変形ROぼっと~パイロットは超過酷~

渡貫とゐち

無意識マッドサイエンティスト?


「おおっ、カッコイー『ロボット』だな。これ、博士が作ったのか……? 発想だけとは言え、すげえすげぇ。さすがは世界一の発明家だな! よっ、マッドサイエンティスト!!」


「えへへ…………あれ? それって褒め言葉なん?」



 二十歳はたち目前の十代の青年が白衣を纏う金髪幼女の頭を撫でた。

 結構強めにぐりぐりと頭を撫でているので、幼女博士は目を回している……太くて長いポニーテールが、喜んでいるわけもないが左右に揺れていた。


 そんな凸凹コンビは真っ白で広い空間にいた。

 五階まで吹き抜けになっていて――高さを必要としているのは目の前に立つ二足歩行の巨大ロボットのためだ。


 装飾は最小限なのでデザイン性は薄く、デッサン人形に機械的=ロボット感を足したようなものだろうか。

 シンプルではあるが…………洗練されていると取るか物足りないと取るかは人による。


 巨大ロボットはほとんど完成している。


 巨大怪獣が出てもすぐに出撃できるだろう。


 幼女博士が軽い脳震盪に堪えながら、まず不満ではなく要望を伝えた。

 時間を無駄にしたくないため、彼女の会話は効率的なのだ。



「早速だけど、きみに乗ってほしいの。人が乗った上で、ロボットの微調整がしたいからね。コックピットはロボットの胸のところに――――あ、そう言えば高所恐怖症だったりする?」


「大丈夫。コックピットが外に剥き出しでなければ、たとえ高所恐怖症でも関係なさそうだけどな」


「まあそっか。パイロットから見える景色はモニター越しだもんね。たしかに、高さを感じることはあんまりないのかも……」


 博士が手元のタブレットを操作する。

 すると、ロボットの胸の部分が外側に開いた。


 博士と同じく白衣を纏った研究員たちがコックピットまでの道として梯子を立てかける。

 コックピットの中が見え、白い椅子がパイロットを誘うように鎮座していた。


「じゃあ乗るけどさ……暴走とかしないよね?」

「緊急停止ボタンをぽちっとすれば止まるから、大丈夫。おとながびびるなー」


「大人でもびびるよ。そもそもこれ未知の技術だからな? しかも天才とは言え博士はまだ子供だ……子供の発想で作ったものはやっぱり怖いもんだよ。あと、緊急停止ボタンがあるから大丈夫っ、ってことはさ、暴走するかもしれないって白状しているようなものじゃないか……?」


「だいじょぶ、この天才博士にまかせておきなさいって」


「タブレットを見ながら片手間で返事をするな。……不安だなあ……」


 渋々、パイロット役の青年が梯子を上がっていく。


 見えていたコックピットの中へ踏み入った。

 中は……狭いが窮屈ではなかった。大人ひとり分なら余裕がある空間だ。

 もうひとり入るのは難しいか……。幼女博士を膝に乗せて乗ることはできそうだが。


 青年が椅子に座ると、開いていた扉が閉まる。

 すると、ジェットコースターのような安全装置が上から下りてきて、青年の体をがしっと固定した。目の前に現れたのは車のハンドル、だが……触れなかった。立体映像のようだ。


 触れても感触はないが、触れたという事実は映像に影響を与えた。ハンドル、ペダル……アクセルだろうか? 周りのスイッチに関してはまったく分からなかった。


 あちこち触って誤作動を起こしてもまずいので、できるだけ触れずに、指示を仰ぐことにした――パイロットが博士に向けて、


「着席しました――どうぞ」


『うむ。ロボットのストッパーを外すから、ちょっとだけ……五歩くらい歩いてくれる?』


 博士と通信が繋がった。



 タブレットを抱きしめた幼女博士が階段を上がって、パイロットと同じ目線まで上がってくる。

 ちなみに、パイロットが見ている外の景色を映すモニターは、モニター自体が立体映像だ。立体映像内モニターで外の光景を映像で見ている……、最新技術らしいが……無駄遣いに思えなくもなかった。


 ともかく、ロボットを起動させたパイロット。


 足下の立体映像によって出てきたペダルを踏むと前進、手元のハンドルを回すと方向を変えられる。そのまんま車と同じ操作方法だった。


「…………まあ、操作しやすいけどさ……ただこう、なんか、ロマンがないなー」


『操作の仕方を参考にしたんだから。難解よりいいでしょ』


 確かに、独特な操作を採用すれば慣れるまでに時間がかかる。

 普段から慣れている操作方法を流用した方が操作しやすいのは当然だった。


 パイロットによっては器用に操作方法を変えることができる。

 そのため、変更の際に手早くできるようにハンドルは立体映像、という仕様にしたのだ。


 パイロットが変わる度に操作方法もパイロットに合わせて変えていたら、毎回内装をいじることになってしまい、手間がかかるし出費も膨らんでいく……合理性を求めた結果なのだ。


 実験場を、巨大ロボットが数歩歩き、途中で反転、戻ってくる。


「うん……やりやすいかな」


『もっと慣れた操作方法があるなら変えることもできるの。きみの場合は車だったけど、たとえば飛行機と同じ、とか、ラジコンと同じ、とか。ゲームのコントローラーに対応させることもできるからね――音声操作は検討中だけども』


「こいつ天才かよ!」


『えっへん天才なのよっ』


 ふふん、と胸を張る幼女博士だった。

 鼻を伸ばしたように気分が良さそうな博士がタブレットを操作して、


『そしてもうひとつ、注目の機能があるの――――試してみて!』



「? モニターが光ってるな……『変形』? 押してもいいのか?」


『うん』


 パイロットの震える指が、変形を表示しているモニターへ近づいた。


「へ、変形ってさ…………もしかして変形のことか!?」


『興奮し過ぎてなに言ってるのか分からないけど……変形するよ。変形って書いてあるんだから――押して他にどうなると思ったの? 博士は嘘つかないもんっ』


 変形ボタンを押せば今の人型巨大ロボットから四足歩行の獣型ロボットへ変形することができる。さらには車の形に変形することも可能だ。


「発想だけなら誰でも思いつくが……それを実現させた技術者がすげえよな」


『……うん(安全面も考慮した実現はこれからなんだけど)』


「? ごめん博士、通信障害かも……聞こえなかったぞ?」


『だいじょーぶよ。変形ボタン、押してみて。まずは「四足歩行の獣型ロボットに変形」を試してみたいから――おねがい』


「はいよ」


 パイロットが今度こそボタンを押す――立体映像なので押した感覚はなかったが、指が画面を突き抜けたことで押したとみなしたのだろう――すると、ロボットが声を上げた。

 まるで肉食獣の威嚇のような声で…………


 周囲が波打つように動き始めた。


 ――変形が、始まったのだ。



「うぉ……色々と嫌な音が鳴ってるけど大丈夫なのか、これ…………ん? おい博士、上からの固定ベルトが外れたんだけどいいの?」


 その時、目の前のハンドル、ペダル、そしてモニターの立体映像がぷつんと消えた。

 椅子が傾き、パイロットの青年が床に投げ出される。

 左右から壁が迫ってくる――どんどんと、自分がいられるスペースがなくなっていた。


 さらには足下が崩れていく。

 ……足下だけじゃない、周りの壁も、天井も、コックピットが崩壊を始めていて……?



「――博士!? なんだこれ…………どうなってんだ!?!?」



『仕様なの。変形する時に、ロボットの中はぐちゃぐちゃにかき混ぜられたように移動するの。一回崩壊させて、再構築するみたいに。コックピットも例外じゃなくて…………バラバラにロボットの中を移動して、決まった位置でまたコックピットが完成することになるから……――がんばって追いついてほしいかな。逃げ遅れるとロボットの内部で壁に挟まれて圧死することになっちゃうけど――――』


 そう言えば、パイロットは彼で四人目と言っていた。


 前任の三人は、そう言えばどこでなにをしている……?


「おまっ、それを早く言えよぉおおおっっ!?!?」


 叫んでいる間に壁が迫ってきていた。

 ――危うく、早々に圧死するところだった。


 ロボット内部が生きて蠢く、生物の体内のように。

 ここはまるで胃の中だ。


 脱出……ではなく、再構築に合わせて安全地帯を見つけ、早くそこへ向かわなければ――変形に巻き込まれてロボットの一部となってしまう。


『しょうがないじゃん。まだまだ発展途上だもん。こういう痒い所に手が届かない仕様は許してよね!』

「やっぱあんたはマッドサイエンティストだよ!!」

『それって褒め言葉なん?』


 やがて変形が終わる。


 ――四足歩行の獣型巨大ロボット。


 その内部では、パイロットの青年がコックピットではなく――ここはどこだ?――どこなのかさっぱり分からないところで足が挟まり動けなくなっていた。


 コックピットはすぐそこ……なのかどうかも分からない。


 今、自分はどこにいるのだ?



「や、やべえ!! ぜんぜんっ、足が抜けね……ッ」


 不意に見えた、ごろごろと斜面を転がってくる白い物体……それは――――


「なんで『されこうべ』が転がってくるんだよ!?」



『あ、そんなところにあったの? たぶん前任のパイロット……かも』


「おいおいおい!? 言い方ぁ!! 失くしたと思ってたネックレスが棚の裏の隙間に落ちてたんだねー、みたいなノリで言うことじゃないからまず助けてぇ!!」



 このままだと、もうひとつのされこうべが増えてしまいそうだった。




 …了

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