烈な光を放ち私以外の人たちが苦悶の声をあげた瞬間、私の体が浮き誰かに抱えられました。そしてものすごい風が起こったのです。恐る恐る目を開けるとそこがはるか上空で、アランに横抱きにされている状態だということに気づきました。


「何してるんですか何してるんですか何してるんですか!?」


「悪いがあいつとやってまだ死にたくないんだよ。あんまり暴れないでな、落としちゃうから」


「だからってなんで飛んでるんですか!?」


下も見れないほど高く飛び上がったアランの下では、光っていた魔法陣が黒く染まり、底から手のようなものが伸びてアランと私を掴み、そして闇にものすごいスピードで引きずり込もうとしてました。

内臓全てが持ち上げられ感じたことのない浮遊感を感じましたが、地面にものすごいスピードで近づく恐怖感の方が強く気を失いかけていました。


「じゃあなむっつりスケベ!!次会う時まだに詰めの甘さを直しとけよ!!!」


「きゃーーーーーー!!!!!!!!」


地面につくときにかんじるはずの衝撃はなく、どぷんと水の中に入るような感覚の後、私の意識はなくなっていきました。






 





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