スカイとマリン。
kuzi-chan
スカイとマリン。(完)
(小さな2人が結婚を決めました。)
(それが悲劇となりました。)
(日常と非日常は。同じ景色で起こるのですね?)
(残酷です………。)
(これは。人知れず起こった…悲しい出来事のお話しです。)
(スカイくん6年…マリンちゃん5年の寒い日でした。)
……結婚式。
世界中で…たった二人だけの結婚式。
冬の空は寒いけど。
今やらないと手遅れになってしまう。
春にはスカイくん……。
私立の中学に行ってしまいます。
家ごと…家族ごと。引越ししてしまう。
今やらないと。
もう…もう。別々になって…会えなくなってしまう。
マリンは5年生。来年…6年。だから。まだまだ。ここにいなくてはなりません。
中学は…すぐ近くの中学校に行きます。普通の中学校です。
……いやでした。
マリンは(いやっ‼︎)…って言いました。
何度もひきつった声で。何度も何度も(いやっ…)って言いました。
でも……。
マリンのおウチに。引越しの予定はありません。ずう〜っと…この町にいます。
だから……。
マリンちゃんとスカイくん。
春には…完全にお別れするのです。永遠に近い。お別れになるかもしれません。
そうです。
小さな2人には…あまりにも遠い距離でした。どうしようもありません。
小学生には…どうすることもできない。悲しい。抵抗できない運命でした。
それが…もうすぐやってきます。
あっというまに。お別れの春がやってきます……。
……スカイとマリンは決めました‼︎
小さな2人は決めました。
結婚することに決めました。
結婚すれば離れられない。そうです。日本の法律です。
マリンのパパとママも。スカイのお父さんとお母さんも。
法律があるから一緒に暮らしているんです。日本の法律です。みんなそうですっ。
この2人だってそうです。
マリンはスカイくんが好き。
スカイはマリンちゃんが好き。
家も隣りで…幼なじみ。ずう〜っと一緒に生きてきました。普通に暮らしてきたんです。
これからだってそうです。
一緒に中学いって…高校いって…大学いって…就職してっ。
そして。結婚しますっ。もう…それしか…考えられない。
だから。いまっ。
……結婚したっていい‼︎
小学生だって。子どもだって。好きだったら…はなれたくない。
スカイとマリンに疑いはありません。
だから。
冬休みに。2人だけで結婚することに決めました。
そうして。両方の親に(知ってもらう)…(わかってもらう)しかない。
…そう。2人は考えました。一生懸命っ‼︎
でも。お正月には…やりません。
だって。たぶん。2人の両親が見てる前で結婚式をやったって…笑われるだけです。
(えっ?)…って。
(何やってんのっ?)…って。
ただ。
笑われるだけです。わかっていました。
だから。
2人は。こうすることに…決めました。
どっかで…二人だけで。結婚式の記念写真をとるんです。動画でもいいです。
とにかく…何でもいいから。(証拠)を見せることにしました。
それを見せれば間違いない。絶対だ。2人は結婚したんだ。(カップル)なんだっ…と。
そう……考えました。
2人には時間がありません。
小学生でも。思いつめた心の内は…親にだって見抜けないものです。
親は。
子どもの全てを見てるわけではありません。
子どもの成長は。
親が感じる以上のスピードで広がります。
うれしい成長も。悲しい成長も。両方です……。
スカイとマリンは。
お正月がすぎた後の。(成人式)という祝日に結婚することにしました。
なぜかというと。
両方の親の子どもに…偶然。今年。成人式をする人がいて…何時間か家を留守にします。
スカイとマリンは。
その何時間か。家で…お留守番することになっていました。
だから…その時がいいと考えました。
2人には。それが最後の…ラストチャンスだと。強く…強く。思いました。
北国の港町は。まさに極寒に入ります。
町の木々も。カラスやスズメも。野良猫だって。寒くて寒くて我慢できない真冬になります。
厳しい…過酷な。北国の真冬に突入するのです。
マリンは(理科)が得意でした。
機械も平気でした。カメラもけっこう平気です。
パパが使ってない(デジカメ)…という昔のカメラも。
何度かさわっていたので。学校の宿題で写真とるから?…って言って。
かりて。今…あります。いつでも大丈夫でした。
スカイのほうは(デジカメ)…はじめてらしくて。
スマホと違ってコロコロした形で。へえ〜?って…楽しそうにさわっていました。
何度か練習したスカイとマリンは。
もう…大丈夫でした。うまく撮れそうでした。
そして。
その日が来ました………。
成人式。祝日。2人は。予定通りの…お留守番でした。
外は…とてもいい天気でした。
でも…寒い。とっても寒いっ。北国の冬晴れでした………。
朝ごはんをしっかり食べた…それぞれの家族は。
スカイとマリンだけを残して成人式に出かけました。
2人の子どもの顔と声…見るのも聞くのも。
まさかっ……。
これが最後だとは思わずに。
悲しい結末がやって来るのを予感できずに。
小さな子どもの恐るべき成長が隠されているのに…気づかずに。
しょうがない……。
知らなかった……。
じゃ…すまされない結末が待っているのに。
2人を残して。ほか…全ての家族は家を開けてしまいました。
そうして…スカイとマリンは。
この世界で。
たった2人だけの結婚式をしました。
場所は……。
(海が見える神社)でした。
2人の家から自転車で30分ぐらいの所にある。この地では有名な神社です。
海岸線に。波打ち際の小高い岩場の上に立つ…小さな神社でした。
ここは北の地…港町です。
いつも海風…潮風が吹いている。北の港町です。
歴史がある神社の建物は傷みが激しく。数ヶ月かけて…修復作業をしている真っ最中でした。
閉館中でした。
だから…今日は。工事の人も関係者もいない…静かな神社でした。
ただ。
人間世界には関係のない海ドリたちは。いろんな鳴き声で鳴きあっていました。
……真冬の海は寒いよお〜〜〜 ♪
……お腹がすいたよお〜〜〜 ♪
そんな。
浜に…ヒト気の無い境内に。いつもの海ドリたちの叫び声が聞こえていました。
小6のスカイと小5のマリンは。
それぞれの家にメモを書いて…家を出ました。
本屋さんと百均屋さんと焼きいも屋さんに。2人で行ってきます…と。
いつものコースでした。
しょっちゅう行ってました。
だから…それぞれの両親も。車や…変な人さえ気をつければ。ほぼ安心していました。
2人の…この日のための。予行演習でした……。
海の見える神社。
本当は。無断で(立ち入り)はできません。
でも……。
スカイのおじいちゃん…おばあちゃんが(この神社)の近くに住んでいて。
スカイは保育園の時から。元気に…右に左に走りまわっていました。
だから。(うら道)や(秘密の場所)は…よく知っていました。
スカイは冒険心がありました。
未知のことにドキドキするタイプでした。そのドキドキが…とても好きでした。
かと言って。
スカイが(この計画)を主導したわけではありません。
ひとつ下のマリンも…また。
意思が強く。芯の熱い5年生でした。
自分で決めたことには外見ではスルーしても。中身は…頑固さは…スカイに負けません。
もし……。
このまま生きて大人になって…普通の結婚ができたなら。
きっと。魅力的な大人の夫婦になったことでしょう。
かなわぬ。夢です……。
冬晴れでした。
でも…同じ冬晴れでも。
浜沿いは(浜かぜ)があります。海から吹く風は冷たく…我慢できないくらいでした。
スカイとマリンは…顔の表面だけを出して。
頭から足まで厚く着込んできましたが。それでも…ブルブルでした。
2人はお互い。自然に…身体をよせ合っていました。
マリンはお気に入りの。
かわいい。女の子に人気がある…スリムポシェットをななめにかけていました。
大好物のグミや。
ちょっと(のど)が痛かったので。(のどあめ)もひとつ…入れておきました。
ポケットティッシュと小さなお財布とファンシーグッズのミニ手帖も入れておきました。
厚手のハンカチも…当然あります。あとは家の鍵でした。
スカイは。
マリンちゃんチの(コンパクトデジカメ)を首から下げるのと。
あとは。開ける時…バリバリッと音がする。男の子の財布と…家の鍵でした。
そして……指輪です。
以前。となり町の大きなホビーショップで見つけた…光る指輪。
小さな豆乳や野菜ジュースに一緒にくっついてくる…細い段々ストローの下側のほう。
そのくらいの太さの。
夜とか…暗い場所で。じんわりと浮かぶ蛍光色の淡い光。そんなふうに光る指輪でした。
スカイは。
その淡く光る指輪を。マリンちゃんに内緒で買っておいたのでした。
そうして。
今日。この…2人だけの結婚式に。マリンちゃんにあげよう。指にはめてあげよう。
マリンちゃんをビックリさせてやろう。
おどろくだろうなあ……?
喜んでくれるかなあ……?
