第3話 罠を踏みまくるなー!



 レベルが110。

 一気に100レベル上昇した。

 ステータスプレートの故障かと思ったが、これを否定してしまったらエルザを吹き飛ばしたゴーレムを一撃で倒せた説明ができなくなってしまう。


「いやー、マイルス。上級探索者なら早くそう言ってくれれば良かったのに。そりゃ、あの程度の魔物なんか君の実力に敵いっこないよね」

「いや、違うんだエルザ……」


 俺の元のレベルが10、だと正直に言おうとしたが詰まる。

 正直に言ったところで彼女は、果たして納得してくれるのだろうか?

 俺だって何故こんなにレベルが跳ね上がったのか知らない。


 隠し部屋の螺旋階段を上って、それでステータスプレートのレベル欄がバグって、11階層に着いたら100レベ以上になっていた。

 有り得ないって、笑われるだけだろう。


 もし信じたとしてもエルザが誰かに話さないとは限らない。

 俺の話しを真に受けて、ダンジョンに潜り込む連中がいるかもしれない。

『隠し部屋を探そう探検団』が結成されるかも……。


「ん? なにが違うって?」

「あ、いや、あのゴーレムはエルザが最初にダメージを与えたから、弱っていて、それで簡単に倒せたかもー、はは」

「いやいや、そう謙遜なさるな!」


 エルザに肩を思いっきりたたかれる。

 痛っ、くない?

 攻撃力だけじゃなくて防御力も上がっているのか?


「あ、そうだ。マイルスだけだと不公平だよね。ほら」


 とエルザが何かを投げ渡してきたのでキャッチする。

 近くにいるのだから普通に渡してほしい。

 ステータスプレートだ。


《エルザ LV89》


 かなり高い。

 普通にA級パーティに所属できるレベルだ。

 しかも剣の実力はかなり高いし、一体どのパーティが彼女を置き去りにしたのか。


「マイルスの方が高いけど、私も結構頑張ってるんだー。子供の頃から『リーンべヘイム』の道場で剣術を習っていたの」

「リーンべヘイムって、君の故郷だよね?」

「そうそう、てか殆どのエルフの出身地だよね」


『リーンべヘイム』

 世界で最も幻想的で美しいと言われている長耳族の大都市だ。

 自然に恵まれおり、精霊様が王様だとかなんとか。


「私の仲間たちも全員そこから来たの。なんと、全員エルフですっ」


 得意げにおっしゃるエルザに、一ヶ月前の記憶が遡る。

 あれは、一人で酒場で呑んでいたときのこと。

 後ろでハゲた荒くれの探索者が愚痴ていた内容を思い出す。


『近頃、この町にやってきた余所者のエルフ共がデカい顔をして俺達のダンジョンを荒らしやがっている』

『合理的思考のリーダー野郎が、非効率の馬鹿なお前らに狩り場を使わせない。大人しく素人用の狩り場でレベル上げでもしてろって。くー! ぶん殴りてぇ!!』


 聞いていたら俺も殴りたくなったのは鮮明に憶えている。

 もしかして、この子もその悪い噂のパーティの一員なのか?




「あっ」


 エルザが何かを踏んだことでカチッと音が聞こえ、俺はすぐに彼女を突き飛ばした。

 上からスパイクの天井が降って、彼女の立っていた地面が粉砕される。

 あと少し遅れていたら串刺しだ。


「わぁ、罠だったか。ごめんねマイルス。油断してた」

「いや、無事でよかったよ。怪我は……ないか」


 頑丈なエルザが突き飛ばされた程度で傷を負うとは思えない。

 だけど流石にこのままだと危ないので俺が先頭に立ってあるくことにした。


「あっ」


 カチッ。

 後ろを歩いていたエルザがまた何かを踏んでしまい、罠が作動する。

 壁から炎が放出される罠だ。

 エルザは高い反射神経でブリッジして、白いパンツをさらしながら一回転で避けてみせた。


「ごめんねー、また罠を作動させちゃったみたい」

「……エルザ、罠の避け方は知っているか?」

「え、うん、さっき避けてみたじゃん」

「そうではなく、最初から作動させないように避けることだよ。一部だけ色が違っていたり、くぼんでいたり、知らない?」

「……ええと、知らないかな」


 89レベルとなれば嫌でも身につくであろう、罠回避能力が全く無いエルザさんでした。

 それは、ちょっと危険すぎるので、罠を踏まないようアドバイスすることにした。


「それじゃ俺の踏んだ所以外は踏まないように歩いてみてくれ。それなら大丈夫かも」


 カチッ。

 ダメだった、エルザがまた罠を踏んでしまった。


「俺の歩いた所しか踏むなって今言ったばかりだろ!? なんでまた……!?」

「だ、だって、マイルスの踏んだところなんか憶えてないよ……」


 汗を垂らし、指をもじもじとさせるエルザから悪気を感じ取れなかった。

 天然なのだろう、仕方がない。

 靴を脱いで裏面に朱いペンキ玉を塗る。


 両靴を吐き直して、地面を歩いてみる。

 地面に俺の足跡がくっきりと残ったことで、エルザが目を輝かせた。


「うわー、頭いいね! これならマイルスの踏んだところが分かる! すごいよ!」


 喜んでくれて何よりだけど、こうまでしないと罠を踏み続けるエルザさんも、もっと頑張ってほしい。


「ありがとう! これお礼ね!」

(………えっ)


 そう言ってエルザは俺の手を掴んで、自分の胸に押しつけた。

 状況が飲み込めず硬直していると、一揉み二揉みさせてもらい、手を解放される。


「副リーダーが男はこうすると喜ぶって言ってたから、初めてだけどやってみましたっ。どうだった?」

「トテモ、ヨカッタデス」


 上目遣いでニコリと笑う長耳族エルザ。

 大胆すぎるご褒美に、上機嫌に先を歩いていってしまうエルザの背中を固まって見つめることしかできなかった。


 そして、また罠が作動してしまい、俺の頭上に岩が降ってきた。

 岩が真っ二つに割れて、我に返った。


 二つの意味で、なんて危険なエルフの娘なの――――!?







 ――――そんな二人の後を、赤いフードを被った小柄な誰かが、静かに追っていた。


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A級探索パーティから追放された最弱の探索者、一階層上がるたびに100レベル上昇するスキルに目覚める。〜最強のダンジョンマスターと呼ばれるようになり、元仲間に戻ってこいと言われるがお断りします〜 灰色の鼠 @Abaraki123

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