鮫人間

釣ール

リクワニ

 はあはあはあ。

 こっちだ。

 はやく、はやく逃げないと。


 はあ。はあ。

 ふう。


 後ろを見て捕食者が現れないか確認をする。

 このコンテナの後ろまではさすがにやってくるはずがない。

 念の為上も確認したがまさか捕食者がジャンプなんてできるはずもない。


 息を吐き、人は安堵する。


「逃げられると思うか?」


 声が目の前で響く。

 うそだろ?

 どうやって、


 いつの間にか顔をつかまれて声が出せない。


「陸を調べるための犠牲だ。悪く思うな。」


 大あごをひろげる『喋るサメ』は物言えぬ人を自分自身に取り込んだ。




◆ ◆ ◆



 海から物理法則を無視できる宝をいただいた。

 大昔人間が浦島太郎という物語でしるした竜宮の箱。


 人間は海から逃げて陸で繁栄した。

 そして海にも脅威をひろげている。


 そろそろ人間の時代の幕をおろしてみたいと願う魚介類も増えてきた。

 もちろん人間退治に素人である海の生き物は黙って仲間を食われるのを眺めるしかできなかった。


 そこで興味深い話があった。

 ある国では一つのとうとい生き物として大切にされてる水も陸も暮らせる「カエル」がある国では天敵がいないからと人間の次に強者集団として暮らしている。


 しかし人間には食われているらしい。

 結局人間はついてまわる。


 なら人間として潜伏してしまえばいい。

 一体のサメが海の秘密をさずかり、人間世界へと潜伏することになった。


 カエルを調べるためにサメが陸に上がる。

 生きていると何が起こるか分からないものだ。



 そうしてサメは人間の身体を得て近くの池へ向かう。

 デリケートな身体なのでカエルを食って調べるわけにはいかなかった。

 その代わりコミュニケーションはとれる。


 元々海で数多くの狩りをしてきたからか人間の技を使ってカエルを釣ることに抵抗はなかった。


 せめてヒントだけでも聞きだそう。

 警戒心が強い獲物の狙い方は知っていた。

 普段泳がないと死んでしまうサメにとって人の身体は落ち着きを取り戻せる。

 途中人間に身分証明なるものを必要と言われたがなんのことかは元になった人間の記憶を読み取って知ったので危機はまぬがれた。


 即席で作った木の棒の竿さおに赤い紙を貼り付けて気配を殺し、ぶら下げればカエルが釣れた。


 こいつがこの国で繁殖し続けられた肉食動物か。

 色々と聞きがいがある。


 人間の科学に頼ることも考えたが時代によって隠蔽と改竄かいざんが行われる研究じゃ足はつかめない。


 直接聞いた方が早かったのだ。


 そして捕まえたカエルを乱暴に恐怖を教え込むようつかみ、話をすることにした。


「やっと捕まえた。お前。どうやって繁殖に成功した?海でも噂になっている。

今じゃこの国でお前達が見当たらない地域はないらしい。

陸にそこまでの餌はあるのか?

俺たちは海で減少しているのに。教えろ!」



 サメがカエルを憎むのも海で仲間が減り続けているからにある。

 こんな生き物がたくましく生きていることに恨みがないわけじゃなかった。

 いくら人間ではないから許せるとはいえ減り続ける仲間と増え続ける参考資料とでは価値観が違う。


 するとカエルは淡々と答えた。


「お前、人間じゃないのか。海の生き物がついにここまで。

お、俺たちがどうやって増え続けているかなんてこっちが知りたいよ。

生まれた時からここは捕食者も弱いし人間も俺たちの繁殖を協力している。気がついたら仲間だらけだ。共食いもあって死んだ友もいるがな。


人間は怖い。

潜伏期間を長い目でみて隙をつかないと法律に引っかかって地獄みたいな飼い殺しにされるだけだ。


俺はあんた達の味方も人間の味方もしない。


逆に海の生き物のあんたがここまでやってこれたんだ。

そこでだ。


俺を守ってくれるのならあんたに協力してもいい。

どのみち俺は助からねえ。


短い一生の間だけ手伝ってやるよ!」


 カエルを水の入ったカゴに移して移動する。

 たしかこのカエルを生きて移動させるのは違法か。


 ならサメはカエルの首をつかむ。


「大人しくしてろ。目が覚める頃には別のオリだ。」


 少しだけショックさせてサメは人の記憶をたどり家に帰る。



 家に着いた後、カエルに自分と同じ海の秘密を分けた。

 もちろん多くは伝えていないが。


「へえ。あんたとほぼ同じ活動が出来るとは。

といっても人間の身体までは奪えないが。」


「この人間がある程度成熟しているおかげで動きやすくなりそうだ。お前は繁殖と生存方法を教え続けろ。わかったな?」


 カエルは慣れたのかあまりサメを恐れなくなってきた。


「教えろったってあんた達とほぼ変わらない生活だぜ?

もっともあんたがなんの動物か植物か分からねえけど。


ま、人間がこの先消え去って俺たちが成り代われるのなら自然大国も夢じゃないか。


物理法則無視できるしな。」



 人間の知恵を借りるのは嫌だが勉強するのは大事なことだ。


 ここから全ては始まる。

 サメとカエルは仲間達のために人間観察を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鮫人間 釣ール @pixixy1O

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