第3話 出会い

3話 出会い


「ネロス君に頼みがある。人間を救って欲しい。」


約5000年前に原始の魔王を倒し人間共に神と崇め奉られている初代勇者『グラディウス・エルドランド』が、つい先日転生するまで魔王だった俺に「人間を救って欲しい」だと?


「何言ってんだ?お前」


だいたい、原始の魔王と初代勇者の戦いなんて俺の生前の大昔の出来事で御伽話のような物だ。

なのでグラディウスの容姿や声などは実際に見た事も聞いたもない。


目の前にいる白いモヤモヤした玉がグラディウスなんて言われて信じる奴なんていないだろう。


「おかしいだろ、俺は魔王だ、魔族だぞ?

つい先日、人間に殺されたばっかりで、人間を全滅させることはあっても救う義理はない!

それより俺の質問に答えてもらおう!何で人間の体になんかに転生させたんだ?」


「君の言いたいことはわかるし、聞きたいこともあるだろうけど悪いけど時間がないんだ、次に会えるのがいつになるかもわからないから、聞いて欲しい。」


矢継ぎ早にグラディウスは続ける。


「君を助けたエルフの魔女の手助けをしてあげてほしい、彼女なら君の奪われた力を取り戻せるかもしれない!」


「俺はやるとは一言も…」


「すまない!もう時間だ見つかると君が殺されてしまう、きっとまた会える。武運を祈る。」


「待て!」


グラディウスを名乗る白い球体はもう消えていた。


目覚めると俺は見知らぬ部屋にいた。

俺は川の中にいたはずだが…

さっきまでのは全て夢だったのか?

夢だといいな。


自分の体を確認してみるが、残念ながら人間に戻っていた。


体には毛布がかけられていて火傷は綺麗に治されている。

まさか本当にエルフの魔女とやらが助けてくれたのか?

エルフは大昔に絶滅したと聞いていたが…


俺はベットから起きて部屋の中を歩いてみる。

資料やら魔道具やら魔法陣が描かれた紙が床に散乱していて足の踏み場に困る。


エルフかどうかはわからないが魔法に関するもので溢れかえっているこの部屋を見ると魔女は住んでいそうだな。



魔法陣は紙や地面などに描くことで、魔法にする事象のイメージを描くことで、誰でも魔力を流すだけで魔法が発動できる代物だ。

まあ、魔力が少ない俺じゃエネルギー不足で使えないだろうけどな。


しかし汚い部屋だ。

誰かが暴れ回ったのか?


部屋を歩いていると、複雑怪奇だが見覚えのある魔法陣が書かれているものを見つけた。

それは魔王城にあった転生の魔法陣によく似ている。


それを手に取ってベットに座りなすと毛布の影に隠れて純白の布が落ちていることに気づいた。


部屋の汚さを洗い流して帳消しにするような輝きがその布にはあった。

俺は無性に気になったので手に取って両手で顔の前に広げる。


これはパンティだ。


「起きたわね…君は何者なのかしら?」


ビクッとして、声の方を見るとそこにはスラっとした長身で頭にターバンを巻いたやや褐色の美女が冷たい目こちらに向けて立っていた。


そのミステリアスな雰囲気はどんな男だってドキドキするだろう。

パンティを見ているところを見られたとかやましい理由があるわけではない。


この美女がエルフかはわからないが、一つ理解できることがある。

それはこの女はかなり強いということだ。

隙がない上に、魔力量もかなりの量だ。


俺は咄嗟にパンティを後ろに隠して助けてもらった礼を言った。


「まずは助けていただいたこと感謝する。俺は魔王ネロスだ。」


「…どう見ても人間よね?

それに魔力がほぼない君が魔王を名乗るの?」


「当たり前だ、俺は魔王だからな。」


「わかったわ。じゃあ君はあの森で何をしていて、何が起こったのかしら?」


「勇者シルバに殺されて転生したらあそこにいたから何をしていたかは知らない。

周りにはゴーストに殺されたこの体の仲間だと思われる人間が20人ほど倒れていた。

そしてゴーストに囲まれて逃げていたら、山火事に巻き込まれ、川に落ちて目が覚めたらここにいたというわけだ。」


あれ?なぜ俺は見ず知らずの女にペラペラと喋っているんだ?