……なんて。そんなふうなドキドキの想像をしながら。
内緒で…ポケットにしまっていました。
2人の(おそろい)の300円の腕時計が。お昼をまわりました。
とにかく寒くて寒くて……。
6年と5年の2人は。
海岸線の…小高い岩場の上に立つ小さな神社を。
陸側の。一般道からの参拝ルートではなく。
スカイが秘密に知っていた……。
砂浜から。波打ち際の岩場を通る…(うら道)を行きました。
そして。
太い丈夫な金属チェーンと太いロープが。岩場の上の…神社裏からブラ下がってる。
ゴツゴツした…岩場の斜面を登った途中にある(くぼみ)……。
(秘密の場所)に…向かうことにしました。
子どもには。けっこうな高い場所にある…岩場の斜面にできた自然な(くぼみ)でした。
そこで……。
これから。2人だけの結婚式…記念写真を撮るのでした。
空は晴れていても…真冬の白波は冷たく見えました。
足をすべらせて落ちたら大変です。
硬い岩場にころげ落ちたら…大ケガじゃすみません。
さあ。2人は…慎重に行きました。
足が濡れるギリギリの砂浜から。黒いギザギザの岩場を歩き…斜面の下につきました。
ここからは。岩場の斜面を。ゆっくり確実に登らなくてはなりません。
浜風が吹いて…身体が(持ってかれそうになる)時は。ロープやチェーンを強くにぎります。
上に登るほど…海風は冷たくて。この時のために……。
あったかい厚めの防寒の服や…手袋。帽子…マフラー…防寒の靴。マスク。耳あて。
…と。しっかり準備はしてきましたが。
それでも……寒い‼︎
それはそうです。
大人でも耐えられない…浜風。海岸線の…重く冷たい潮風でした。
ゴツゴツした岩場の。小高い斜面の上に立ってる神社に向かって。
マリンちゃんを先にして登らせました。
下からスカイが押さえたり…万が一にそなえて防御するためです。
スカイは6年生。マリンを守るのは当然でした。
時に四本の手と足で。
時にロープやチェーンにつかまり…二本の足で。
ゆっくり確実に…登っていきました。
誰も知らない冒険でした。
工事の人も関係者もいない。誰もいない祝日でした。
この…小さな海の見える神社のまわりには。
今…スカイとマリンしかいません。
あとは。白波の海上を舞う…海ドリたちだけでした。
なんとか……つきました。
スカイとマリンは。
岩場の斜面の途中にある…けっこう高い位置の(くぼみ)に着きました。
そこは…自然にできた。
大人が4人ほど座れるスペースしかない狭さで。
大人が(かがんで)立てるくらいの高さしかありません。
そんな。低くて狭い…小さな(くぼみ)でした。
そこは。
荒れて…(わざわい)をもたらす海をしずめるために。年に一度お供えをして……。
恵みの母である海に…暴れないようにお願いをする場所でした。
神社のお祭りの…名物行事。神事をする場所でした。
スカイとマリンは。
なんとか予定通りに来ました。
誰にも邪魔されずに…2人だけで来ました。
お昼も…だいぶ過ぎたし。
早めに帰らないと…ウチで心配するから。
さっそく2人は。結婚を証明する。記念の写真を撮ることにしました。
マリンちゃんチのデジカメを。
(くぼみ)の入り口付近に。お供え物を上げる台を工夫して…その上に置き。
ハンカチや…その辺にあった布かなんかで角度を調節しながら。
タイマーを使って。何度か…試し撮りをしてみました。
もちろん。フラッシュもONにしました。
うまく…いきそうでした。
スカイとマリンは。
薄暗い。低くて狭い小さな(くぼみ)の一番奥に…並んで正座しました。
(くぼみ)の入り口から。すんだ薄い水色の…真冬の空が。
気持ちいいくらいに見えました。
スカイとマリンは。
身体を寄せあって見つめ合いました。
それは……。
子どもらしい純粋でした。
なにもないのです。
あるのは。純粋な気持ちだけでした。
スカイとマリンは楽しかった。うれしかった。幸せだった。
ねえ?…って言って。
なあに?…って答えて。
2人はずっと一緒。そう…思っていました。
スカイがポケットから…内緒で買った(光る指輪)を出すと。
マリンはとっても…喜びました。
わああっ…って言って…喜びました。
スカイは。
どの指に(はめれば)いいのか…少し悩んでいたので。
マリンが。
ここっ…って。左の薬指を。前に…そっと出してやると。
スカイは一気に安心して。
マリンの薬指に。そっと。光る指輪をつけてあげました。…かわいかった。
マリンはとっても…かわいかった。
指輪がちょっと大きくて。ゆるゆるだったけど………いい。
いいの。それくらいは……。
マリンは。指輪の手の平を…しっかり胸にあてると。
2人で正座して。身体をよせて。優しい笑顔になって。
スカイが(撮るよっ?)…って。そして…タイマーが。
……カシャ♪……
フラッシュがまぶしかった。
小さな画面を確認すると。予想以上の素敵な写真…出来ばえに。
スカイとマリンは。
これが…(結婚式の写真だねっ?)
