「……」


 なんだ。おったんか。


「本日の芸能活動は?」

「今日はオフよ、オフ」


 帰ってきた異母兄にいさんに「おかえりなさい」ぐらい言ってくれへんかな。まあええわ。


夢路ゆめじは?」


 マネージャーをやっているほうの異母妹いもうとが見当たらんので、二世霊能者をやっているほうの異母妹いもうとの吉能に聞いてみる。オフの吉能は化粧をしない。高校時代のジャージを着て、枝豆をむいている。カルディで売っていそうな瓶ビールは、コップに注がずにそのまま飲んでいるようだ。


「営業かけにいってる」

「仕事熱心やねえ」


 枝豆を取ろうとしたら手を叩かれた。一個ぐらいええやんか。むすっとした顔でも美人の母親(ウチのおかんとは違う人)の血筋だから、それなりに画面映えしそうな形をしている。汐見さんも割合こういう憮然とした表情をしとるな。


「そう言う理緒ちはバイトどうしたのよ」

「今日はオフよ、オフ」


 セリフをそのままマネして、瓶ビールを掴んだら今度は腕をつねられた。暴力女、こわいわあ。


「オフに出かけてくるなんて珍しいじゃない。休みの時はお酒飲んで寝ているくせに」

「あきらさんとの用事があってな」

「あきらさんと!?」


 吉能の声が裏返る。吉能はあきらさんのこと好きやねんな。あきらさんには奥さんがいるって知っとるのに「うわー会いたかったあー!」と地団駄を踏んでいる。無理やと思うよ。


「なんで言ってくれないのよ」

「ついてきてもあきらさんの邪魔になるからや」

「邪魔になりませぇん。あたしにも霊力があるのよ。実力が認められたら『神切隊』に入っちゃうかも?」


 ないよ。

 吉能に、そんな力はない。


 ないってわかっちゃうから、この家に拓三を連れ帰りたくなかったんよ。


「理緒! 美人の妹がいるなら先に言えよ! うらやましくて呪いたくなるじゃん!」


 こんなこと言っている拓三のこと、ちっとも見えてないんや。

 吉能のことだから、聞こえていたら鼻高々になる(褒められるとこの子はすぐ天狗になる)はずやもん。


「何? 妹に先を越されるのは嫌?」

「いいや。ウチからあきらさんに伝えとくで」

「それ、この前も言ってたんですけどお?」


 バレたか。


【終】

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眠れぬ獅子 秋乃晃 @EM_Akino

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