魔王であることも転生したことも話してしまった。

なんだか急に冷静になってきたぞ。

握りしめていたパンティが少し冷たく感じる。


「もしかしてこれか?」


「正解、君が大事そうに握っている下着に、誘惑の魔法と自白の魔法をかけていたの、引っかかったみたいね。」


「俺をどうするつもりだ?」


とっさに身構える。


「そんなに警戒しないでよ、ネロスくん。君を傷つけることはしないわよ。

ただ、君の言っていることが本当なら教えて欲しいことがいくつかあるかな。」


「お前は人間の姿の俺が魔王だということを信じるのか?妄言かもしれないぞ。

魔王だとしたらお前など瞬殺できるだけの技量はあるぞ」


もちろんこの体では勝てない。

おそらくこの部屋も魔法のトラップがいくつも仕掛けてあって俺はこの女の制圧下なのだろう。


ハッタリで相手の出方を伺うと女は声をあげて笑った。


「ふふふ、君じゃ無理よ。

あんな簡単なパンティトラップに引っかかるんだから。

魔力がないどころか、魔力探知すらできてないじゃないの。」


俺は恥ずかしくて顔が真っ赤になった。


「転生失敗して魔力を失ったんだ…

原因は分かってないけどな。」


「まあいいわ。

私の魔法はネロスと違って精度が高いから君の言ったことは信じるよ。

散歩しながらでも色々教えてよ。」


警戒しながら俺は女について家の外に出る

しかし魔力探知もできないとは情けないものだ。


魔力探知ができないと、魔法攻撃や先程のパンティのような魔法のトラップを感知したり対抗することができないので魔法に対して無防備なのだ。


つまり俺はこの家にどんなトラップが仕掛けられているかもわからないし、この女が魔法で攻撃してきたら、なす術がないのだ。


今はとりあえず従うしかない、武器も今は持っていないし無駄な抵抗をしても勝てないからな。


外は日が沈み始めているようだった。


女の家は崖の中腹あたりにある洞窟を利用して作られていた。

彼女は崖に造られた通路を登っていく。

近くには誰も住んでいないようで彼女は一人暮らしのようだ。

崖の下には川が流れていて、そこに俺が流れ着いたらしい。


俺は夢の中でグラディウスに言われたことが気になって聞いた。


「なあ、お前はエルフなのか?」


女の声に緊張感が走る。


「だとしたら、どうする?」


「どうもしない。

遅くなったが助けてくれてありがとう。」


「そう…」


彼女は黙ってしまった。

持っているパンティは完全に冷え切っていた。

もう何の魅力も感じない、魔法の効果が切れたのだろう。


エルフは2000年以上前に絶滅したと聞いている。

もともと数は多くなかったが高度な魔法技術を持った種族で、それを恐れた当時の魔王がエルフの国を襲撃し、同盟国である人間の国はエルフの弱体化を狙って支援せず、逃げてきたエルフを捕まえては魔法技術を盗んでいた。


最終的には高度な魔法技術を盾に全ての種族を支配下に置こうとした邪悪で傲慢な種族とし迫害され、狩られ続けていたら滅んだとかそんな感じだったと思う。


真実はわからないが、エルフ族の評判は最悪だ。


俺も500年近く生きているがエルフには1度も会ったことがないし、これも御伽話のようなものになっているから、よく知らないし、悪感情はない。


迫害されて、一人ぼっちでこんな辺鄙な場所に住んでいるなんて寂しいだろうな。

俺はこのエルフが少しかわいそうに思い始めていた。


助けてもらったので礼に何かしてやりたいな。


そんなことを考えていると崖の上についた。

日が落ちていくのが見える。


彼女は夕日を背にして頭に巻いたターバンを外す。


凛とした切長の耳が顕になり、美しいブロンズの髪が太陽に反射してキラキラと輝く。

この姿を見たらエルフの今までの評判なんて吹っ飛ばして、女神と称えられるだろう。

俺だって魔王で許嫁もいる身なのに心を奪われそうだ。


「私はセリア・アスティ。エルフよ。

エルフがなぜ滅ぼされたかを解明しようとしているわ。」


「どうしたんだ急に?」


「どうせ名乗るならカッコよく美しい方がいいでしょ?」


俺はセリアに親近感をかなり持った。


「なあ、セリア。

いくつか俺に聞きたいことがあるって言ってたな。

助けてもらった礼に俺ができることなら手伝わせてくれ。」


「ありがとう。

じゃあいきなりだけど、あなたはなぜ討たれてから30年経った今、転生したのかしら?何か目的があるの?」


は?セリアは今なんて言った?討たれてから30年?


「おい今って、何年なんだ?」


「?………… 4998年よ?」


俺が死んでから30年も経っているだと!?


「どうなってるんだよおおおぉぉぉ!!!!」


俺はセリアの役に立てるのだろうか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る