第40話 勇者達はまだ何も知らない

『女神フォルフールに踊らされた、愚かな人類どもよ。私……魔神クレアーレンの名の下に、貴様らの粛清しゅくせいを宣言する』


「え……」


「ちょっ、なになになになに?」


「ちょっと、何よこれ⁉︎急いでゼラウィム様に連絡を取るわ‼︎」


「江原、ゼラウィムさんの所に行く時にロベリアにもここに来るよう伝えてくれ‼︎」


「先生……」


「す、すぐに騎士団の連中に話をしてくる。田淵達も、自分の隊の奴に話しとけ。

あと、ここにいない隊長達を呼び出せ」


突然声が響いたその日、僕ら鞠智きくち高校二年三組の四十人は、全員揃ってアルト王国にいた。


学級委員長の千柳くんが、召喚の日に僕らを迎えてくれた王女様と結婚して国王になった時に『二月に一度はアルト王国で近況報告をしよう。俺達はこの世界の人間じゃない。せめて俺達だけでも助け合って生きていこうじゃないか』と言ったから開かれた第一回目の同窓会のようなものがその日に行われていたからだ。


話は少し遡る。







「じゃあ、みんな今日は楽しもう‼︎」


「「「「「かんぱーい‼︎」」」」」


千柳くんの音頭に合わせて全員がジュースの入ったグラスを掲げたところから、この会は始まった。


夕方から城の広場を貸し切って始まった会も、夜になると盛り上がりが少し落ち着き元から仲が良かったメンバーでそえぞれグループに固まって話をするようになった。

それを端に置いてあるソファーに座って眺めていると、無意識にふと言葉が漏れる。


「やっぱり、戦いがないっていいな……」


「長谷部、急にどうしたんだ?戦うってのも、慣れるといいもんだぞ?」


「そう?」


魔王討伐が終わった後も冒険者として活動する菅の言葉に、少し首を倒す。

戦闘力が強いと、やはり戦いも楽しくなるのだろうか?

だとするのならば、与えられた力が直接の戦闘向きではない【軍師】の僕が、ゲームじゃない戦闘を楽しむのは無理だろう。


皆が天の声と呼んでいるスキル獲得などのステータス上昇を告げる声も僕は最初の方で既に聞こえなくなったのだから、元々日本という戦いとはまるで縁のない国で生まれ育った僕が戦闘において役に立てる訳がなかった。


戦闘能力が低めの僕が一人で生きていけるとも思わなかったから、今はアルト王国の宰相として千柳くんの手伝いをしているけど、中々大変だ。

魔国以外の国は全てアルト王国の属国だから戦争の心配はないけれど、この世界では「死刑」というのがごく一般的にある。

貴族による平民の無礼打ちなども横行しているし、盗賊なんかは捕縛よりも討伐の方が一般的だ。それに、捕縛を命じる場合は黒幕がいると見られる時くらいなので拷問にかけるから実質死刑と同じようなものだろう。


そんな人の死についても扱う宰相の仕事から離れて、オレンジジュースが入ったグラス片手に広間を眺めれば、今や聖女として教会の象徴となっている江原さんとこの国の文官として働く工藤さん、そして騎士団の一大隊を指揮する晴宮さんが盛り上がっている。そこから少し離れたところでは、僕から離れた菅と千柳くんが肩を組みながら歌っている。ここには、身分の差など存在していない。


こうやってみんなでワイワイ騒いでいるところを見ると安心出来るのだ。

人の死を感じない、日本での「日常」を思い出せるから。

それに、色とりどりの髪色が普通なこの世界で、黒やそれに近い茶、そしてだけの視界はそれだけでも落ち着く……。


「え、白?」


目を擦ってからもう一度広間を見回すと、黒や茶色しかなかった。


「……疲れてたのか?」


黒と黒の間に何故か白く長い髪が見えた気がして不思議に思いながら、そろそろ千柳くんに解散の提案をするべき時間かと思って立ち上がった時だった。


『女神フォルフールに踊らされた、愚かな人類どもよ。私……魔神クレアーレンの名の下に、貴様らの粛清しゅくせいを宣言する』


鋭い氷の刃を喉に突きつけられたような、ゾッとするほど冷たい声と口調をした人物によって、僕達の事を害するという内容と女神様の事を詰る言葉が届けられたのは。









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銀翼の鴉は闇世を照らす 風宮 翠霞 @7320

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