調査員Aと幸福の星

第5話 調査員Aと幸福の星(1)

 窓から今回の調査対象である惑星が見える。


「Rey、今回訪れる惑星ってどんなところ?」


『少しは予習を........もうあなたに言っても無駄そうですね....』


「だって、Reyに聞いたほうが早いもん。頼りにしてるよ、


『....ズルい』


「なんか言った?」


『いいえ、なんでも。今回の惑星は、の売買が行われる珍しい星です。麻薬などと違い、人体に有害な成分を使用せずに幸福感を得られるとして一部の観光客に密かに人気となっております』


「えぇ、脳にプラグでも差し込んで幸福感を流し込んだりするの?」


『幸福感の抽出の方法は公表されていませんが、摂取の方法は判明しています。どうやら、飴玉のような形に加工され、なめることで摂取するそうです』


 他惑星の文化に口を出してはいけないが、感情の売買は流石に趣味が悪いのではないだろうか....?


「着陸まであとどのくらい?」


『15分程度です』


変身メタモルフォーゼ

 

 服装を変化させ、上陸準備を進める。



          ◇



 透明化させた宇宙船を人気のない湖畔に着陸させた。


「湖、綺麗だなぁ」


 透き通った湖、魚も泳いでいる。一日中ここで釣りをしていたい程だ。しかし、 今は仕事中。惜しいが調査に向かわなくてはならない。近くに、この星の首都があることはあらかじめ把握済みだ。船を縮小させポケットにしまう。


「Rey、街までのマッピングを頼む」


『了解』


 WaD腕時計型携帯端末から、街までの道筋がホログラムとして投影される。            

 マップに従い暫く進むと街が見えてきた。いつも通りこっそりと街に侵入する。


「これは......珍しい」


 現在、人の住む星の首都は大抵が高層ビルなどの立ち並ぶ。しかし、この街は違う。道は石を敷き詰めることで舗装されており、レンガを基調とした中世の街並みが広がっている。とはいえ、技術が発達していない訳ではない。空遊車エアランドカーはそこら中で走っている。つまり、発達した技術と中世のデザインが共生しているのだ。通行人の顔は健康的で明るい。どうやら、幸福の売買は麻薬とは違いそうだ。歩いていると一つの店を見つけた。看板には、


『HUPPY SHOP』


 とかかれている。店名だけ見れば怪しすぎるが、表通りにあること、地元住民を含む客の出入りがあることを見るに安全ではありそうだ。名前からして幸福を取り扱う店で間違いない。興味本位で入店してみる。

 店内は黒を基調としたシックな内装で、さながら宝石店のようであった。ショーケースの中には、飴玉が丁寧に並べてある。それぞれに値札がつおており、目の前のショーケース内にある赤色の飴玉の値札には


『幸福度100 1500Cクレジット


 とある。調査のためにも、一つ買って服用したいが正直1500Cは高い。今回の支給額は5000Cであるが、これは万が一のために多めに支給されている。買うにしろもう少し庶民的なものを選ぼう。店内を見て回った結果、


『幸福度20 310C』


 と書かれた青色のものに決めた。購入のため、店員さんに声をかける。


「すみません、この310Cのもの一つください」


「承知しました、少々お待ちください」


 店員さんはバックルームの中へと消えていき、少し待つと黒色の箱を持って戻ってきた。箱はとても小さく、傍からみれば指輪が入っていると勘違いする程だ。その後、支払いを済ませた僕は、飴玉の入った箱を受け取り退店した。


「これがねぇ......」


 箱から取り出した飴玉を手の上に乗せて呟く。躊躇ってもしょうがない、飴玉を口に放り込んだ。

 甘い。そしてほのかな酸味がある。いや、重要なのは味ではない。心の底からが溢れてくる。幸福感、満足感で心の隅々まで満たされて、心地が良い。今の自分には何でもできるのではないかと自信が湧いてきて、じっとしていられない....。


『■■様!!!!!!!!!!』


 WaDから発せられるReyの声で現実に引き戻される。口内の飴は全て溶けてなくなっていた。


『無事でよかった......。WaDを通じて計測してい心拍数や脳波があまりにも異常だったので。独断で動いてしまい、すみませんでした....』

 

「いいや、ありがとう。助かったよ」


 冷静になり、先程の自分を振り返るとゾッとする。明らかに正気ではなかった。正直、かなり怖い。文字通りの状態から幸福感だけが湧いてくるのだ。ただ、不思議なことにもう一回なめようという気にはならなかった。幸福感が飽和しているからだろうか。この、が麻薬とは大きく違う点なのかもしれない。

 ふと前を見ると、60~70代くらいのスーツを着たおじいさんが階段の前で止まっていた。どうやら、持っている大きめのキャリーケースを上にあげられなくて困っているようだ。星々の問題に干渉できない惑星調査員だが、一般のおじいさんの荷物を持つこと位は問題ない。


「荷物、お持ちしましょうか?」


「おぉ....ありがたい。では頼めるかな」


「もちろんです」


 多少重いが問題ない。キャリーケースを持ち、おじいさんのペースに合わせて階段を上った。遠目からでは気がつかなかったが、おじいさんの着ているスーツ、素人目でも高級なものだと分かる。そんなことを考えている内に、階段を上り切った。


「ありがとう、お陰で用事に間に合いそうだよ」


「それはよかったです」


「是非ともお礼がしたいが、今は時間がない。この時間にこの住所の場所まで来てもらえるか?」


 おじいさんの差し出したメモ用紙には


『16時30分、M区S地8番地8丁目』


 と書かれている。申し訳ないので、丁重にお断りさせていただこう。


「流石に申し訳ないですよ、荷物を上に運んだだけですし」


「儂のような老人は1人でいても寂しいだけゆえ、来てくれると嬉しいが....」


「そこまで言うのなら、お言葉に甘えさせていただきます」


 メモ用紙を受け取る。これはこれで、この星の調査にはなるだろう。


「それでは、儂は用事があるのでここで失礼させてもらうとしよう。また後で会えるのを楽しみにしているよ」


 そう言って、おじいさんは去っていった。よく考えたら、僕は住所を聞いても場所がわからない。知らない惑星で困ったら四の五の言わずに地元の方に頼る。これが1番だ。辺りを見回すと、丁度警察らしきお兄さんを見つけた。警察だと思った根拠は....見るからにだと分かる青を基調とした服を着ていること、住民の中で唯一銃を携行していること、親切そうな顔をしていること..........十分だ。


「すみません、この住所の場所ってどこですかね?」


 おじいさんから貰った住所の書かれた紙を見せる。


「道案内ですね」


 どうやら、本物の警察らしい。お兄さんは携帯端末から地図のホログラムを投影し、僕の言う住所を入力した。入力した住所の場所が黄色く点滅し、それを見たお兄さんは驚いたような表情をみせる。


「この住所、本当に正しいですか?」


「正しいはずですけど、なにかおかしい点が?」


「おかしいというか......。これは、ジョルジュ・キーナリーという方のお屋敷の住所ですね」


 知らない人物の名前が出てきた。


「....すみません、どなたですか?」


「えぇっと、今の幸福売買市場の大半を占める会社『HAPPY COMPANY』の創業者かつ、現在会長を務めているお方です」


 どうやら僕は、想像より遥かに大物の方を助けてしまったらしい。


 

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【鬱注意】惑星調査員Aの業務日誌 AZマスター @AZma5000

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