第104話 ただいま。行ってきます

「じゃあ俺を拾ってくれたのは、黒い魔力を持っていて、魔王復活に使えると思ったからですか?」

「そうだよ。そのために善い人を演じてた」

「だったら最初から言ってくださいよ! 俺はずっと貴女の役に立ちたかった! 別にいい人じゃなくても良いんです! 俺にとっては拾ってくれたことが全てだから!」

 アマナスは思いのたけをぶちまける。感情の発露にこらえきれず、唇が震える。

「フッ。何それ。私を救おうってこと?」

「そんな大それたことじゃなくても、協力出来ることがあればしたかったです」

「ふざけんな! 私に救われた程度の低級な存在が、私を救おうなんて烏滸おこがましいんだよ!」

 皆その発言に驚いた。アマナスに至ってはショックを受け、目が少し閉じてしまった。だが一度深呼吸をして、こう返した。

「オーメンさん。俺たちは皆、時に助けを必要とする存在だと覆います。不本意かもしれませんが、貴女は人を救えるだけの知識と力を持ちました。そして実際に救ってきました。今後もきっとオーメンさんは誰かを救い続けるんだと思います。その時に貴女の理論を適用したら、誰も貴女を救えなくってしまいます。でも人間は対等で、支え合って生きています。貴女といえど互恵の輪から外れることは出来ません。だから今は、少し早くその時が来ただけなんです」

「認めない。誰かに助けられるというなら、今までの苦しみや悲しみは、それを乗り越えてきた私の心は一体何だったんだ⁉」

「人と繋がり、貴女が救われるためにあったんだと思います」

「わけわかんねーよ」

 彼女は静かに泣いた。その場にいた者は皆、彼女が泣き止むまで黙ってそばにいてくれた。


 彼女は泣き止んだ。

「もう大丈夫ですか?」

「ああ。もう大丈夫」

「それで借金のことなんですけど」

「1億ゼニー」

 その場にいた者は息をのんだ。英雄が活躍した時代など数百年前だ。それだけの年月をかけても1億も残っているとは、どれだけの暴利を吹っ掛けられたのだ。そう思った。だが。

「国家予算に比べれば小さい。リンカー王国に戻り次第、魔王討伐の旨を国王に報告する。そして報奨金を出してもらえないか、私から嘆願してみよう」

 リンカー王国軍軍隊長が申し出た。

「ですって。良かったですね、オーメンさん」

「ええ。感謝します」

 彼女は頭を下げる。

「それと、もしよろしければ、我が国に引っ越されてはいかがでしょう?」

「え?」

「リンカー王国は、貴女の国より名誉や栄光を気にしません」

「嬉しいお誘いですけど、それは兄次第です。彼が好む環境でないと、症状が悪化してしまいますので」

「そうですか。では一度ご家族と見学にいらしてください」

「そうします」


 彼女たちはリンカー王国へ戻った。


 ヒュースターは家に帰った時、エベダから抱きしめられた。「心配した」と伝えられた。不恰好な手作りの花束を贈られた。その2つを以て、彼は弟を家族だと思えた。

 父親もその日は家に帰ることが許され、一家団欒を過ごした。


 モンマンもリンカー王国の国民であり、家族の元へ戻った。


 リコは村へ帰り、滞納していた税金を完済した。その後は琴の援助もあり、学校へ通うことが出来た。


 そしてオーサーは、これまでの旅を書に纏めて出版することにした。


 ナザトは「母をたずねる」と言って、一人で旅を続ける。

 

 オーメンは国から報奨金を貰い、借金を返済。家族と共に国を見学し、引っ越すことにした。

 今まで集めた魔道具の展覧会を開くことにした。それに向けてもう少し魔道具を集めると意気込んでいた。


 アマナスは1度家に帰りこれまでのことを家族に話した。そして許可を貰い、オーメンの魔道具集めと展示に協力することにした。


「アマナス君、1年振りだね」

「そうですね。今回の目標は何ですか?」

「もう、集めたい物は無いからね。ひたすら回収可能そうな物を集めるだけだよ」

「……なんだか表情が明るいですね」

「そうかな?」

「一層綺麗になったと思います」

「大人をからかうんじゃないよ」

 彼女はデコピンをする。

 再び2人は旅に出る。今度は使命などない、気ままな旅だ。

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魔道具は希望と共に 小鳥遊 怜那 @825627473462

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