第2話 ハンター

『怨嗟の厄災』から53年。

人類は五大国を一つの国として新生した。

五つの国が一つとなり、基本技術、生活水準は以前より一新され、機械工業も発達し、道具の利便性が高まった。

だが未だにモンスターは各地に留まり、その地の人間を脅かしているのもまた事実である。

だからこそ、我々ハンターギルドは各地の住民や各ギルドより来た依頼を報酬金と討伐したモンスターの素材を報酬としてハンターを派遣している。

だからこそ、忘れるな。

狩人ハンターとは、命を賭けたものだということを。



「う、うわぁぁぁ!」

砂漠地帯の丘陵地。ここは商業ギルドのキャラバンへ続く経路である。

大きな砂岩や岩壁が天を衝くこの地に、悲鳴が木霊す。

「く、このっ!」

護衛兵が剣を振る。

だが、その刃は1m程の獣には届かなかった。

その獣は咆哮を上げながら、地を蹴り護衛兵の腕に噛みつく。

「ぐぁぁぁ!」

剣と血が砂を汚す。

再び獣が咆哮を上げ、その牙を向ける。

ーーひゅ。

声も無く、獣だったものが倒れ込む。

その頭蓋には、一本の矢。

その矢が飛んだ方向を護衛兵は振り向く。

その目に映ったのは、大地を駆ける二匹の有翼獣に乗った二人組の男女だった。

ーーひゅ。

男が矢を番え、撃つ。

再び音もなく、今度は同僚を襲っていたモンスターを撃ち抜く。

「大丈夫ですか⁉」

こちらに到着した男女……いや少年と少女がモンスターを薙ぎ払いながら話しかける。

「あ、あぁ……そそうだ商人たちが!」

その言葉を聞くな否や、少女が有翼獣を商人たちのほうに向け、駆け出す。

「私先にいくよ!」

唐突なことに一瞬呆気にとられるが、すぐに気を取り戻す。

「き、君。助けられた身なのはわかっているが、女の子一人で行くのは……」

「まぁ、普通ならばそうなんですよね……」

でも、と彼は続ける。


「く、来るな!」

キャラバンを目指していた商人・ギルムンドは横転した荷車を背に剣を構えていた。

先に戦闘態勢に入っていた10人もの護衛兵達は殆どモンスターの毒でやられ、残りは片手で数えるほどしかいない。そして、荷車の中。そここそが同行した女医者が看病する最終基地となっていた。

ここを守らねばならない。

その一心でギルムンドは痛む全身をなんとか操り、小盾バックルシールドと剣を構える。

一際大きなモンスターが咆哮する。恐らく、こいつらの頭なのだろう。

それに呼応するように、その取り巻きが一斉に咆哮を上げ、突撃する。

ーーまずい。この数は流石に捌ききれない。

ならば、せめて、医者だけでもーー

「はぁぁぁぁぁぁ!」

響くは一声。

声からして女。若い声だった。

声の方を向けば、そこは空。一つの影が天に映る。

ッシャ!

モンスターの一匹が弱々しく倒れ込む。

その背には影がつけたであろう切り傷。

「大丈夫?」

影……否。その少女がこちらに駆け寄る。

「あ、あぁ……助かった、ありがとう。」

差し伸べられたものとは異なる手には不思議な形の武器を持っていた。

小盾を両端につく刃がそれぞれ相反する向きを向いたものを槍につけたような武器。確か、南の国の両刃槍ケルゲリウスに似ている。

「そっか。大丈夫なら私の後ろにーー」

その時。

聞こえたのは小さき咆哮。モンスターが少女の背に襲い掛かる。

「ッ!あぶなーー」

「ふんっ!」

ギルムンドの言葉が形を成す前に少女が振り向きざまに両刃槍を回す。

回転する刃が、モンスターが真っ二つに切り裂く。

それを見て、他のモンスターが激高する。

頭であろう個体が一際高い咆哮を上げる。

それを皮切りにモンスターが咆哮を上げながら一斉に突撃する。

「ふっ、はッ!」

飛び掛かるモンスターの群れを両刃槍で重さを感じぬ動きで切り刻む。まるでその動きは舞のように美しかった。

何体を倒したのだろう。少女の背にモンスターの山が出来たころ、頭の個体が弱々しい咆哮を上げ、生き残りとともに少女に背を向け、逃走を始めた。

「あっ、逃げた!待てーー!」

そう言って、追いかけ始める彼女を声が制止する。

「待て、ミオ!先に救助が先だ!」

その声の主がギルムンドの前に止まる。

それは有翼獣に乗った、一人の少年だった。




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狩人、地を翔け空を討つ 脈絡ブレイカー @Mastermm

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