これが…(結婚した証拠だねっ?)
…って言ってから。少し無言になり。大人のような会話もありませんでした。
(くぼみ)の中は。デジカメの画面からもれ出る明かりが…うっすら広がっていました。
そして。
マリンの結婚指輪も。淡く弱く…光っていました。
……結婚式は終わりました。
もう。
2時を過ぎていました。
早く帰らないと…本当にバレてしまいます。
(結婚式)が終わったら。急に寒さを感じてきた…2人でした。
お腹も少し…すいてきたし。
と…マリンがポシェットから。(グミ)と(のどあめ)を出して…(どっににする?)…って。
さすが〜マリンちゃん…って。スカイは思いました。
2人で(グミ)のほうを選んで。仲良く食べました。
幸せは…もろいんですね?
本当の幸せは…一瞬なんですね?
……事件が起きました‼︎
誰もいないはずの神社。
でも。
海ドリの写真を撮るのが日課の…大人の男が。
偶然……。
誰もいないはずの。小高い岩場の…斜面の裏陰に。
子ども用の自転車が2台。放置してあるのを発見して…不審に思った男は。
まさかっ‼︎……海にでもっ⁉︎
…と。周辺を探していると。小高い岩場の斜面にある(神事)の(くぼみ)にっ。
なにか…人影らしい者が見えたので。
ウソだろっ⁉︎…と思いながらも。
男は。大きな身体をロープにつかまりながら…登っていったのでした。
(くぼみ)の…小さな入り口から中をのぞくと……。
いましたっ。
子どもが2人…男の子と女の子です。
何をしてるんだっ‼︎
どこの学校だっ‼︎
…と。ものすごい大きな怒鳴り声を出しました。2人は…恐怖を感じました。
低くて狭い(穴蔵)の中に…大きな男が…かがんで無理やり入ってきたので。
2人はパニックになりました。
マリンは泣きそうでした。
スカイは…あせりました。
大きな男は…なぜか。マリンの片ウデをわしづかみにしたので……。
マリンが危ないっ‼︎
……って。
大きな男は。
……下に落ちました。ゴロンゴロンと。斜面の岩場を…転がって落ちました。
それは…スカイがとっさに。
足元にあった。神事に使う小太鼓のバチをひろって…男の顔に投げつけると。
スカイは。ひるんだ男のスキを見て。大きな身体に…体当たりをしたのでした。
すると大人の男は。バランスを崩してしまい。あっさりと…落ちていったのです。
スカイが下を見ると……。
大人の男の人は。
黒い岩場に(あお向け)で倒れ…動いていませんでした。
波しぶきが…少し…かかっているのが見えました。
どうしようも…ありませんでした。
殺す気なんて。
あるわけが…ありません。
ただ。
子どもが大人にビックリしておきた…偶然の間違いでした。
……日が。傾いてきました。
真冬の昼は短く感じます。
小高い岩場の斜面にある小さな穴蔵は…静かでした。不安と怖さで満ちていました。
でも。帰らなくてはいけません。
帰るんですっ。
怖いけど。下の様子を見に…勇気を出して。まず。スカイが降りていきました。
……が。すぐにっ。上がって来ました。
息もハア…ハア…と。
大人の男の人。両目あけて。口をあけて。頭や顔から血を流して。
……死んでるっ‼︎
そう。マリンに言うと。マリンは…声をあげて泣きだしたのです。
かわいそうに。悪い罪なんて…ぜんぜん無いのに。
どうしよう……。
どうしよう……。
どうしよう……。
そうして。
小さな穴蔵の入り口は…薄暗くなりました。
唯一の明かりは。ポツポツ見えだした。暗いオレンジ色の…星空の薄明かりでした。
2人の腕時計は4時半から5時でした。
もう……ダメです。
完全に。両方の家では大騒ぎのはずです。
警察に相談してるかもしれません。
言いわけも何も…連絡のしようが無いのです。携帯もありません。
もう……おしまいです。
スカイとマリンは…だまってしまいました。
高校生ぐらいの男女なら…なんとかしたでしょう。
とにもかくにも。(その場)から…いち早く逃げたでしょう。
でも。
6年生の男子と5年生の女子です。簡単じゃありません。
とくにマリンのほうなんて…あまりの出来事にショックが大きく。
入り口から下を見るたび。(死体)の男が…マリン自身を(にらみつけてる)ように見えて。
マリンは…怖くて怖くて。
一歩も。(穴蔵)の外へ…出ることができませんでした。
スカイも…また。
マリンのそばから。絶対…はなれたくはありませんでした。
