第4話 魔眼を持つ男

4話 魔眼を持つ男


俺が死んでから30年も経っていることを聞かされた俺は困惑していた。


その表情を見てセリアも困った顔をしていた。


「ネロスはさっき転生に失敗して魔力を失ったと言っていたわよね?

失敗の原因は主に3つよ。

1つ目は転生術を発動させる魔力が足りなかったこと。

2つ目は転生術の魔法陣が間違っていること。

3つ目は魔法陣をを描いた紙が膨大な魔力に耐えられずに燃えたか。

どれか心当たりがあるかしら?」


「勇者が来る前日に魔力をしっかり込めたし、死ぬ寸前に残っていた魔力を全て注ぎ込んだから魔力不足はない。

魔法陣は紙ではなくかなり強度の高い古代石に書かれていたから壊れることはない思う。

俺もそこまで転生術に詳しくはないから魔法陣の間違えはあるかもしれないな。」


「あなたが作ったわけではないの?」


「ああ、俺が魔王城に入った時に見つけたんだ。

誰が描いたかは知らないが大昔のものだろう。

調べていくうちに転生の魔法陣だと分かったんだ。」


「そう…一旦家に帰りましょう。」


あたりはもう暗くなっていた。


家に帰るとセリアは色々な転生術に関する色々な資料を持ってきて、俺が伝えた魔王城にある転生の魔法陣がどんな設定がされていたか調べてくれた。


記憶を引き継ぐか、能力を引き継ぐか、どこにいつ転生するか、転生体として生まれるのか、転生したい体に転生するのかなど、様々な設定ができるのだ。


「ちゃんと転生時の設定はされているわね。」


魔王城の設定は転生前の記憶と能力を全て引き継いですぐに魔族に転生する。

ただし赤子になるというものだった。


魔法陣や結界を張るときは縛りをつけた方がより強力になるので、赤子からという申し訳程度の縛りをつけたのだろう。


「死後30年に魔力を持たずに人間に転生なんてありえないだろ?」


「おそらく魔力が足りなかったせいね。

現物を見ないとなんとも言えないけどこの箇所とこの箇所は別の魔法陣を組みこめるようになっているわ。」


「他の隠してある魔法陣なんて見当たらなかったぞ?」


「それじゃあ、古代石の種類はわかるかしら?」


「魔王城でしか見たことがない種類だったな。何をしても傷ひとつつけられなかった。」


「行って確かめるしかないわね…」


確かに30年も経っているのだ、自分の帰りを待つ仲間がどうなったのか、勇者一行はあの後どうなったのか、世間がどう変わっているのか色々と気になることがある。


「よし、そうと決まればさっさと出発するぞ!

魔界までの転移魔法陣を描くからちょっと待っていてくれ。」


「まちなさい。今のあなたは魔王じゃなく人間なのよ。

それに30年経って情勢もあなたが生きていた頃とは大きく変わっている。

どこに行くにしてもちゃんと準備していかないと死ぬわよ。」


「確かにそうだな…」


セリアは結構しっかり者のようだな。

急に人間の姿で帰ったら配下もびっくりするだろうし、最悪他の魔族に魔王城に着くまえに殺されるかもしれない。


「明日からは装備を揃えに買い物に行くわ。」


「どこに?」


「魔法都市カーン。人間の国、随一の魔法都市よ。

ここから歩いて1週間はかかるから通りかかる行商人に乗せてってもらいましょう。」


魔法都市カーンは人間の魔術師を管理している魔法ギルドの本部がある大都市のようで、

そこは強力な魔法使いや魔法の研究、マジックアイテム、装備などが揃っているらしい。


転移魔法は結界が張られているため街に直接転移することができない。

防衛上の問題仕方ないが、最短で歩いて1週間ほどかかる場所にしか転移できないのだ。


彼女はたまに護衛として行商人の馬車に乗り込みカーンまで買い物に行くそうだ。


「魔王が転生していたことがバレると面倒ごとが必ず起きるからバレにようにしてね。」


転生術は禁忌のようで使用したら関係者全員、死罪のようだ。

それに魔王復活となると世の中が混乱するだろうしな。


「お前はエルフってバレないのか?」


「ターバンで耳は隠すし、肌が焼けて小麦色になっているから、みんながイメージしてるエルフとは全然違くなるのよ。それにエルフを見たことがない人しかもういないから簡単にはバレないわ。」


