ニーナの愛情
私は生まれた時からずっと病弱だった。
というのも、生まれながらに朽ちた精霊をその身に宿してしまっていたのだ。
朽ちた精霊より私の体は常に内側から蝕まれ続けていたと共に、外部からの影響も受けやすくていつも病気に罹ってしまっていたのだ。
「……」
だからこそ、幼少期の私の記憶は常に、真っ白な病院の中だった。
「おはよう。今日も元気?」
そんな私の元には毎日、お兄様だけは甲斐甲斐しくやってきてくれていた。
「体調は良くなっている?」
あの時の私は本当に酷い子だった。
親切心で、他の誰にもない、唯一私への愛情をもって病室を訪れてくれるお兄ちゃんに対して。
「うっさい!あんたが来たくらいで何も変わらないわよっ!」
私は八つ当たり気味に、毎日のようにお兄様へと声を荒らげていた。
「そっか、ごめんね」
何て、何の言い訳にもならない。
それでも、お兄様は私に向かって優し気な笑みを向け続けてくれていた。
……。
…………。
そんな日々が流れ、運命の日。
「僕の妹に何をしようとしているのかな?」
私の体内にいた朽ちた精霊───朽ちていたはずの精霊が活性化し、私の体から這い出て自分へと牙を剥こうとしたあの日。
周りの人間が私を置いて逃げる中、自分のことを守ってくれたのはお兄様だった。
「君の魂、死者の王たる僕がもらい受けよう。君の膨大な力はこれから、ニーナの為に活かしてくれ」
あの日に初めて見る死者を支配するというお兄様の魔法が精霊をも圧倒し、私のことを守ってくれたのだ。
「大丈夫だった?」
「うん……おに、いや、お、お兄様?」
「はっはっは。急に言葉が丁寧になるじゃん。それもいいけど、いつもの反骨心溢れる言葉遣いじゃなくなるのはさみしいな」
お兄様だけが助けてくれた。
お兄様だけが長年、私のことを気にかけてくれた。
お兄様だけがずっと、私のことを愛してくれていた。
「おにぃ!」
「ごめん、ちょっと忙しいから」
それなのに、元気になってからのお兄様はずっと私を遠ざけていた。
違う。お兄様が悪いんじゃない。私が悪かったのだ。
私を助けてくれたあの日、初めて死霊魔法を見せたあの日からあの父を初めとする無能たちがお兄様を恐れ、ぞんざいに扱うようになったのだ。
お兄様は私を遠ざけることによって、複雑な立場に私も巻き込むことを避けたのだ。
元はと言えば、私を助けるためだったのに。
私は、私は本来あるべきお兄様の姿を奪ってしまったのだ。
『今日はさ、孤児院の方のお手伝いをしたんだよね。いやぁー、彼らが喜んでくれて良かったね。あの子たちが健やかに暮らせるような領地にしたいね』
民衆たちに顔を出し、その様子を嬉々とした様子で話し、民衆たちの為に政治を掲げていたお兄様を私が奪ってしまったのだ。
お兄様に聞けば、あんな立場になんて拘りなんかないよ、って答えると思う。
でも、確かに、お兄様は領民の為に動いているときが一番楽しそうだったのだ。
……。
…………。
「ようやくです……」
過去を思い出す。
ここまでのことを。
ずっと、お兄様に助けられてばかりだった。
だから、少しでも、少しでも恩返ししたかった。
「お兄様を本来あるべき立場に戻せました」
少し前に自らの意思で去ったアイラン侯爵家の執務室。
そこには、ぶつぶつと文句を言いながら、それでも楽しそうな雰囲気のまま執務作業に取り組むお兄様の姿があった。
「あぁ……」
カルミア王国とニルシア小国の戦争。
それを利用し、ユラナスとガクの二人を利用し、お兄様がアイランク侯爵家の当主になれるような下準備を徹底して進めてきた。
そして、それが実った。
「おにぃっ!」
私は息を吸い、そして、執務室の中へと入っていく。
「ちょっ!?」
「えいっ……すぅ、はぁー」
お兄様へと抱き着いて、深呼吸すれば、お兄様成分が私の全身を駆け巡っていく……ふへへへへ。
「こらっ!吸いに行くな!」
「おにぃ、これから、一緒に当主業頑張ろうね?」
「別にお前が当主の座でもいいんだよ?補助じゃなくて、あと、お前の立場は何?」
「おにぃの横」
「横なんていう職種あったかな?」
奪ってしまったお兄様の席。
そこにお兄様が座ってくれている。
「頑張ろうねぇ……二人で」
私は、ようやくお兄様に追いついた。
……。
…………。
悪役貴族に転生した僕は破滅フラグから逃れるために貴族家から追放されるように仕組んでその後に冒険者となったらヤンデレと化した妹が追いかけてきた件、完。
悪役貴族に転生した僕は破滅フラグから逃れるために貴族家から追放されるように仕組んでその後に冒険者となったらヤンデレと化した妹が追いかけてきた件 リヒト @ninnjyasuraimu
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