夢の欠片を拾い集めて Vol3
冷凍みかんが予想外に好評だったから物はついでとばかりに、あたしは紫音ちゃんと綾音ちゃんのお土産代わりのプレゼントも渡して置こうと思ってバックからゴソゴソと取り出したの。
アクリルのタンブラーは彩華さんに渡すのが良いわね。
「彩華さん、これは向こうで偶然見つけたので紫音ちゃんと綾音ちゃんにどうかな? って持って来たのですけど、良かったら使って貰えませんか?」
「弥生ちゃん。こんなに沢山お土産を戴いて申し訳なくなってしまうわ。有難う御座います」
「お礼なんて、そんな……勿体ないです。良かったら開けてみて戴けますか?」
「そうね。折角の弥生ちゃんの気持ちだもの早速、視させて貰うわね。何だろう――わぁ……素敵ね。凄く綺麗よ。ねぇ、お義母さん。こんなに素敵なカップを戴いたわ」
「これは凄い。おや? これは硝子じゃ無いね。それに手作りの一品物だ。こんな高価な物をこの娘達にかい? 身の丈に余るってもんだよ」
「えっ? これって手作りなの? 本当だわ。よく視ると細工が二つとも少しずつ違うわ。凄い――」
「えぇ。これはアクリル製のタンブラーで、偶然に職人さんが作業してる工房を通り掛ってそれが縁で手に入ったんですよ。それにしても婆ぁばの目利きは凄いですね。一目で解ってしまうのですもの。ご慧眼恐れ入りました」
「アクリル製ってあの樹脂のアクリルなのかい? 硝子みたいな透明感だ。都会にはこんなのが溢れてるんだねぇ。たまげたよ」
「そうです。あのアクリル樹脂です。硝子より衝撃に強いですから紫音ちゃんと綾音ちゃんに丁度良いと思って」
「そこまで考えてくれたプレゼントなのね。二人には大事にさせるわ。本当に有難う御座います。ほらっ。透真さんからも弥生ちゃんにお礼を差し上げて」
「弥生ちゃん。家の娘達の為に色々考えてくれて何とお礼を云って良いやら。本当にありがとう。大事に使わせて貰うよ」
「いえいえ。そんなぁ。偶々視つけたのでこれも何かのご縁だと思いまして。それにこの間は良くして戴いた上にお世話になりっぱなしでしたので、そのお礼も兼ねて不躾かと思いましたが使って貰えると嬉しいです」
「不躾なんてそんな事は無いわよ。こんなに素敵な贈り物なんてこの二人も初めてだからよく云い聞かせて使わせるわ」
「使って貰えるのが一番です。やっぱり道具は使って戴かないとですね。これは婆ぁばの請け売りのお言葉ですけど。ふふ」
あたしはこの前お見送りして貰って、師匠からお土産の根付を戴いた時に一緒に頂戴したお言葉を引用させて貰ったの。
昨晩お仕事用のバックに付けていた根付を、このボストンバックに付け直して置いたから云えたのだけどね。
偶然のようだけどあたしは視てしまったわ。
お土産をバックから取り出す時に、師匠の視線は何となくこちらに向いていたの。
そして動かす視線の先がストラップに括った根付の所で止まったわ。
一瞬だけ少し驚いた様に眼を
どんなに素敵なタンブラーでも使って貰ってこそだと思うわ。
大事にして貰えるのは嬉しいけど、必要以上に大仰な扱いをされてもそれはちょっと違うって感じてしまう。
あぁ、こう云う事なのね。
師匠とお知り合いになったばかりの時に仰っていた事で『過ぎたるは猶及ばざるが如し』ってまさしくこの事なのだわ。
師匠の何気ないひと言ひと言を大切に受け止めて、理解を深めながら何回も噛締めて自分の物にして行かないと。
だってあたしは『月詠義塾』の第二期生なのだもの。
ソレ ワ アナタ ガ カッテニ イッテル ダケ デショ。
良いじゃない。これはあたしの心の持ち様なのだから。
常に心掛けて師匠と彩華さんからいっぱい勉強させて貰うのよ。
プレゼントの当事者の紫音ちゃんと綾音ちゃんはどうしてるかと云うと、冷凍みかんはそっちのけで瞳をキラキラ輝かせてタンブラーに釘付けになってるわ。
でもあたし達がお話ししてるからお預け状態で可哀想なのだけど、可愛らしいからずっと視て居たくなっちゃうのよ。
でもそれはちょっと残酷かも知れないわね。
こんなに小さい娘達が我慢してるだけも凄い事だと思うし、そろそろ彩華さん達とのお話しも切り上げて二人にちゃんとプレゼントを視せてあげたいわ。
それとまだバックにしまったままのシュシュとカチューシャが在るのよね。
タンブラーと一緒に出して渡した方が良かったかも?
いま追加するみたいに出すと気を遣わせてしまうかも知れないからどうしよう――
完全に出しそびれたしまい、タイミングを失くした感がありありだから口実を探さないと……
切っ掛けが在れば思い出したようにさりげなく渡せるのだけど、何か無いかしら?
少し話題を変えながらプレゼントする糸口を探す他に策は無さそうね。
次の更新予定
『完結保障』十彩の音を聴いてーAre you all set to go?ー 七兎参ゆき @7to3yuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『完結保障』十彩の音を聴いてーAre you all set to go?ーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます