モーニングコーヒー
紫妃(ムラサキ)
第1話 妻不在の朝
「あれ? あ、そうだった」
リビングにもキッチンにも妻の姿がなかった。里帰り出産で昨日から実家へ帰っていたのだ。帰宅時間を気にしなくてもいいという解放感から昨夜はちと飲み過ぎてしまったかもしれない。俺は大きなあくびをしながらキッチンへ向かう。目覚めのコーヒーを飲むためだ。
「ちっ、コーヒーメーカー使うと時間かかるよな」
いつもならタイミングよく妻がコーヒーを淹れておいてくれるのだが、いないのだから仕方ない。面倒くさがりな俺はインスタントで済ませることにした。コーヒーに牛乳と砂糖を入れるのが俺流だ。そのこだわりだけは譲れないがコーヒー自体は別にインスタントだろうが全然かまわない。
冷蔵庫から牛乳パックを取り出しインスタントコーヒーに並々と注ぐ。牛乳はたっぷり入れた方が美味しい。
「ぶへぇっ! うぐっ」
俺は口に含んだコーヒーを即座にキッチンのシンクに吐き出していた。いや、吐き出すというより噴き出したという表現がピッタリかもしれない。
「な、なんなんだ⁈ 牛乳腐ってんのか?」
再び冷蔵庫を開けて牛乳を取り出してみた。すると……
「飲むヨーグルトだとお⁈」
俺が牛乳だと思って取り出したのは飲むタイプのヨーグルトだったのだ。そういえば妊娠中はヨーグルトを摂取するといいなんて妻が言っていたことを思い出す。あまり固形タイプは好きじゃないから飲むタイプはありがたいとかなんとか……
まさかわざとじゃないよな? 俺が夜遊びすると見越してのことなのか。冷蔵庫を開けると最初に目に着くような場所に置いてあったのはわざとなのか。
水道水をがぶ飲みしても口の中にいやな酸味が残って唾液すら酸っぱく感じる。俺は洗面所で何度もうがいを繰り返し、ついでにバシャバシャと顔を洗った。
ヨーグルトも牛乳も牛の乳からできてるんだよな⁈ なのに、なんでなんだよ!なんでこんなに味が変わるんだ!
――フフッ、やっぱり引っ掛かったわね。目が覚めたでしょう?
勝ち誇ったような妻の顔を思い浮かべながら、俺はひとことだけボソッとつぶやいた。
「びっくりするほど不味かった。」
モーニングコーヒー 紫妃(ムラサキ) @selenelune20
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