第一次豚汁論争

元気モリ子

第一次豚汁論争


皆さんは「豚汁」という存在について、いかがお考えだろうか。


先日親友と呑みに行った際、私は長年の悩みであった「豚汁の付け合わせに何を据えるか」について、ついに打ち明けた。


「晩ごはんに豚汁を作ったとして、お米とそれを並べるとあまりに見た目が簡素やんか?やからそれにお浸しとかお漬物を添えるんやけど、それでも何かが足りひん。やからいつも焼いた厚揚げを並べてそれとなくスペースを稼ぐねんけど、あまりに茶色いねん。かと言って、仮りに焼き魚を添えたとすると、その瞬間それは“焼魚定食”になってしまうやん?これじゃ“豚汁定食”じゃなくなってしまうねん。豚汁を主役にしたまま定食を成立させるには、何を据えるんが正解なんやろうか?」


ハイボール片手に捲し立てる私を、親友はふいに遮った。



「…そもそも豚汁はメインじゃないやろ」




この瞬間『第一次豚汁論争』の火蓋は切られた。



「何言ってるん…豚汁はメインやろ…」


「メインちゃうよ…味噌汁と一緒やろ…」


「全然ちゃうわ!まず作る労力からしてメインを飾ってもらわな困るねん!」


「そもそも豚汁で米進まんわ!」


「進むわ!」


「なら豚汁と米だけでええやんけ!」


「ほんならふりだしに戻るやんけ!頑張って働いて帰ってきて、食卓に豚汁と米だけやったらどう思うねん!」


「なら卵焼きでもつけとけや!」


「卵焼きを置いた途端にそれは朝ご飯になってしまうねん!」


「嫌なら肉でも焼いたらええやんけ!」


「肉は豚汁に入ってるねん!汁も野菜もタンパク源も全部豚汁に入ってるねん!やから難しいねん!」


「ほんならカレーとかシチューとかポトフと原理は同じやねんから、それと米だけでええやんけ!」


「その割りには見た目が小さいねん!ていうかカレーとかと同じなら豚汁はメインやんけ!」


「ほんならカレーみたいにデカい器に入れたらええやんけ!」


「そんな豚汁見たことあんのかよ!」



居酒屋のカウンターで激論を繰り広げたが、一夜のうちに結論は出なかった。


遠い昔、豚汁を発明した人はどういうつもりで豚汁を作ったのだろうか。


自分が生みの親なら、何としてでも食卓のメインを飾って欲しいと思うであろう。


でもそれは、卵焼きを発明した人だって、厚揚げを発明した人だってきっと同じだ。

我が子にメインを飾って欲しい。


「豚汁定食」


そんなものが果たして存在しているのかどうかすら分からなくなってきた。

そして豚汁を夜食べることがまず間違いなのかとも思えてきた。

そもそも「定食」とは何なのか。

「定食」を「定食」たらしめているものは何なのか。

そして「豚汁」とは何なのか…


真っ暗な宇宙で「トンジル」とふたりぼっちになった私は、足早に帰路に着いた。


一生分の「トンジル」を口にした。

トンジルはもう暫くいいと思った。



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