第11話 さらば…

闘いは続いていた…

もはや全ての当事者達が疲れ果てる程に…


「……なかなか、やるじゃない…」

「桐子さんこそ…」

そこには怒りや憎しみのない

ただ純粋に完全なる勝利を望む

清々しい程の闘争心が

疲れ果てた2人を辛うじて立たせ続けていた。


「決着つかなさそうねぇ…」

「そりゃあ、そうだろ」

「何でそこまで言い切れるんですか?」

「判断基準がないですもんねぇ…」


ドーン!

「?、 なんか音しません?」

ドーン‼︎

「音がするどころか、

なんか揺れてるような気がしますねぇ…」

ドドーンッ‼︎

「「葉子ぉ〜団吉ぃ〜逃げろぉ‼︎」」

グルゥウォォァォォ‼︎

地響き、轟音、とんでもない気配とともに

顔から血の気が引き切った鳥爺とコーちゃんが

こちら目掛けて飛んできた。

「どうしたんだよ2人とも!

そんな慌てて飛んできて!」

「団吉さん、誰に話しかけてるんですか?」

「康介さん、世の中は気にしなくても

死なない事がいっぱいあるんですよ…」


「どうしたもこうしたもないわい!

目を覚ましたんじゃよ、アレが‼︎」

「アレってどれよ?」

「ヌシだよ!ヌシ‼︎

言い伝えよりもオッカナイのが出たんだぁ‼︎」

「なんだっ…」

ドガーン‼︎‼︎


山の稜線の向こう側から

ヌッと顔を出した巨大な何かは

彼らの方をギョロリと睨むと大きく吠えた。

ギャゴォォングルゥウォォァォォ‼︎

カバっぽいデカッ鼻と蠍の如きハサミを備えた

小山程の大きさの怪獣を目にして

想像していた滑稽さではなく、

ぶっ倒れそうな恐怖が

対決に集中していた2人以外の一同を襲った。


「ありゃ、ダメだ…逃げろぉぉぉぉ‼︎」

団吉が大声を上げると

一同は一斉に駆け出した。

「アオちゃぁ〜ん‼︎」、「桐子せんぱぁ〜い‼︎」

「「逃げてぇぇ‼︎‼︎」」

「エッ?」「ムッ⁈」

叫び声に2人が気づいた瞬間、

こちらに近づきつつあった怪獣が

尻尾を振るって山肌を抉り取った。


「‼︎、危ないっ‼︎‼︎‼︎」

「!、ちょっと康介さん!ちょっとぉ‼︎」

そう康介は叫ぶと飛び来る岩石から

葵と桐子の2人を守るべく、

覆い被さる形で飛び込んだ。

ズドォンと恐ろしい音を響かせながら

大怪獣は進撃を続け、

その行く手を遮るものは

何もなかったかに思われた。

しかし、その足はどこからともなく響いた

一喝によって止まった。


「止まりなさい‼︎」

その声の主は驚くべき事に

宙に浮かんだ人型をしており、

その姿に見覚えのある名護が

目を凝らすと驚きの声を上げた。

「⁈、あっアレは…

堂守くんではないですかぁ!」

そう、連載中も2、3回しか出ていない上に

これを書いてるバカも

フルネームを忘れていたくらいのレアキャラ

堂守志之が宙に浮かんで

怪獣の前に立ちはだかっていたのだ。


「まだ眠っておらねばならないというのに

闘争の空気に釣られて目を覚ましおって、

さっさと元いた場所に戻れ‼︎

それでも居座るというのであれば、

お前の生命をいただくっ‼︎」

手に持った大鎌を構えられた門吹山の大怪獣は

威厳と恐怖によって、

先ほどまでの威勢はすっかり失せ、

若干肩を落としながら帰路についた。

その様子を見届けた堂守は大鎌を下ろして、

息を一つ吐くと康介と2人の娘がいた方に

目を向けた。

人間1人を踏み潰すには充分な大きさの岩が

地面にめり込んでいた。


「…………しなさい……」

目を閉じ眠っている葵の耳元に

誰かの囁きが聞こえてきた。

「目……ましなさい……、

……覚ましなさい…」

次第にハッキリと聞こえてくるので

瞼に力を集めた後、

ゆっくりと瞼を開けると