彼女はなんでもないように答えたが、俺は少し寂しく感じた。


次の日彼女と崖の家を出発し、行商人が転移魔法でやってくる地点に来た。

決められたポイントに転移をしないと国家転覆を狙っているとして最悪死罪になるようだ。


そこはちょっとした街になっていてボロスという名前の街らしい。

そこには護衛希望者の屈強な奴らが何人もいた。

魔族も数人いる。

俺が討ち取られてからも魔族が人間と仲良くやっているようで嬉しいよ。


歩いていると視線を感じた

セリアは杖を持ち、にローブを来て三角帽子を被っているので立派な魔法使いに見える。美人だしな。


対する俺は腰に剣を据えて、魔道具の指輪を1つ付けているが、防具はなく、ほぼ肌着だけで格好なので貧相に見える。

その上、セリアが色々と詰め込んでいた大きなカバンを背負っているので荷物持ちの奴隷って感じだ。

魔王だった頃の威厳もかけらもない、泣きそうだ。


向こうから野太い声が聞こえてきた


「おう!セリア久しぶりだな!」


「あら、ゴンズさん久しぶりね」


ゴンズと呼ばれたスキンヘッドの大斧を装備した大柄な男が子分を5人引き連れて近づいてきた。


「今回も一緒にパーティを組まねぇか!

お前さんほどの魔術師がパーティにいれば心強い!」


「ええ、こちらこそよろしくね。

ネロスこちらはゴンズさん。

とても頼りになる方よ。」


「ネロスだ。よろしくゴンズ。」


「ゴンズだ。

あんちゃん、見たところ剣士だろ?

そんな薄っぺらい装備で大丈夫かい?」


心底心配そうな顔でゴンズはまじまじと俺を見ている。

強面だがいいやつそうだ。


「大丈夫だ、物理攻撃が当たる相手なら遅れは取らない。」


「そうか!そうか!なら心配はいらないな!

しかし、セリアが誰かを連れて歩くとは珍しいな!」


ゴンズは声もでかいな。

コソコソ話とかできなさそうだ。


「そうね、良いところを見れてよかったわね。」


「ダハハ!違いない!」


ゴンズが色々な行商人と交渉してくれているが中々話がまとまらないようだ。

セリアは任せとけばいいとお茶を飲みながら、カーンについて俺に教えてくれた。


カーンは魔法ギルド本部がある大都市で魔法についての叡智が詰まった街らしい。

だが、道中は少し物騒だった


「ここの森は必ず野党が出る。魔物も調教して使役してくるから厄介な連中、

でもゴーストのように剣が効かないなんてことはないから安心して良いわよ。」


「わかった。だがなんで…」


「失礼、君達私の護衛を受けてくれませんか?」


突然40歳ぐらいの男にご指名を受けてしまった。

片方の瞳が金色だ。


「魔眼持ちね…」


「そうだな」


問題はこの男の魔眼が何を見ているのかだ。

魔王であることがバレるのは流石にまずいと思う。


「突然失礼いたしました。

私はダニエル商会の会長ダニエル・アールバック

もし、あなた方がよろしければ私共の護衛を引き受けていただけないでしょうか。」


「良いわよ。

私はセリアこっちはネロスよろしくねダニエルさん。」


セリアはふたつ返事で承諾した。


良いのか!?

俺が心配そうな顔をしていたのか、彼女は耳元でささやいた。


「あなたと私の正体がバレていたとしたら、始末しないとでしょ?」


背筋が冷えた。

セリアはいつもお淑やかな雰囲気だが、冷徹な一面もあるようだ。

あまり怒らせないようにしよう。


「ゴンズ達を呼んでくるよ。」


俺は逃げるようにゴンズの元へ走った。

いってらっしゃいと笑顔で手を振るセリアさんがちょっと怖い。


ゴンズ達はまだ護衛の仕事を見つけていなかった。

依頼を引き受けたことを話すと。


子分達はセリア姉さん流石と沸いていたがゴンズは

「面目ねぇ」と俯いていた。

なんとなく力関係が見えてきた。


セリアのところに戻るとダニエルと話していた。


「話はまとまったわ行きましょう。」


「着いてきてください!」


ダニエルは自分のの馬車の元へ歩き始めた。


ダニエル商会は最近創業されたばかりで馬車や従業員は少ないが、新進気鋭の勢いがある行商隊らしい。

確かに活気が合って気力に満ちた者が多い気がする。

彼には妻とまだ幼い娘が1人いる。


カーンに向かう予定だったのだが、野盗に襲われて護衛が全滅し命からがらこの街に戻ってきたという話だったが、みんな元気そうだ。


小声でセリアに話しかける。


「なあ、ダニエルの魔眼がどんな効力かわかったか?」


「わからない。

いい人材は光って見えるらしいわ。

警戒はしておいた方がいいわね。」


「商会が急成長しているとこを見ると、人を見る目は間違いなさそうだしな。」


2人の間に緊張感が走る。

覚悟は決めておこう。


出発の時刻になり、俺たちは馬に乗ってダニエル商会の四方を囲むように警護し

魔法都市カーンに向けて進み始めた。

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最強の魔王様は転生失敗して人間になったので、大嫌いな人間の勇者のためにダンジョンに宝箱を設置する ぼくはち @bokuhachi

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