第4話 希望
部屋の入り口に着くと、父さんは慌ただしく何か作業をしていた。
父さんの仕事部屋に来るのは、これで2回目だけど何をやっているのか全く分からない。
部屋は沢山の機械と、モニターがある。映し出される文字は難しくて、理解できない。
だけど、父さんの焦った表情を見るに、何か良くない事でも起こっているんだろう。
しばらくそのまま部屋の入り口に立ち、父さんに声を掛けられずにいた。
すると、父さんは俺が入り口付近で立っていることに気が付く。
「扉を閉めて中に入ってきなさい」
普段の父さんからは想像のできない程、ひっ迫した声色だ。
部屋の中へと入り、扉を静かに閉める。
父さんは作業していた手を止め、こちらに来て、扉の鍵を閉めた。
普段、俺とライラは父さんの仕事部屋に入る機会はなかった。
いつも父さんは作業をする時、鍵を必ず閉めていたから。
昔、一度だけ入った事がある。その時は、ライラが怪我をした時だった。あの時は俺も焦っていたから、こうして父さんの仕事部屋をしっかりと見たのは初めてだった。
「いいか、これから私の言う事をしっかり聞いて、覚えておきなさい」
そう言って父さんは、俺の両腕を掴む。
とても真剣な表情だ。普段から冷静沈着な、父さんがあんなにも焦っていたんだ、何か重要なことなんだろう。
俺は黙って、頷いた。
「ライラを治せるかもしれない人を、見つける事が出来た」
予想もしていなかった言葉に、とても驚いた。それと同時に、喜びが脳内を駆け巡る。
けど、だとしたらなんであんなに焦っていたんだろう……。
疑問に感じると同時に、父さんがその原因について話を続ける。
「だが、それと同時に奴らにも私たちの居場所が見つかった」
父さんの声のトーンが少し落ちる。
「だからライラを連れて、北に向かいなさい。少し行けば今は誰も使っていない小屋がある」
父さんは足早に会話を続ける。
「私はここでまだやるべき事がある。必ず追いつく、だから先に行って待っていなさい」
そう言うと俺の腕を掴む力が、少し強くなった。
俺は、父さんの言葉に混乱した。
逃げろと言われても、今まで俺とライラは外に出たことが無い。
外は危険だって父さんが言ったんだ。そんな所に今すぐ行けと言われても。
それに、ライラをなんて言って連れ出したらいい。
あぁ、もう駄目だ。俺は馬鹿だから、考えたって分かんねぇ。
外は危険、だけどここに残る方がもっと危険と判断したんだろう。
今まで父さんは、間違った事を言ったことが無い。
だから信じる。
「うん。ライラとその小屋で待ってる」
俺は覚悟を決め、拳を握った。
「頼んだぞ」
そう言うと、父さんは機器がある方へと戻り再び何かを始める。
父さんの仕事部屋を出て、ライラの方へと向かう。
ライラは、食卓の椅子で静かに座っていた。
「ライラ。今から外にお出かけしよう」
彼女はとても驚いた表情を見せる。
「え、どうして? 外は危険だってお父さんが……」
当然の反応だよな。
今まで数十年間、父さんの言いつけを守って一度も外に出ていないのに、突然出かけようなんて。
そもそも、俺自身も何が起きてるか分からないんだ。
でも、ここで不必要に不安を煽るような事を言う訳にはいかない。
「その父さんが、出かけようって言ってるんだよ」
ライラの横に立ち、話を続ける。
「それに、いつも外に出てみたいって言ってただろ」
「うん。お父さんが良いって言ったんだったら、大丈夫だね」
彼女は、笑みを浮かべながら頷く。
そして、急いで外に出ても問題ないよう、衣服など必要な物を準備をした。
ライラはと言うと、嬉しそうに食べ物などを用意していた。
まるで、ピクニックにでも行くような準備だった。
お出かけと聞いたんだ、そう捉えられたとしても仕方ない。
準備を終えたライラと玄関の前に立つ。
初めての外の世界。
危機的な状況だってのは分かってる、だけどワクワクしてしまう。
期待と不安を同時に抱え、重い鉄扉を開く――。
オーバーズ 岩月 @hajime_iwatuki
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