最近思い出したこと

第30話 金縛りの手触り(再録)

 小学生の時の話です。

 地獄先生ぬーべーという漫画に、「おとないさん」という妖怪……というか幽霊が出てくるお話がありました。

 引き戸を半開きにしているとそこが霊道となり、その扉の隙間から霊が顔を出す、というお話だったと思います。

 私は当時そのお話がすごく怖くて、寝る時は必ずぴったりと襖を閉めて寝ていました。

 その筈だったのですが、ほんの少しだけ、襖が開いている日があったのです。


 私はその頃、妹と布団を並べて寝ていました。

 足の方に隣室に続く襖があり、襖の横、わたしの足元の方にはコタツが立てかけてありました。

 寝る前、襖は確かに閉まっていたと思います。


 真夜中、目を覚ますと顔の横で襖が開いていました。

 一瞬何が起きたか分からず、闇の中手探りで周囲を確かめます。

 すると、コタツのヒーターが手に当たる、ざらりとした感触がしました。確かめるように擦ると、金属の格子が鉄琴の様な音を立てます。


 コタツだ。


 どうやら90度回転して、しかも足元で寝ている様です。


 寝相が悪かったんだろうか。


 20センチ程開いた襖が怖くて、とりあえず手を伸ばして閉めました。

 そこで、身体が動かなくなりました。


 金縛りだ。


 初めての金縛りでした。指先すら動かず、目だけは襖を捉えています。


 ズズズッ……


 今閉めたはずの襖が、20センチ程開きました。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」


 低い、男の人の声でした。ボソボソと何かを物凄い早口で言っていましたが、内容は全く聞き取れませんでした。


 ズズズッ……トン……


 そして、襖が閉まったと同時に、私の意識は無くなりました。


 目覚めると、いつものように布団に真っ直ぐ寝ていました。襖も閉まっていますし、何の変哲もない朝でした。


 なんだ、夢だったのか!


 私はほっとして起き上がります。

 しかし、何となく気になって、コタツのヒーターに手を伸ばしてみました。


 それは、昨晩の記憶と寸分違わぬざらりとした感触。そして、鮮明に耳に残っていた、鉄琴の様な金属音を奏でました。


 終


※公式自主企画

「怖そうで怖くない少し怖いカクヨム百物語」

に向けて書かせていただいたお話を再録させていただきました。

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【実話怪談】昔、こんな怖い事があった 縦縞ヨリ @sayoritatejima

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