お題:コーヒー牛乳 的外れ 成長

 ふと、気が付いた。この子、相当土埃で毛が汚れている。

「お風呂いこっか!」

 突然に言い出したけれど、天はそれを受け入れてくれた。


 銭湯に付くと、おじちゃんたちとかから凄い眼を向けられた。天のことをコスプレ美少女と思っていたみたいだけれど、天が本物の猫ちゃんだとは気づかれなくてよかった。天がいやらしい目を向けて来た人を威嚇するのを抑えるのは大変だったけれど。

「だれも居ないみたいだね~!」

 服を脱ぎながら、天に話しかける。

「そうじゃの。いいことじゃ。」

 正体がばれるとどうなるかについては、学校案内の途中でみっちり教えておいたし、本人…本猫も理解していた。さすが天才猫ちゃん。

「って……下着来てないの?!」

 セーラー服を脱いだところで天を見ると、ズボンを下ろす途中で、陰部が丸見えになっていた。

「…下着ってなんじゃ?」

 天才猫ちゃんの知識は、どうやら穴だらけみたいだ。

「今はいいや…お風呂あがったらすぐお洋服階に行こうね。」

「む、なんじゃその子供を見るような目は!儂は人間なら89歳相当じゃぞ!」

 その謎の知識をもう少し人間の生活に割いてほしかったよ…。

「はい、行くよ~。」

「ま、待つのじゃ!」


 わしゃわしゃわしゃ。

「うぬ~。」

 わしゃわしゃわしゃ。

「んひゃう!」

 わしゃわしゃわしゃ。

「あっ、そこ…らめっ///」

「何でしっぽ洗うだけでこんな背徳的な気分にさせられるの!?」

 なんか、エロい、エロいよ、天。

「えい!」

「んむ~!ふむ~!」

 左手で口を塞いで、右手で垢すりをごしごしとしっぽを洗う。

「ん゛っ、んぁ…お゛っ…。」

 漏れ出る声がより煽情的っっっ!あと小刻みにびくびくしないでっっっ!そんな中でもなんとか洗い切って、シャワーで流す。

「ふわぁ~、気持ちええのぉ。」

「じゃ、お風呂入ろうか!」

 私たちは、誰もいないお風呂の中に入る。

「ふぅ~。」

「温かいの。」

「そうだね~。」

 返答が乱雑になっている。天と会ってから頭を使い過ぎたせいだろう。

「……文、お主はなぜ儂にそこまでこだわるんじゃ?」

 唐突に、天が訊いて来る。

「えっ?…うーんとね、そうだな、可愛いから!」

「面食いじゃの…。」

「そういうことじゃないけどな!中身も可愛いじゃん。」

「んなっ。」

 赤面して、尻尾を立てて、目を逸らす天。やっぱり可愛い。はすはすしたい。

「そう言う反応、襲いたくなっちゃうよ~。えっへへ~。」

 思考がやばい。ちょっとまずそうだ。

「もう上がっちゃおうか!」

「そ、そうじゃの。儂ものぼせて来たわい。」


 風呂上りにはコーヒー牛乳!一気飲みの所作を教えて、二人でイッキ飲みした。なんかお風呂の中で色々すごいことを言っちゃった気がするけど、大丈夫だと思いたい。なんか天ちゃんが微妙に離れているのも気になる。これはあれだ、俺、なんかやっちゃいましたかパターンだ。

「えーっと、尻尾触られるの嫌だった?」

「……もういいのじゃ。」

 的外れな事を言ったみたい。コーヒー牛乳の瓶を捨てて、銭湯を出る。


 それからしばらく、無言で私の後を付いて来る天。

「……ね、次どこ行く?」

 そう聞いて振り返るや否や、ばたり、と天が倒れる。

「天…天?!」

 病院っ…は不味い。でも、この状況。頼れる筋は多くない。私は、唯一心当たりのある人物に電話した。



「……そうだね、端的に言えば大量の栄養を必要としている。これは知恵熱だよ。突然人間と同じレベルの思考をし始めたから、身体にもとからあった栄養では足りてないんだ。」

 その相手、和湯〔わゆ〕信二〔しんじ〕は、川辺の草むらに寝かせた天を診て言った。

「一応、経口ゼリーを持ってきてるから、これを食べてしばらく待とう。」

「うん、分かった。」

 和湯君の取り出したゼリーを口に当てると、天はそれにがっついて吸う。

「……文、俺は届け出た方が良いと思う。俺の診断も絶対じゃない。たかが一生物部員の意見を信用しない方がいい。研究されるのが嫌だって言うなら、その飼い主を頼ればいい。人権だの動物愛護法だの、法的側面から攻めれば少なくとも時間稼ぎはできる。」

 和湯君の心配は最も。私一人だけで続けて行けるかと言われれば、それは難しい。

「……この子、喧嘩するの始めてみたいなの。とっても清い心の持ち主で、私はこの家出を出来る限り成長の糧にしてほしいと思ってる。そのために、他の人には頼れない。…あなたくらいしか、信頼できる仲間がいないの。あなたなら、絶対に私のお願いを裏切らないでいてくれる。その信頼がある。」

「っ……。」

「お願い、力を貸して。」

「………分かった。」

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文芸部員は天を観る HerrHirsch @HerrHirsch

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