第2話 100レベ上がったんだが
「―――頭を下げて!」
薄暗い空間から声が響いてビックリしたが、パーティで皆の指示を聞いてばかりだったおかげで反射的に頭を下げた。
瞬間、頭上に閃光がほとばしった。
魔力で剣が緑色に輝いて、それを上段に構えている美少女。
何に対して攻撃を行っているのか、すぐに分かった。
高さ5メートル以上はある二足徒歩の魔物”ゴーレム”だ。
美少女は雄叫びを上げながら剣を振り下ろして、ゴーレムを真っ二つに両断した。
「いっちょ上がり!」
美少女が華麗に剣を回転させながら鞘に収めるまでの動作に見惚れる。
ゴーレムは魔物の中でも比較的に硬い部類だ、それだけではなく形状上内部にある核がどこにあるのか見つかりにくい。
「ダメじゃないか、魔物がうじゃうじゃしている空間でボーッとしてちゃ」
呆然と立ち尽くすこちらに気づいて美少女はフレンドリーに近づいてきた。
薄暗くてよく見えなかったけど耳が尖っている、もしかしてエルフなのか?
「名前は? 何レベルの探索者? ここで何してたの?」
「あ、えと……」
「装備、すっごく汚れてるけど迷子になった感じ? 仲間は近くにいるの?」
なんか、すごい質問してくるな、このエルフ。
初対面なのに距離感バグってるし。
仲間以外は女性慣れしてないので返事に困ってしまう。
「マイセルと申します。実は仲間とはぐれてしまい3日間、右往左往していたところこの部屋に着いたのですが、ゴーレムがいたとは思わず……」
パーティを追放されたことを正直に言ったら、印象が悪いので伏せておく。
「3日もダンジョン内で彷徨っていたの!? 可哀想に!」
心底、同情したエルフに手を掴まれる。
悲しそうな顔が至近距離まで近づいてきていい匂いがする。
「えっと……」
「私の名前はエルザリーネ、エルザって呼んでいいよ!」
「あの、エルザさんの方は仲間たちと一緒なんですか? 他に人が見当たらないのですが……」
「ああ、皆なら……あっ」
エルザは変な声を出して、なにかを思い出したのか自分の頭を掴みはじめた。
その場にうずくまり絶望している。
「そうだった、私……置いてかれたんだったぁあああ!!」
「え?」
「寝袋で寝ていて、起きたら周りの皆が居なくなっちゃって、11階層を探し回っていたの……ずび」
涙と鼻水とヨダレでぐちゃぐちゃになった顔でこちらを見上げてくる。
ああ、たぶん彼女も俺と同じ用に追放されたクチなのだろう。
本人の焦り方からして追い出されたというよりかは、はぐれたという認識なのだろう。
ところが、エルザのようなパターンは一番よくあることだ
かくいう俺も仲間たちが寝ている間に夜逃げしている経験があるからな。
「詳しいことは聞かない。だけど、仲間とはぐれたならダンジョンの外に一旦出たほうがいい。エルザは強いかもしれないけど陽の届かないところに長時間居続けるのは危険だ」
「わ、わかってるけどぉ……」
「仲間たちの身の回りの世話、罠の解除や道案内、それが俺の得意分野だ。だけど魔物を倒せないぐらい弱い。だから代わりに戦ってくれる人が欲しい」
泣き崩れるエルザに手を差し伸べる。
このダンジョンから出るためには知識だけでは難しい。
魔物たちと戦うため戦力も必要だ。
だからパーティというものが存在する、一人ではダンジョンを生き延びることはできない。
「じゃ、パーティを組もうか!」
こっちが提案する前に、エルザの方が乗り気で提案してきた。
手をぎゅっと握りしめて起き上がらせる。
「マイルスは帰れなくて困っているんでしょ? 私は困っている人が見捨てられないし、できるなら全員助けたい! だからマイスルのために私がんばりますっ!」
エルザは頭に手を当てて、舌をつきだす可愛らしいポーズで言った。
言いたいことを全部言う性分なのか、ただの素直なのか。
こんな性格でもゴーレムを一撃で屠るほどの実力者なので心強い。
