いいおじいさんと悪いおじいさんのその後の話

藤ともみ

良いおじいさんと悪いおじいさんのその後の話

 むかしむかし、心の優しい、良いおじいさんがおりました。

 いいおじいさんは、もともと貧しい人でしたが、心優しい性格で、動物を大事にしたり、こどもを拾ってかわいがって育てたりしては、恩返しにたくさん宝物をもらってお金持ちになり、しかもそれをみんなに分け与えていたので、村中のみんなから好かれておりました。

 いいおじいさんが亡くなった時はみんなが涙を流し、手厚くおじいさんを葬りました。出世した子どもたちが立派なお墓を建てて、誰が決めるでもなく、毎日誰かがお墓をきれいに掃除して、立派なお供えを持ってきました。動物たちがお墓参りをすることも珍しくありませんでした。

 そんなおじいさんのお供え物を、ある時から、誰かが盗み食いするようになりました。出世したこどもたちが都から持って来た美味しいお菓子が、朝になるとすっかり無くなっているのです。

 そんな罰当たりなことをする人といえば、たった一人しかおりません。いいおじいさんがまだ貧しかった頃、隣に住んでいた、悪いおじいさんの仕業に違いありません。

 悪いおじいさんは、いいおじいさんの成功を嫉み、そのくせ、宝物のおすそ分けを突っぱねては、お前は神様仏様にでもなったつもりかと詰り、動物やこどもたちにも意地悪でした。

 いいおじいさんがお金持ちになって、みんなに誘われて立派なお屋敷へ引っ越したあとは行方知れずになっていましたか、とっくに死んでしまったのだろうと誰も気にしていなかったのです。

 それがまさか、生き延びていて、死んだいいおじいさんを冒涜しているとは。

 子供たちや動物たちはカンカンに怒って、みんなでおじいさんのお墓の見張りをすることになりました。

 二、三日経って、夜目の効く猫がたった一匹で真夜中に見張りをしていた時のこと。

 満月が照らす墓のもとに、やせぎすの老人がやってきたのでした。

「お、今日はまんじゅうじゃねえか。うまそうだな」

 存外しっかりした調子で老人……悪いおじいさんはつぶやくと、おまんじゅうをわしづかみました。

 猫はすぐ仲間たちに知らせようと走りかけましたが、悪いおじいさんの腰にぶら下がった酒壺を見留めて、足を止めました。これはお供えものではありません。悪いおじいさんが自分で持ってきたのです。

 悪いおじいさんは、酒壺の中身をまず、良いおじいさんの墓石にかけてやりました。それからどっかりと墓石のそばに座ると、月を見上げながら、おまんじゅうを食べて、ちびちびとお酒を飲み始めました。

「今日は良い月だ……墓石に酒はかけるもんじゃねえと坊主は説教しやがるが、お前も、こんな夜に水じゃ味気ねえだろ」

 どうもただの墓荒らしとは違う雰囲気を感じて、猫は様子を見ることにしました。

 悪いおじいさんはひとりで月見酒をしながら、墓石に語りかけるように思い出話を一人でブツブツ呟いていました。良いおじいさんの真似をしてお宝をもらってやろうと思ったら、鬼や妖怪に追いかけられたり、雷に打たれかけたり、お殿様に斬首されかけたり……悪いのは自分だけのくせに、「お前のせいで俺は大変だったんだ」とぶつくさ文句を言うのです。

 当然ながら墓石は何も語りません。物言わぬ墓石を見つめて、悪いおじいさんはぽつりと呟きました。

「……もう、俺を庇ってくれるやつはこの世に誰ひとりいなくなっちまったなあ。こんなところが見つかったら、今度こそお前のことが好きな連中に折檻されて死んじまうかもな」

 その顔がひどく寂しそうで、猫は、その場を動けませんでした。

 しかしそれも一瞬のことで、おじいさんは狡猾そうな顔を歪めて無理やりのような笑顔を作りました。

「……寿命だけは俺の勝ちだったな。俺はあと10年は意地汚く生き延びてやるぜ」

 悪いおじいさんはクツクツと笑って去っていきました。

 その後、ぱったりと墓荒らしは無くなって、いいおじいさんのお墓は後世までずっと大事に守られたということです。


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いいおじいさんと悪いおじいさんのその後の話 藤ともみ @fuji_T0m0m1

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