足元の方に堂守が立っているのが見えた。

「やっと目を覚ましましたか…」

「あの、すいません…ここは……」

「ここは生命エネルギーのみが

実態として現れる領域…

人の魂が死後の世界に向かう前に

必ず立ち寄る場所だ。」

「は、はぁ…」

「杉野葵……君が知らないのも無理はない…

君のように死してなお、ここには来ず

生前の世界にしがみつく者は多い……

そんな者達を導くのが私の仕事なのだ。」

「まっ待ってください‼︎それって、つまり…」

「そうだ、君たち3人を導くために

私は今ここにいる。」

「……?3人?」

「そう、君と仲村康介、

そして、烏野桐子の3人だ。」

「そんな、‼︎」

今の今まで仰向けで眠っていた葵が

上体を起こして堂守の方を見つめると

その向こう側に2人の人間が

眠っているのが見えた。

「先ほどの怪獣による攻撃の影響で

2人の生命エネルギーは

完全に身体から分離しつつある、

このままでは助からない。」

「そんな!なんとか…

なんとかならないんですか?」

葵は立ち上がると堂守をしっかりと

見つめたままそう尋ねた。


「無い訳じゃない……だが…」

「なら教えてください!方法があるなら…」

「………後悔はしないか?」

「するわけありません!

それで誰かの生命が助かるなら‼︎」

「……君の生命エネルギーを

2人に分け与え身体に繋ぎ止めるんだ…

ただこれは君を完全に分離させ、

もう2度と同じ人間として

存在する事ができなくなるぞ、覚悟はいいか?」

それを聞いた葵はしばらく俯き、

そっと呟くように尋ねた。

「……………その前に……

一つだけいいですか?」

「何かね?」

「最後に…最後に康介さんと……」

「…康介さんと?」

そう聞き返すと急に葵の

歯切れが悪くなった。


「そのぉ……えっとぉ………」

「………すっと言いなされ、

このままだと2人とも完全に逝ってしまうぞ!」

「……キッスがしたいです…」

「?、なんて言いました?」

「…キスがしたいです‼︎

康介くんとチュッチュしたいんですぅ‼︎」

半ばヤケになった葵が大声を上げて答えると

堂守も流石に不躾な事を聞いてしまって失礼したといった様子で

後頭部を掻いた。


「いやはや、申し訳ない…

それだったら存分にやってくれたまえ、

私は向こうの方に行っておるから、

どうぞ遠慮なく…」

そういってそそくさと向こうの方へと

走り出した堂守を見届け、

葵はあの日と同じように

目を閉じた康介の顔を見つめた。

恋焦がれたあの人を前にして

嬉しいはずなのに、

緊張と悲しみが心臓を激しく叩き、

視界を滲ませる。

目を拭っても拭っても溢れる雫は

康介の頬に落ちて、

彼が涙したように伝い落ちた。

「…………っ……」

こうして1人の乙女は夢を叶え、

その喜びを抱いて彼女は

2人の中へと溶けていった。


…………………

………………

……………

…………

………

……


高校に入ってからの俺の1年間は実際、

あっという間だった。

あの対決以降、

実に充実した学生生活をおくっているが

時に言いようのない切なさと

喪失感が襲いかかってきては

重く頭にもたげることに悩まされていた。

二年生になってからも

改善される事はなく続いていたが、

ある夏の日、それはスッと消え去った。


「葵だ…」

風に気持ち良さそうに揺られる花が

僕に微笑みかけたように見えた。

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ちゅ〜どく 〜優麗の正体見たり〜 @Mrkyu

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