「それじゃ探索で得た報酬についてどう分けるか、後から揉めないように話し合うとしよう」
「別に私は報酬や金は……」
「いいや、無償で助けてもらうことはできない、ここはしっかりと―――」
目を小さな点にして難しそうな顔をするエルザの背後に忍び寄る影に気づく。
エルザが倒したはずのゴーレムだ、いや先程よりもでかい。
しかも傷が修復している。
「エルザ後ろだ!」
「――――っ!」
俺の声と同時にエルザは鞘から剣を抜いて、背後へと振り上げていた。
彼女が何レベルなのか、まだ確認していないが剣の腕は本物だ。
素早く放たれたエルザの斬撃がゴーレムの胴体を真っ二つに斬り、
「なっ!?」
ゴーレムは身軽にエルザの斬撃を避け、勢いを乗せて彼女を壁へと蹴り飛ばした。
派手な破壊音と共に壁を突き破ったエルザの姿が見えなくなってしまう。
消えた彼女に興味が失せたのか、ゴーレムはゆっくりとこちらに顔を向けてきた。
迷うことなく背中を向けて全力でダッシュして逃げる俺。
あんなデカい魔物に、豆つぶの俺が勝てるはずがない。
エルザには悪いが、ここは自分の命を優先して逃げるべき―――
「かかってこいや!! ゴーレムううううううう!」
無意識に逃げるのを中断して、ゴーレムと相まみえる。
合理的じゃない、命を投げ出すような選択をとった自分に驚いてしまう。
弱い魔物にも勝てない、最弱探索者なのに。
仲間たちにも追い出されるような役に立たない人間なのに。
どうして足を止めてしまったのか。
(エルザが生きているのか死んでいるのか、直接見にいかないと分からない)
岩のように硬くて重いゴーレムの一撃をモロに喰らって、生きている人間は多分ほとんどいないと思うが、彼女はエルフだ。
俺たち普通の人間よりも頑丈で柔軟だ、生きている可能性はゼロじゃない。
(だけど、はぐれ組同士、助け合うしかねぇだろ!)
ゴーレムが拳を振り下ろしてきた。
怖い、怖いけどここで逃げたら、弱いだけじゃなく最低のクズに成り下がってしまう。
震える足をなんとか抑え込み、ゴーレムの巨大な拳を睨みつけた。
迎え撃つように、俺も全力で拳を振り上げる。
ゴーレムの腕が崩れ、それが胴体にまで広がり、胸部に隠れていた核が輝いた。
次第に輝きを失っていき、核は脆いガラスのように小さく割れて消滅する。
ゴーレムの全身が崩れ、降ってきた岩が頭にぶつかるが、何故か痛くなかった。
(あれ、倒した……?)
信じられない光景を前に呆然としていると、壁の方からエルザが凄まじい剣幕で飛び出してきた。
身体中に傷を負いながらも、剣を手にしてまだ戦おうとしていた。
「あれ、これってゴーレムの残骸? でも誰が? あ、もしかして!!」
エルザは剣をしまって、こっちに近づいてきた。
あの巨大に飛ばされて壁を突き破ったのに元気ピンピンだ。
エルフは人間より頑丈だと言ったが、ここまで頑丈だとただのエルフではないことは明白だ。
「マイルスが倒したの!? すごい! すごいじゃない! 変異したゴーレムは私でも倒せるか分からなかったけど、それを一人でやっちゃうなんて凄いよ!」
変異体とは、濃い魔力で強くなった魔物のことを指す。通常状態の魔物の上位互換になると言った方が分かりやすいだろう。
いや、それじゃない。
なんで俺がゴーレムを倒せたのか、それがおかしいのだ。
「ねぇ、ステータスプレートを見せて! 何レベルが教えてよ!」
「ちょっと……!」
首にかけていたナンバープレートを取られる。
別に読んでも面白いものではないし、隠すような能力値じゃないので開示を許可する。
「えっとレベルは………えっ!?」
固まるエルザを不思議に見ながら、俺も自分のステータスプレートを覗き込む。
おかしい部分はない、そう思っていた。
レベルを見るまでは———
《マイルス LV110》
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