ファイアーボールが得意で良かった大学生ちゃん Ⅷ
「わ、私、お兄さんの部屋に上がり込んでいますよね?」
「そうだね」
「ここに住んでいるのかってくらい上がり込んでますよね?」
「そうだね」
「つまり、私もお兄さんも心を許し合っているから一緒にいるわけですよね?」
「そうだね」
「……それって……あの……カノジョって……こと……ですよね?」
「…………」
「なんで黙るの!?」
星見さんと居ると心地良い。
ずっと居てほしいと思っているから俺は彼女に恋心を抱いた。
帰省してきたら真っ先に告白しようとも思っていた。
つまり、告白を行う前の現状は恋人関係に至っていないのが正しいのだけど……
「……ぅぅぅううううう!!」
涙目で怒りを示してくる星見さん。
つまりの所、星見さん的にはとっくに俺と恋人関係になっているつもりだったようで、俺の部屋に上がり込んでいるのはカノジョの特権であるのだと思い込んでいたようだ。
「星見さん。聞いてくれ」
告白するなら今しかない。
正式に彼氏彼女になって一緒にいる権利を正式に勝ち取るんだ。
しかし——
「……嫌!!」
「えっ?」
「わ、私、勝手にお兄さんの彼女と思い込んでいた痛いヤツって思われてたんだ。彼女でもないから私はここに居る権利なんてないんだ!」
「違う! そんなこと一寸たりとも思っていない!」
「ごめんなさい!」
涙を散らしながら星見さんはこの部屋から出ていこうとする。
俺は彼女を慌てて食い止めようとするが……
「待ってくれ! 頼むから落ち着いてくれ!」
「嫌っ!!!」
物凄い力で俺の腕を振りほどき、星見さんは俺の部屋から出て行ってしまう。
彼女は自分の部屋に駆け込んでいき、ガチャとロックを掛けてしまった。
俺は彼女の部屋のドアを叩きながら、叫ぶように懇願する。
「星見さん! 俺はキミが好きなんだ! 心の底から一緒に居てほしいと願っている。だからここを開けてくれ! 俺の部屋で話し合おう!」
「…………」
「星見さん! 頼む! 俺をキミの彼氏にしてほしいんだ!」
「…………」
「星見さん……」
駄目……か。
今は時間を置いた方がいいのかもしれない。
くそっ! どうしてこんなことになってしまったんだ。
星見さんが逃げ出す前に俺が告白していればこんなことには……
「くそっ!」
今さらになって自分の不甲斐なさに腹が立ってきた。
……いや、諦めない。
明日からも俺は彼女に会う為に全力を尽くそう。
そしてあの居心地の良い空間を絶対に取り戻す。
「(い、いいいい、今、お兄さん、私のこと好きって言ってなかった!?)」
「(か、かかか彼氏にしてほしいって言ってなかった!?)」
勝手に恋人と思い込んでいて羞恥のあまり逃げ帰ってきちゃったけど、お兄さん私の部屋の前で告白してくれてない!?
ボッと瞬時に顔が真っ赤に染まる。
生まれてこの方告白などしたこともされたこともなかったので、どう対応すればいいのかわからない。
た、たぶん正解は今すぐドアを開けて告白の返事をすることだよね。
よ、よし……っ!
「…………」
ドアノブに手を掛けるがそれより先へ進むことができない。
は、恥ずかしさで身体が動かない。
真っ赤に染めている顔をお兄さんに見られるのが恥ずかしい。
いや、恥ずかしいとか言っている場合ではない。
お兄さんがあんなに誠意を込めて告白してくれているんだ。
きちんとそれに答えられる女になりたい。
なりたい……のだけれど……
「…………」
だ、駄目だ!
あんな風に部屋から飛び出してきておいてどんな顔して会えば良いのかわからない。
す、少しだけ時間を置こう。
うん。それが良い。
深夜1時。
星見さんが部屋を出て行ってから3時間が経過した。
俺は全然寝付けないでいた。
明日も避けられたらどうしよう。
もう星見さんとこの場所で過ごせなくなったらどうしよう。
負の感情が螺旋のように脳裏を巡っていた。
「(いや、きっと大丈夫だ。お互いに落ち着けばちゃんと話が出来るはず。その時にもう一度告白を——」
——最古の煌めきより創出されし朱よ。
「……えっ?」
ふと、星見さんの声が聞こえた気がした。
彼女へ恋焦がれているあまり幻聴が聞こえてしまったのか?
——赫灼たる煌めきを映し出す咒力の影よ。
「……違う。幻聴なんかじゃない」
それは間違いなく星見さん本人の声で。
この壁の向こうからしっかりと聞こえてきた。
——現世に蘇りし光となりて、今ここに放たれん!
聞き覚えのある詠唱。
それは彼女が最も得意とする剛炎の調べ。
俺は慌てて自室の玄関に駆け寄った。
——穿て……ファイアーボール!
