第3話 団欒

「アル。何が起きているの?」

「私にも分かりません。ですが、安心してください。私は傍におります」

 

 

 ……これは、一体何が起きているんだ。


 

 普段と何も変わったことはしていないのに、目の前が真っ暗で何も見えない。

 少女と男の声だけが聞こえる。見えないせいで、状況が全く分からない。


 これまで、沢山の人の記憶に入って来たけど、こんな事は初めてだ。



「……すみません」

 男の声が聞こえると同時に、誰かに背中を押される感覚がある。


 何か変だ。明らかに今まで見てきた、誰かの記憶と違う。

 話の流れが掴めない。途中で何があったのか全く分からない。

 これまで一度も、場面が飛ばされる様な事は無かった。

 視覚から得られる情報が何もない。だが、俺がダイブしたであろう、この少女の体が震えている。



「アル。遅くなりました」

 さっきまで聞こえていた少女の声が突然、大人の女性の声に変った。



 

「お兄ちゃん。大丈夫?」

 大人の女性の声が聞こえた直後、俺はライラの声で目が覚めた。

「起こしてごめんね。でも、お兄ちゃんの手が震えてたから」

「あぁ大丈夫だ。ありがとう」


 ライラが言うには、ダイブ中の俺の手は震えていたらしい。

 確かに、今まで経験したことの無いような、ダイブだったけど恐怖を感じる程じゃなかったはず……。


 

 夜中にダイブした事もあり、俺とライラはその後、すぐに眠りについた――。



 



 誰かがドアを開ける音と同時に、目を覚ます。


 まだ眠い目をこすりながら、体を起こす。

 音の聞こえたドアを開けると、ライラがまた一人で畑仕事をしていた。

 

「ライラ、俺がやるから座ってな」

「私は、やりたくてやってるんだから大丈夫だよ」

 そう言って、彼女は作業する手を止めない。

「ライラが、何か役に立ちたいって思ってるのは分かってる。でも、俺は心配なんだ」

 彼女は、こちらに向かい少し笑うと、黙って椅子に座った。



 

 ……ごめんな。


 彼女の見せる笑顔から、悲しみのようなものを感じた。


 


 原因は分からないが、ライラは生まれつき目が見えなかった。

 きっと何かの病気を患ってしまったのだろう。けど、この世界でその原因を調べるすべはない。

 何かの拍子に怪我でもしてしまったら、そう思うと心配でならないんだ。


 父さんは、外で取引をする際に、医者を探したりもしてくれてるけど、未だに見つからない。

 それに、外は危険が多いと父さんが言っていた。


 今すぐ、ライラを救う方法は無い。

 だけど可能性が無いわけじゃない。俺は、誰かの記憶に入ることが出来るんだ、いつかライラを救う方法を見つけられる。


 ダイブは記憶に入ることは出来るけど、特定の誰かの記憶にアクセスできる訳じゃない。

 ライラ、俺が必ず治してやるからな。


 

 そして、彼女と交代し作業を始めた。


 


 


 扉からノックする音が聞こえると同時に、父さんが畑に入って来た。

 

「二人ともそろそろ、ご飯にしようか」


 ライラは嬉しそうに勢いよく立ち上がると、食卓へと向かった。


 正直、今はお腹がすいているという感じは無い。

 それに、いつも不自然に俺の量だけ多い。

 だけど、ライラは家族で囲む食卓が大好きだ。お腹がすいてなかろうが、ライラの笑顔が見られるのなら、俺はどんな量でも食える。


 そして、食卓に着いたが、やはり俺の席だけ量がおかしい。

 苦しみながら食べる俺を見て、笑顔で応援するライラと父さん。


 食卓には優しくて暖かい雰囲気が漂う。



 食事を楽しんでいると、父さんの使っている機械から、通知音が鳴る。

 機械の画面を見た父さんは、驚いた表情になった。


 直後、父さんは勢いよく作業場へと走る。

 立った勢いで、椅子が倒れて大きな音が鳴る。ライラがとても驚いていた。


 驚くライラを落ち着かせた俺は、父さんが駆け込んだ作業場へと向った。




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