第3話 一通の電話
メイド喫茶を後にした後、俺は山手線の電車を乗っていた。
今日は金曜日ということもあってかなり込み合っている。
酒が入っているっぽい人も多く、いつもより騒がしい。
普段通りなら酔っ払い話し声が聞こえてきたら心の中で舌打ちをしているが、今日は違った。
頭の中ではメイド喫茶で有栖川がバイトをしていたこと。
俺のメイド喫茶通いがバレてしまったことでいっぱいだった。
だ、大丈夫だよな?
いきなり教師を辞めさせることはないだろうが、もし他の生徒や先生にバレた場合……。
『先生メイド喫茶好きなんですぁか? そんな趣味してたんですねぇwww』
『今年の文化祭はメイド喫茶にしましょうか? 先生いれば再現度も高いでしょ!www』
『長谷川先生~! 何で俺と飲みよりメイド喫茶を優先するんですか! じゃあこれからはメイド喫茶で飲みましょう!』
まずい……。
これは実にまずい……。
「何とかしないと……」
最悪の場合、校内で『メイド好きの変態教師』というレッテルを貼られる可能性がある。
さすがに退職というところまではいかないだろうが、単純に俺が耐えられる気がしない。
誰だって人に言えない趣味や秘密くらいあるだろう。
それが俺にとって『メイド喫茶通い』というものなのだ。
嫌な想像を続けたのと人が多くなって蒸してきた電車内のせいか、首元から汗が滲んできた。
「ん?」
その時、ズボンのポケットから振動が伝わってきた。
なんだ……?
「電話……?」
取り出したスマホの画面には『父』という文字が映っている。
しかしここは電車の中なので出ることができない。
俺はスマホを片手に持ちながら、ちょうど止まった『目白』で降りて電話に出ることにした。
なるべく人とぶつからないよう、お腹を引っ込めながら人の間を通って行く。
外に出ると、新鮮な空気が全身を包む。
もう少しだけ味わいたいところだけど、さすがに電話に出るとするか。
『もしもし親父?』
『おっ、勇気か! 悪いな突然。今、大丈夫か?』
『ああ。でも珍しいな電話なんて』
言葉にした通り、親父と電話なんて半年以上前のことだろう。
別に仲が悪いわけではないが、特に連絡することもないというのが正直な感想だ。
『ちょっと話があってな』
『話?』
『その……なんだ。もう、母さんがいなくなって随分経つだろ?』
『そう……だね』
電話越しでも親父の声がどこか寂しそうに感じた。
親父が離婚したのは俺が高校生の時。
詳しいことは聞いていないけど、母さんが浮気をしたみたいなことを耳にした記憶はある。
それから親父は一人で俺を育ててくれた。
大学を卒業した後も家を出るつもりはなかったが、学校の距離的な問題で一人暮らしをしている。
『お前がいなくなってから家が広く感じてな……』
『帰って来いってことか?』
『違う違う。そういうことじゃない。それにお前には仕事があるだろ?』
『じゃあ何なんだよ』
わざわざ電話をかけてきた理由がよく分からず、思い切って問いかけてみた。
すると、親父が暫く黙り込んだ。
小さく『その……』や『あれだ……』という声だけが耳に届く。
それから数十秒後、俺は度肝を抜かすことを告白される。
『あのな……父さん、再婚しようと思うんだ』
教え子が義妹でメイドなんだがどうすればいい? そえるだけ @soerudake
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