……真っ暗に。なりました。
海面から小高い。岩場の斜面にある小さな小さな(穴蔵)は。
大人が4人ほど座れるぐらいのスペースしか…ありません。
穴蔵というより。やっぱり。ただの(くぼみ)です。外気を(さえぎる)ものは…何も無し。
ここは。
真冬の北の港町…極寒の海岸線。
今夜は晴れて満天の星。だからこその底冷えでした。
(あれが北極星?)…(こっちがオリオン座?)……なんて。
そんな会話は。ひとつも。ありませんでした……。
ただ。
寒くてっ…寒くてっ……。
全身のスジが硬くなってゆくのが…子どもの身体でもハッキリわかりました。
たくさん着ていても。
真冬の夜の(崖の上)は…零度以下の耐えられない寒さでした。
明け方には。おそらく…マイナス10℃にはなる時期でした。
もう…寒くて寒くて……。
ガクガクが…止まらなくなってきました。
別々の体育座りでは我慢できなくなった2人は。
スカイとマリンは。
姿勢をくずし…抱き合うようにして身体の保温に努力しました。
時に。お互いの服の上から(さすったり)…とんとん(たたいたり)しましたが。
あまりの寒さに。(あご)がガクガク…舌を噛みそうになりました。
オシッコは……。
はずかしかったけど。お互いに見ないようにして…入り口の外へ出しました。
我慢なんて…できませんでした。
目は…つぶりました。
あけると寒さが入ってきて。もっと寒くなるからです。
寒いっ……。
寒いっ……。
寒いっ……。
何時なんでしょう?
腕時計なんて見ません。
見る力なんて…ありませんでした。
それでも。
一度だけ。冷たくなった金属の箱を指でさわり。お昼に撮ったデジカメの写真を。
仲良く2人で見ました。
……幸せな結婚式の記念写真。
……正座した2人の笑顔。
……マリンの指輪。
暗い…狭い…海面の静かな波の音が聞こえる…小さな穴蔵の中では。
デジカメの弱く白い画面の光だけが…燃えていました。
また。スカイとマリンの顔にも。弱く白い光を…照らしていました。
結婚式の写真を見ている2人は…幸せいっぱいでした。
……マリンは涙ぐんでいました。
……スカイもまた。涙ぐんでいました。
その時。
雨も降らない満天の星空に…綺麗な虹が見えました。
それは。
二人の両目に。にじんだ涙がプリズムになって現れた。奇跡の…涙の虹でした。
2人だけに見えた。冬の夜空の虹でした。
ブルブル震えた指で……。
マリンは…ポシェットから(のどあめ)をすくい出だすと。
(食べる?……)
…って。抱き合うスカイにやると。
スカイはブルブル震えた指で…小さな包装を裂き。小さく丸い(あめ)を2個とり。
抱き合うマリンにも2個…やったのでした。
(一緒に食べよ?……)
…って。2人は仲良く2個の(あめ)を口の中に入れると。左右のホホに1個ずつしまい。
そうして。
ちょっとだけ両ホホを動かしながら。甘い味の。ものすごく(おいしく)感じる甘さを。
ブルブル震える全身の隅々にまで…とどけていました。
目を閉じながら……。
(おいしいね?……)って…マリン。
(おいしいなっ……)って…スカイ。
それだけでした……。
ああ。
スカイとマリンは一体でした
ずっと目を閉じて抱き合っていると安心でした
虹を見せてくれたその涙も凍ってしまい
まぶたがくっついてしまいました
ああ。
天の声地の声は少しもありません
この世界にはお互いの消えいる声しかありません
天の優しさ地の優しさもまったくありません
この世界にはお互いの生きてるわずかな温もりしかありません
ただ
お互いだけが全てでした
ああ。
ああ。
満点の星もとうとう見えなくなりました。
目をつぶって強く抱き合ってると安心しました
暗闇の中
肌は顔だけ出していました
つぶった目と口と鼻と白い息だけがそこにありました
見えない消えいる声もありましたが
やがて
その声は無くなり
白い息も無くなり
つぶった目と口と鼻だけになりました
ああ。
ああ。
見てください
スカイとマリンの上に満天の星です
そしてもうひとつ
小さな暗闇の中で小さく抱き合う子どもの指に
小さな小さな指輪の星が輝いていました
……スカイとマリンの星でした。
<おわり>
スカイとマリン。 kuzi-chan @kuzi-chan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます