第29話【借家の話おまけ】その後のパパと私

 さてさて。

 忌まわしい借家につきましては、こんな所でございます。

 なんせもう誰も住んでいませんから、現在どうなっているかは分かりません。


 まあ例の気持ち悪い女の人はあの家がある限りは居座るんだろうなとも思いますが、老朽化が進んでおり、私達家族が引き払ったらもう人には貸さず、いずれ取り壊すと聞いています。

(なお、今現在はまだ家はありますね)


 ヤバい親戚はとにかく最後までヤバい親戚でしたので、今後関わらない為に家族全員相続放棄をしております。

 相続放棄をすると形見分けなんかにも一切参加出来なくなりますから、できる事はお墓参りくらいなのです。

 いくらかの預金はヤバい親戚のものとなったらしいのですが、隠れた借金が残っていない事を祈るばかりです。


 さてさて。

 その後の父ですが、私が怖い夢を見ていると、突然場面が「明るい畳間に父が座っている」という夢に変わり、目が覚める事が何回かありました。

 助けてくれているんでしょうか?

 だったら良いなと思っております。


 それ以外の父の夢で、「はあ!?」と思ったものが二つほどありましたので、サクッとお話させていただきます。




 一つ目。

 私が歩道を歩いていると、背後から結構なスピードを出して車道を走ってくる車がありました。

 その車が、私の横でキュッと停車します。

 それは左ハンドルの赤いオープンカーで、運転席には父、助手席には知らないおばさんが乗っていました。六十歳くらいでしょうか。

 二人とも笑顔でやたら楽しそうでしたが、父の笑顔はなんだか嫌な感じがしました。

 私が唖然としていると、父は笑顔で言いました。

「ヨリ、五千円貸してくれ」

 ええ……めんどくさ。

「今持ってないから無理」

「そっかー!アハハハハ!」

 父はそれ以上ごねる事も無く、また爆速で去っていきました。


 そこで目が覚めました。

 何だったんだ今のは?

 変な夢だけど悪夢って感じじゃないし、まあ何もないのかな……と思ったその次の日、一人暮らしをしている弟から電話がかかってきました。

 弟はグスグス泣いていました。

「は? 何? どうしたん?」

「姉貴、俺もうどうしていいかわかんなくなっちゃって……」

 詳しい事は書けないのですが、結論から言うと弟は盛大にやらかしており、私は夫に土下座して三桁万円弟に貸す事になりました。

(通称・お姉ちゃん銀行、無利子)

「お前、私から金借りるんだったら返し終わるまで私の奴隷だからな? 私が叫べと言えば叫べ、引っ越せと言ったら引っ越せ」

「はい」

 そんな訳で毎週LINEミーティング、月一で顔を合わせてミーティング。

 半年程かけて転職、引越し、収支マイナスになっていた生活を見直し、お金の管理の仕方等教育し、月に五万円ずつ返済できる様にしました……

 なお止むを得ない事情でカード使う時は「かれこれこういう事情でカード使っても良いですか」と逐一連絡が来ます……


 パパちゃん、アレってなんだったの? 警告? 

 ……面白かったから笑ってただけっぽいのがムカつくんだよな、サイコパスだしなあ……




 二つ目。

 小説を書く時にたまたま関東大震災について調べる機会がありまして、今から百年も前なのか、とびっくりしたんですよね。

 と言うのも、私の父方の祖母なんかは、

「震災の時はあの辺まで水が来た」

 という話を生前しておりました。

 だから私としてはなんとなく近い時代の存在というか、まさか一世紀も前の話だとは思ってなかったんです……いや戦前の事なので、当たり前と言えば当たり前なのですが。

 私には関東大震災で亡くなったと「言われている」大叔母が居ます。

「出かけたまま帰って来ないから、もしや震災で亡くなったのでは無いか?」

 という感じなのです。

 関東大震災の死者は十万人以上。

 その中の大多数は火災に巻き込まれて亡くなっておりますから、身元の特定まで出来ないご遺体が沢山あったという事だと思います。

 ですから、「行方不明で、もしかしたら震災で亡くなったかも知れない」というのが私の大叔母なのです。


 そんな事を考えていて、ふと思いました。

「お葬式はちゃんとやったのかしら」

 お墓の墓標には名前だけでも掘ってありますし、まさか何もしていないという事は無いと思うのですが、お友達や関係者さんとちゃんとお別れをする機会があったかと言うと、お家柄からしてもかなり怪しい気がしました。

 何せ、父方は酷い男尊女卑の家系です。

 そう思うと何となく気の毒な気持ちになり、夫にも相談して、次の日にお墓参りに行く事にしました。

 寝る時に、何故か、

「大福を持って行った方が良いかもしれない……」

と思いました。


 朝一番で二十四時間営業のスーパーまで歩き、とりあえずお花を選びます。

 大叔母が亡くなった時の年齢は分かりませんが、若い頃なのは間違い無さそう。

 なので、一般的な仏花では無く、薔薇や鮮やかな色の百合、トルコキキョウ、他諸々。若いお嬢さんが喜びそうな、可愛いお花をいっぱい買ってみました。


 んで、大福を探したのですが、入荷時間の前なのか、お供えしやすそうな一個入りのやつがありません。


 大福が無い! これは困った、どうしよう……


 なんでお饅頭や月餅じゃダメなのか自分でもよく分かりませんが、大福じゃないとどうもしっくり来ない。

 しかし無いものは無いので、大福はコンビニに寄って買う事にしました。


 一度家に戻り、線香や掃除用具等も携えて、車で夫と霊園に向かいます。


 コンビニに寄ってみたのですが、そこにも普通の大福がありません。しかし草大福はありましたので、それで良しと言う事にしました。


 お墓は全然人が来ていないのか、ドクダミ畑になっておりました。とりあえず夫婦でシュバババッと草むしり。

 夫が暑さでバテたので車に戻ってもらい、後は私が墓石を綺麗にしたりします。


「お背中お流ししますねー、今日はね、大叔母様に……あとは女のコ(祖母と曾祖母)メインにお花選んでみたんですけどどうすかね? 百合とかまだ蕾なんですけど明後日くらいに咲くと思うんで楽しみにしててくださいね。大叔母様今まであんまり意識してなくてほんとすんません。熱くて大変でしたね。……」


 そんな感じで一人で墓石に語りかけつつ掃除を終わらせた頃、夫が帰ってきたので草大福と線香も供えて、家路に着きました。


 んで、夜。

 夢を見ました。

 あの明るい畳間で、父が若いお嬢さんとお話しています。

 お嬢さんは長い髪を真ん中で分けていて、スッキリしたお顔の、品のある綺麗な方でした。

 父は正座してヘラヘラしつつ、お嬢さんに言っていました。

「いやあ、うちの娘でございます」

 どうやら私が紹介されている。

 お嬢さんは笑顔で、「まあそうなんですか」みたいな感じです。


 おいこら、クソ親父、なんかちょっと「の娘です」感を全面に押し出すんじゃねえよ……!

「(俺は何もしてないけど)俺の(娘の)手柄」感みたいな雰囲気出してくんなよ、おま、ほんと何もしてねえだろ!?

 むしろ生前墓参りしている所なんか見た事無いんだが!?(マジ)

 ほんとあんたそういう所だぞ……!


 そこで目が覚めました。


 後日弟にそんな話をした所、

「めちゃくちゃ想像つくわ」

 との事でした。ええ。パパちゃん通常営業って感じ。


 ただ、大叔母は甥っ子(父)を適当にあしらいつつも、お花とか草大福とかは喜んでくれた様に見えたので、それは本当に良かったなと思います。


 忌まわしい借家と、私の父の話はこれで終わりです。

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