夢の欠片を拾い集めて Vol2

 師匠は手ずからお茶の支度をしてくれてるのだけど、あたしも『何かお手伝いします』って申し出たところ『座ってなさい』って云われちゃったの。

 到着早々に厚かましいのも失礼だからご厚意に甘える事にしたわ。

 それから少しすると、師匠と彩華さんが手分けしてお茶やお菓子を持って居間に戻って来た。



「はぁい。お茶ですよぉ。どうぞっ」


「彩華さん、ありがとうございます。それとこれはつまらない物なのですけど良かったらお茶請けにどうぞ」


「あらっ。ご丁寧にどうもありがとう。これって『とうきょうバーなな』じゃない。流石、都会育ちの弥生ちゃんね。こっちだとお取り寄せしないと手に入らない貴重なものよ」


「貴重なのですか? このお菓子って東京名物らしいのですけど実は都市伝説みたいな感じなので、あたしも実物を視たのは今日が初めてなんですよ」


「えっ! そう云うお菓子なの? 私はてっきり東京ではメジャーなのだと思っていたわ。もしかして璃央君も初めて?」


「いや。俺は何回か貰い物で食べた事は在るけど、あっちに居た頃は視た事もなくて噂を聞いたくらいしか無かったかな」


「そうなのか? 璃央。俺も彩華と同じ認識だったぞ」


「この菓子は東京以外で有名なんだよ。俺は売ってる店すら知らないな」


「お義母さんは知ってた?」


「あたしもお前さんらと同じだよ。東京土産って云うとだいたい決まって戴くお菓子だからねぇ」


「やっぱり商品名に『とうきょう』って入ってるからなのですかね? 以前にウェブで調べて新幹線の駅にお店が在る事を知っていたので出発前に買って来たんです」

 

「ん? 何だい。今日は新幹線で来たのかい? どうり早く着いた訳だ」


「そうなんですよ。出来るだけ早く皆さんにお逢いしたくて新幹線を使いました」


「そんなに急がなくたってあたしらは逃げたりしないよ」


「良いじゃないのぉ。お義母さん。そんな照れ隠ししなくても良いのにぃ。弥生ちゃんはそうしたかったのだから」


「何を云ってんだい。そんなんじゃないよっ」


「まぁまぁ。お義母さんが可愛らしいって事でしょ。ねぇ、弥生ちゃん」


「ちょぉぉ。彩華さんっ。あたしが同意できなくて困るのを解っているのに振らないで下さいよぉ」



 もぅ、彩華さんったらぁ。早速揶揄われてしまったわね。

 これもお小言のひとつなのかしら?

 でもこの前と同様に接してくれて嬉しいわ。

 こうやって直ぐに打ち解けられるような雰囲気にしてくれるのも、彩華さんならではのお気遣いね。

 あたしもいっぱい彩華さんを見倣って女を磨いて行かないといけないわ。

 取り敢えずの目標として師匠を揶揄えるようになる事かしら?


 アナタッテ チャレンジャー ダッタノネ。

 ホネ ワ ヒロッテ アゲル カラ ガンバリ ナサイナ。


 クーデレさんっ。何てこと云うのよっ!

 ここはあたしを止める所でしょ。そそのかしてしてどうするのよっ。



「それともうひとつ。これはあたしが新幹線の車内でと思ってたのですけど、カチンコチンに凍っていて降りるまでに溶けそうに無かったので、良かったら紫音ちゃんと綾音ちゃんにどうかなと」


「おっ。冷凍みかんだ。懐かしいなぁ。子供の頃に母さん達がよくお土産に買って来てくれてたの思い出すよ」


「そうだったねぇ。昔は出張なんかも多かったから、ちょくちょく買って来たもんだよ。こう云うのもまだ売ってるのが驚きだねぇ」


「そうよねぇ。だいぶ見掛けなくなってるわ。みかんも現代では旬じゃなくてもハウス栽培で一年中在るもの。冷凍して保存する需要は少ないのかしら」


「そうなんだろうねぇ。昔は冬以外にみかんって云うと缶詰めかこの冷凍みかんぐらいのモンだったさ。そう云えばこの娘達は食べたこと在ったかねぇ?」


「私の記憶だと紫音も綾音も無かったと思うけど、透馬さんはどぉ?」


「俺も久し振りに視たくらいだから無いと思うけど……なぁ。紫音、綾音。この冷凍みかんって知ってるか?」


「しらにゃいわ」


「ぱぱ ふつうのと ちがうの?」


「そっか、知らないみたいだな。これはみかんを冷凍しただけなんだけど冷たくて美味いぞ。食べるか?」


「「うんっ!」」


「あぁ、それじゃひとつを半分コにしなさい。お土産のお菓子も食べたいでしょ? 分かった?」


「「はぁ~い」」



 相変わらず紫音ちゃんも綾音ちゃんも素直で可愛らしいわね。

 無意識なのだろうけど、ユニゾンでお返事するのも息がピッタリで和むわぁ。

 彩華さんが外の皮を剥いてるけど、まだ丁度良く溶けてないみたいで固くて苦戦してる。

 でもキャンディーみたいにお口で溶かせば冷たくて美味しく食べられる筈よ。

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