第39話 女王達は一段と入念に 零
『クレアーレン様、眷属の皆さんで一番強いのは誰なのですか?』
オリギーに手を引かれて帰って来たブルートはすぐに猫の姿に変化して私の肩でぐでーんとして休み始めたのだが、ふと思い出したように彼が言った言葉を聞いて、私は思わず笑ってしまった。
「ねえレア、君の眷属で一番強いのって、結局は誰なの?」
昔、会ったばかりのシュクリスが私に訊いた事と同じだったからだ。
新しく知り合った者はみんなそこを気にするのだなと、どこか愉快な気持ちになって笑ったのだが、どうやら質問を笑ったように見えたらしい。
私の表情筋は相変わらずあまり動いてくれないのだが、付き合いの長い奴らや魔力で繋がっているブルートには私が笑った事がわかるようで、少しムッとしてしまった。
仕方なく膝の上で撫でて、彼の機嫌を取る。……モフモフしてて気持ちいい。今までジロソニアがいたからどちらかというと犬派だったけど、猫もいいな。
ちょっと得した気分になりながらも、血の気が多いタイプの眷属達が聞いていると、それこそ血を血で洗う喧嘩を始めかねないので、窓の外に見える屋敷の外で並んで丸くなった状態で眠っているヤーマルギーアとジロソニア、そして部屋の隅で私が渡した子兎のモフモフぬいぐるみを撫で回しながら無表情で配下の死神達に指示を出しているオリギーに順に目をやって、それから機嫌が直った様子のブルートに話した。
四分の二。
半分に減った映像のその向こうを見ながら、静かに。
「誰が一番強いかどうかは場合によるから軽率には言えないけど、ブルートに忠告するのであれば、アフィスティアには逆らわない方がいいと思うよ」
『何故です?アラゾニア様ではないのですか?』
不思議そうに目をぱちくりと目を瞬きながら訊かれた事に、そう思うよなぁと頭の中で同意しながらも答える。アラゾニアは短気だから、わかりやすく危険な奴だ。
けど……。
「アラゾニアは、私が絡まなければ基本的に無関心だから問題ない。同じ女王でもラグニアは比較的温厚だから良いんだけどね、
あの狂犬ジロソニアや彼女の先輩であるアラゾニアでさえ、アフィスティアの事は尊重しているのだから。
「オリギーやラグニアのように大きな力を持つが故に同族の者達を統べる事になった面々とは違って、アフィスティアは河童、鬼、天狗などの多種多様な者達を捩じ伏せて頂点まで上り詰めた女傑だからね。ただ穏やかに微笑んでいる美しい女性ってだけじゃないんだよ」
彼女を舐めてかかると、痛い目を見る。
彼女は正々堂々の一騎打ちだけではなく、搦め手、奇襲、色仕掛けなどの手も必要とあれば平気で使う。
アフィスティアは、目的の為に清濁合わせ飲む覚悟を持った、正に女王の名を冠するに相応しい女性なのだ。
『……クレアーレン様の言う事を否定する訳ではありませんが、そうであるにしては随分と手こずっているように見えます』
「あぁ、ブルートにはそう見えるの?……丁度いい、じっくり見て学ぶといいよ。
女王を怒らせた者の悲惨な末路を」
女傑と共に動くのは、イタズラ好きな妖精と自然の守り手である精霊を統べる世界の愛し子の女王ラグニア。
アフィスティアと彼女は相性が良い。二人ともゆっくりと手回しをしてから、一気に畳み掛ける戦術が得意だ。
まだまだ宴は始まったばかり。
二人の女王は、豪華絢爛にフィナーレを飾ってくれる事だろう。
「まあ、まずはアラゾニア達の方がまた動くみたいだよ?」
『はい……凄まじいです……』
大トリの前のトリを、楽しんで眺めるとしよう。
ああ、ここからはもっと楽しいことになる‼︎
同じ属国という立場の国が二つも潰れ、後の二つの内一つにも目に見える甚大な被害が出ている事でやっと事の重大さを理解したのだろう。
「私の元同級生達も動き始めるみたいだからね‼︎」
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