地球へ

 調査隊の地球帰還の前日、元展望室のブリッジにモーガン船長と江崎副隊長がたたずんでいた。

「船長、地球に帰れば、船と共に引退ですね」

「いや~ もうひと働きしたいと、意欲がわいてきている所です」

「どういうことですか?」

「この星に帰ってきたいと思っています。ここにも防衛組織が必要です。この船も私の体もその程度ならお役に立てるのではないかと。地球に戻ったら、その提案をしようかと思っています」


「あなたもですか?」

「『あなたも』とは、どういうことです?」

「私も、ここに来たい。異星文化の学者として、言葉を統一して戦いがなくなる状況なんて、そうそうあるものじゃない。もしかして銀河の平和へのヒントになるかも」

「壮大な話ですね」

「しかも、私達だけではないみたいです」

「プロメテウスですね」

「彼の場合、バックアップにフルコピーして残していきますから、戻ってくるというより、残ると考えた方が良いみたいですね」

「真司くんも残るかと思ったのですが、違いましたね」

「彼は、新しい機器や考えで人が驚くことが好きだそうです。ここではなかなか驚いてくれないそうです。ただ、たまには遊びに来たいと言っていました」



 隆一がブリッジに入ってきて、二人の会話に参加した。

「いや~手間がかかりました。やっと地球人類が犯した『不平等条約』を理解してもらいました」

江崎が感想を述べた。

「隆一くん、ご苦労様、エンデュラス星系人相手ではきびしい様だな」

「江崎先生のおかげです。『条約は50-50の関係が基礎。不平等になれば、後々不幸になる』と教わりましたから。しかし先生の代理はきついです」

「私は年だからな。彼らは納得するまで考えるから、教えがいはあるが、後々きついよ。最初の内は知識欲がある生徒なので楽しいのだかな」

「それが、前回調査隊が大量の知識を与えた理由でしょうか?」

「判断できない。元来持っていた性質なのか、調査隊が来たことでそのようになったか」


「しかし、今回の『不平等条約』の話で、エステさんのアイデアが役立ちました」

「講義を放送して『教育』に活用する話か?」

「はい、惑星全体で一気に知識が広がります」

「単一言語の強みだな。そういえば彼は放送プロデュースの仕事を始めるようだな」

「はい。それだけでなく、バイオカムの権利を真司さんから譲り受けて、そのノウハウを地球に売り込みたいと意気込んでいました」

「少なくとも、他星系の横やりがなければ、エンデュラス星系は安泰みたいだな。ところで、隆一くんは地球に戻ってどうする?」

「まだなにも決めてません。しかし今回の行動で、目的というか理由というか、そう言ったものが見え始めました」

「どういったことかな」


隆一は、考えながら答えた。

「まだ明確に言語化できていませんが……簡単に言えば、人の役に立ちたい といったところでしょうか」

「具体的には?」

隆一は笑いながら答えた。

「まったく分かりません。ただ、人です。組織でなく」

江崎が納得して応じた。

「『政治ではない』ということか」

「はい。オヤジの真似はしたくありません」


いままで黙っていたモーガン船長は口を開いた。

「『人の役』に立つには、最終的には組織に関与せざるを得なくなるのではないかな?」

「たしかに、政治を含む組織に影響を与える必要もでてくるでしょう。しかしあくまで目的は人です。組織の為でなく」

「それは、お父さんと隆一くんのことを指しているのかな」

船長の問いに隆一はしばらく考えていた。

「それは、否定しません。自分が属する組織を第一と考える人がいることは否定できません。そしてそういった組織第一の人たちにも役立つ形を作りたいと思います」

「それは相当にむずかしいな」

「地球までの一ヶ月の間、十分考えてみます」


隆一の言葉を受けて、江崎が茶化した。

「悩むのは良いが、また切腹はやめてくれよ」

隆一は、この発言の答える前に、船長が対応した。

「大丈夫です。船の中なら、武力で制圧します」

「おとなしく悩みます」隆一はそう答えるしかなかった。



 船長が、話題を変えて、この旅の本来の目的を口にした。

「地球に帰れば、忙しくなる。彼らを指導する形になるので、地球人類は銀河連合のAクラス入りが確実になる。」

隆一が呼応した。

「それはどうでしょう。彼らの論理的思考能力、応用力を考えると、『地球人類がこの星系人を指導する』なんて、大それたことは言えなくなるかもしれません」

船長は当然の疑問を口にした。

「それでは、Aクラス入りが厳しくなるのでは?」

「友人でよいのではないですか? Aクラス入りはオヤジの仕事です。Aクラスであれば次元航行などの高い技術が使えるのでしょうが、遠方への宇宙航法を行わないなら、次元航行など価値はありません。AクラスだろうがBクラスだろうが、地球とこの星の住民が気楽に暮らせることが一番じゃないですか? 後はオヤジたちに任せればよいでしょう。私たちはこの星で働き過ぎました。私も『隊長』という名の雑務から降ろさせてもらいます」

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神の星 Akimon @akimonfirst

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