コンコン
俺の部屋のドアをノックする音がした。
俺は勢いよくドアを開けると、そこには手をモジモジさせているパジャマ姿の星見さんが立っていた。
「あの……ですね……もしかしたら私のファイアーボールがお兄さんの部屋に飛んで行っちゃったかもしれなくてですね……その……お部屋に被害がないか確認させてもらいにですね——」
ガシッ!
いじらしいことをモジモジを呟く星見さんを俺は力強く抱きしめた。
「わ、わわっ! お兄さん!?」
もう逃してなるものか。
もう後悔してなるものか。
腕の中で真っ赤になっている女は——俺の物だ!
「星見さん! キミのことが好きだ! 誰よりも愛してる! ずっと一緒に居てくれないと寂しくて死ぬ! だから……だから……!」
「お、おおおお、お兄さん!? んと、えと、今さらかもしれませんが、私もお兄さんのことを好——」
「今からキミを『
「ふえええええ!?」
「そうだ。隣の部屋は明日契約を解除しに行こう。キミは今からここに住むんだからもう隣の部屋なんていらないよな?」
「お、おおお兄さん!?」
「大丈夫。今は窮屈な部屋かもしれんが、大学卒業して収入を得る様になったらもっと広い部屋に移り住もう」
「お兄さん!!??」
俺の腕の中でワタワタする星見さんが愛おしくて仕方がない。
たった3時間離れていただけなのに、俺は精神が崩壊するレベルで不安になっていた。
俺には星見さんが絶対必要だ。
「俺の眷属に……なってくれるよな? ファイアーボールが得意な魔法使いちゃん?」
「…………はい。生涯貴方様に尽くすことを誓います。ルシファー」
今度は星見さんの方から俺を求めるように力強く抱きしめてくる。
俺も負けじと彼女の背中を強く引き寄せた。
月明かりが差し込む窓辺に二人で寄り添う。
凭れかかってくる星見さんの肩を抱きながらぼーっと美しい満月を見上げていた。
「星見さんはいつから俺のことを好きになっていたんだ?」
「……たぶん、初めてファイアーボールを打ち込んだあの日から……もう気になっていたのだと思います」
「それはまたハイスピードな一目惚れだね」
「お兄さんはいつから私のことを好きになってくれたのですか?」
「んー、この気持ちを自覚したのは帰省するちょっと前くらいかな」
「……遅い」
頬を膨らませながらジトッと俺の瞳を覗き込んでくる星見さん。
「ごめんごめん。でも星見さんがハイスピ―ドで俺のことを好きになってくれたから、俺もキミのことが気になりだしたんだよ?」
俺のことが気になって星見さんが連日のように魔法を打ち込んでくれるようになったから……
一緒に過ごす時間がどんどん心地よくなっていって、その時間がかけがえないものになったから……
俺は彼女のことを好きになったのだ。
「そっか。つまり、私勝ち取ったんですね。この
「ああ。そのハピネスを今後は二人で分かち合っていこうな」
「えへへ……はい!」
コロンと転がり、星見さんの頭が俺の膝元に乗っかった。
膝元から微笑む彼女の顔が月光に照らされる。
月色の微笑みはあまりにも眩しくて彼女の瞳から目が離せない。
どうやら俺はまた彼女の魔法にかかってしまったようだ。
「魅了の魔法か。さすが星見さん。まだ隠し玉を持っていたとは」
「むふふ。無意識の内に魔力があふれ出ていたみたいですね」
「星見さんのことをまだまだ侮っていたみたいだな」
「……ねぇ。恋人なんですから、名前、呼んでください」
甘えるように懇願してくる彼女。
初めて彼女の名前を聞いたとき、彼女にピッタリな響きでちょっと驚いたことを思いだした。
漆黒な天を連想させる綺麗な黒い髪。
彼女の明るい性格は黒い空で輝く綺麗な星々を連想させる。
俺は、彼女の一番星になれたんだな。
その喜びを全身に巡らせながら、俺は初めて彼女の名前を呟いた。
「これからもよろしくな……夜空」
――――――――――――――――――――――――――――
大学生ちゃんシリーズは当話にて終了いたします。
アフターストーリーを書きたい欲もあるのですが……執筆予定は現段階では未定です。
次話よりまた別の物語を書いて参りますが、現在カクヨムコン用の長編を書き始めておりますので、ハイスピードはぴねすの更新は更に滞ってしまうかもしれません。
一応、合間の時間にちょこちょこ書いては参りますので、気まぐれに更新がございましたら覗いてもらえると嬉しいです。
ハイスピード はぴねす ~超スピードで幸せになるラブコメ~ にぃ @niy2222
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ハイスピード はぴねす ~超スピードで幸せになるラブコメ~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます