クローズドサークルに閉じ込められない人種
ちびまるフォイ
殺人鬼よりも怖い人
「ふ、船が沈んでいる……!?」
「コジメちゃん……!
それじゃ私たち……!」
「ああ、そういうことだ。
この"六番目のジャイソン"がいるという洋館に
閉じ込められたということだ……!」
稲光が轟いだ。
そのときはまだこの洋館ではじまる
おそろしい惨劇を誰も想像していなかった。
「いや待て!! 諦めるにはまだ早い!!」
そこに顔に迷彩柄を塗っている人が待ったをかけた。
「たしかに俺達が乗ってきた船は沈んだかもしれない。
だが、外部への連絡手段が途絶えたわけじゃないだろう」
「でもこの絶海の孤島じゃ、電話もネットも使えない」
「そうよ。それに定期便が3日後にくるから
3日だけの辛抱じゃない」
「バカヤロー!! サバイバルを甘く見るな!!!」
全員がひっぱたかれる。
「3日後の定期便!? 助けがくる!?
それがなんの保証になる! 死ぬかもしれないんだぞ!!」
「まあそれは……」
「すでにサバイバルは始まってるんだ!
全員協力して助けを呼ぼう!! 元気なうちに!!」
こうしてサバイバルガチ勢により一旦は洋館で資材を探すこととなった。
けれど、殺人犯のジャイソンはほくそ笑んでいた。
(ふふふ。いくら洋館を探したってムダだ。すでに先手はうってある)
「ガチ勢さん! 無線機を見つけました!」
「でかした!! ……が、これはだめだな破壊されている」
「直せないんですか?」
「無理だな。核となる部品も抜き取られている……」
(その通り。完全犯罪を実現するために根回しは欠かさないのだ)
「しかし、使える部品もあるぞ」
「なっ」
ガチ勢が壊れた無線機をさらに解体しはじめる。
犯人のジャイソンは予想外の事態に仮面の下で冷や汗が流れ始めた。
「あの、何をされてるんですか?」
「自作のアンテナだ。ケーブルや金属線は生きている。
これを使ってアンテナを作るんだ。
アンテナができれば無線機も使えるようになるかもしれない」
「し、しかし、ここいらの海域は非常に電波干渉が強く
その、無線もアンテナもきっと使えませんよ」
「バカヤロー!!!」
ふたたびほっぺをひっぱたかれた。
「なんでムリだと諦めるんだ!
どんな方法でもやってみなくちゃわからないだろう!!」
「そ、そうですね……すみません……」
「さあ、君はこのアンテナを持て。私はこのケーブルを持つ。
これを持って屋根にのぼってアンテナを置いてみよう」
「いや外は船が航行できないほどの悪天候ですよ!?」
「そんなこと関係ない! 時間との戦いなんだ!!!」
「ひえええ」
かくして横殴りの雨と雷がなり続ける荒天のなか、
ふたりは洋館の屋根の上に自作アンテナを取り付ける罰ゲームに取り掛かった。
結果は明らかだった。
「……だめだな。雨が強すぎて電波が通じない」
「そういったでしょう。さあ、早く戻りましょう」
「バカヤロー!! これしきで諦めてどうする!!」
「えええ」
「こっちから何か送信することができないだけだ!
まだ気づいてもらえる方法はある!!!」
ガチ勢の号令により、洋館でくつろいでいた人間は集められた。
「みなさん、3日後に助けがくるかもしれないですが
それはあくまでなんの保証もない。今は無人島に取り残されたも同然です」
「……」
犯人だけは知っていた。
3日後に自分の予約した船がやってくることを。
そうしないと完全犯罪をしたあとに脱出できないからだ。
でもそれをバラしてしまえば、自分が犯人ですと自供したも同然。
犯人は他の人と同様に困り顔をひきつりながらキープしていた。
幸いなのはホッケーマスクをつけているので表情がバレない点だけ。
「この洋館で空き瓶……それと紙を集めてください」
「そんなものどうするんです?」
「SOSのメッセージを書いて流すんです。
近くの船が通りかかったら気づくかもしれない」
「でも……3日後に定期便が……」
「もし来なかったらどうするんですか!!
3日後にあわててサバイバルを始めるんですか!
サバイバルは最初が肝心なんだ! 楽観的な思考は危険です!!」
「は、はいぃ!!」
こうして誰も寝ずに必死にSOSの紙を入れたビンが作られる。
体力の限界をとおに超えた頃に、ビンは海へと投げ入れられた。
色々準備してきたのにまっさきに体力削られたジャイソンは、
もう寝かせてくれと懇願するように聞いた。
「ガチ勢さん……これで……」
「はい。第一段階終了です」
「……聞きまちがいですか? いま、第一段階と……」
「第二の手といきましょう。さあ、洋館の食料を集めてください!!」
ろくに休めないまま洋館の食料をはじめ、
使えそうな資材を必死に集めさせられた。
「ではこれを外に持ち出してください」
「どうしてそんなことを?」
「危険だからです」
「はい?」
外にある小さな小屋にすべて運んで振り返った。
そのときにはすでに洋館は炎に包まれていた。
「が、ガチ勢さん!! 洋館が燃えてます!!」
「はい、燃やしました」
「燃やしました!?」
「これだけデカい館です。ガソリンもたっぷり入れました。
雨ですが、気づいてくれる船もあるはずです」
キャンプファイヤーどころではない燃え方に犯人は言葉を失った。
きっとあの火の中には自分が必死にこしらえた犯行トラップもあるのだろう。
「さあ、まだこんなものじゃないですよ。早く助けを呼ばないと」
「まだあるんですか!?」
ガチ勢は館から持ち出してきたトイレの鏡をかかえてくる。
「これで光を反射させて、海の外へ向けるんです。
これだけ炎が明るいんだからきっと気づいてもらえるはず」
「この雨の中でですか!?」
「明日が晴れる保証がどこにあるんです?」
こうしてツアー参加者は全員雨にふられながら、
鏡や必死に白い布をふったり、信号弾を打ったりを休まず続けた。
体は冷え切り。
意識も遠くなる。
体力の限界がきたとき、もう犯人が耐えられなくなった。
「もうカンベンしてくれ!! 俺が六番目のジャイソンだ!!」
「本当なのコジメちゃん!?」
「ああ……本当だ。この洋館に呼んだのも俺だ。
そしてみんなを殺そうとしてたんだ」
犯人は自分の身の上話と、殺害を決意するまでに至る悲しい過去。
自分がジャイソンに身を落とすまでの闇落ち過程を話した。
「……ということだ。といっても見ての通り洋館は焼け落ちた。
そして犯人はこの通り自供している。
もう殺人の体力もない」
「つまり……?」
「もう助けを呼ぶ必要なんてない。
どうせ3日後に俺が最初に呼んでいた救助船が来る。
みんな、あの小屋で温まろう。こんなふきっさらしで助けを呼ぶ必要はないんだ」
こうして事件は誰ひとり犠牲者を出さずに終わった。
犯人の独白をうけて、ガチ勢は最後に叫んだ。
「バカヤローー! あんたの救助船が来ないかもしれないじゃないか!!」
こうして三日三晩助けを呼び続ける苦行が再スタートした。
クローズドサークルに閉じ込められない人種 ちびまるフォイ @firestorage
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