第35話
二回戦が始まった。将平は、一回戦が不戦勝だったので、これに勝つともう決勝だ。しかし、初めての全国大会。怖い者なしの開き直りで、下がらずに、ひたすら前に出て前に出て、刻み突き逆突き刻み突き逆突き。まず主審が
「技有り」
将平は、自分でも分からす
「えっ」
主審の
「続けて始め」
で、飛び込んで中段突き。
「えいっ」
と、ものの見事に、相手の中段に拳が入って、主審の
「技有り、一本」
で、あっさり2対0で、全国大会の初戦に勝ってしまった。
(よしっ)
さあ、これから決勝戦だ。主審が
「1分間の休憩」
と。将平が連続の試合となるので、その処置なんだが、将平は早く続けて試合に挑みたいと。ふと見ると、香山師範が、コートの向こうから将平に対して、胸の所を押さえている。
(落ち着け)
と。そして武山師範は、コートの横にわざわざ来てくれて
「頑張れよ」
と。これは、心強い。
早くも1分経って。相手選手は、愛媛の倉田選手、年齢も将平と同じ。
互いに礼をして、主審の
「勝負、始め」
の言葉で、2分間の決勝戦が始まった。
まず将平の得意の刻み突き逆突きが、ものの見事に決まって
「技有り」
(あと一本だ)
将平はそう思ったが、そこから。将平の上段突きと、倉田の前蹴りが同時で、副審が
「相打ち」
の合図。
倉田の上段突きが将平の顔面をとらえたが、審判は取らない。
将平は、
(痛いな、この野郎)
と、今度は倉田の顔面に仕返しとばかりに突きを出すが、一本にならない。
二人共に腰が入ってないから。
まさしく残り1分の死闘を演じたが、将平の蹴りのわずかな隙に、、中段突きを、入れられてしまい、1対1だ。
あと将平も倉田も、ここからは追い上げる方が有利に展開する。
将平の得意の刻み突き逆突きは、相手に読まれてもう入らない。と、思っていたら、不用意な逆突きにカウンターで返されて、主審の
「技有り、一本」
で、将平はあえなく負けてしまった。
準優勝だ。
初めて初心者の部で、出場した大阪府大会でも準優勝、そして全国大会も。
将平には、準優勝が似合っているのか。
「俺らしいわ」
と、自分で納得してしまっている。しかし、しかしだ。自分がこんなにもできるなんて、思ってもみなかった。右足親指を捻挫して、誰が棄権しよだ。出場して良かった、ほんとに良かった。まさしく結果論だ。
一生の思い出ができた試合だった。右足親指の痛みが、今頃になって疼き出した。
親父に
「気の小さい奴」
と、言われ続けたこの俺が。
将平は、静岡武道館から外へ出て、真っ青に晴れわたった大空に向かって叫んだ。
「押忍」
(終わり)
【参考文献】
・ベスト空手 中山正敏
ベースボールマガジン社
・空手道新教程 中山正敏
鶴書房
・空手四大流派基本形
宇佐美里香
ベースボールマガジン社
【協力】
・NPO法人日本空手松濤連盟
大阪府本部
・NPO法人日本空手松濤連盟
総本部
・修道館
・進光ボクシングジム
・三国志 吉川英治 講談社
次の更新予定
30日ごと 23:00 予定は変更される可能性があります
押忍 赤根好古 @akane_yoshihuru
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