第二話 夢の欠片を拾い集めて
夢の欠片を拾い集めて Vol1
あたしを目掛けて紫音ちゃんと綾音ちゃんが走って来るわ。
その向こうで彩華さんと璃央さんが、少し呆れたような苦笑いを浮かべてこっちを視ているの。
皆の視線があたしに集まるのは嬉しいけど、何だか照れてしまうわね。
そして双子ちゃん達は飛び込むようにあたしに抱き付いて来てくれたわ。
「二人共元気で良い子にしてたかしら?」
「「うんっ!」」
「そう。ふふ。良い子にしていた紫音ちゃんと綾音ちゃんにはお土産いっぱい持って来たわよ」
「わたし も しおねぇ も いいこなのよっ」
「うん。いいこ なんだよ」
「そうね。二人は良い子だものね」
「おねぇちゃん。ぶーぶ いこっ」
「そうね。彩華さんと璃央さんをお待たせしたらいけないから行きましょうか」
そう云うや否や、二人に引っ張られるようにしてあたしは歩き出したわ。
でも何となくドラマで犯人が連行されるシーンを彷彿とさせるのだけど……
この様子を彩華のネタにされないのを祈るばかりよっ。
「彩華さん、璃央さん、お迎えに来て戴いて有り難う御座います」
「そんなの気にしないで良いわよ。それよりも随分早く着いたのね。疲れて無いかしら?」
「今日は少しでも早く来たくて新幹線を使って来ました。時間的にそれほど掛かってないので疲れて無いですよ。大丈夫です」
「そう。それでターミナル駅から連絡したのね。納得したわ。でぇ~もぉ~。水臭い事した罰は受けて貰うわよぉ」
「はい。慶んでお小言を頂戴します。ふふ」
「お義母さんからもお小言が在るかもよ? ふふふ。それじゃぁ、お義父さんはお仕事だけどお家の方でお義母さんも透真さんも待ってるから行きましょうか」
「はい。お願いします。璃央さんもお迎えに来てくれてありがとう」
「なぁに。近いし、当然の事をしただけだよ。立ち話していても仕方が無いから行こうか」
「ねぇね。はやくいくのよ」
「お待たせしてごめんね。行きましょうねぇ」
こうしてあたし達は駅の建物から十メートルくらいの場所に停めて在る
車の中では紫音ちゃんと綾音ちゃんから矢継ぎ早に質問攻めに遇ったけど、瞳をキラキラさせて聞いて来るから眩しいわね。
そして駅から十五分くらいで夢でも焦がれていた師匠のお宅に到着したの。
あたしが思っていた以上に近くて驚いてしまったわ。
でも車での移動時間だから、もし歩いたら一時間までは掛からないけどそれなりの時間は掛かる筈よ。
始めてこのお家へ来た時と同様に玄関前で皆を降ろすと、彩華さんはお屋敷の裏手に在る駐車場に停めに行ったわ。
あたしは車から降りると改めてお屋敷を視上げ繁々と眺めたわ。
荘厳な佇まいで何度視ても立派よね。
璃央さんは玄関の引き戸を開けて待って居てくれてる。
ご挨拶の為に時間を確認すると凄~く微妙な時間だったわ。
と云うのもまだ午前中なのだけど『おはよう御座います』から『こんにちは』に換わる境目なのよ。
こう云う場合ってどっちでご挨拶しても失礼では無いけど、どちらにしようか迷うから困るのよね。
ここの土地柄的な慣習を知っていれば迷う事も無いのだけど、そこまではちょっと判らからないからあたし基準で考えると――
月詠家の朝は早くてお昼に近い事でもあるしここは『こんにちは』でご挨拶する方が良いと思うの。
そう考えたあたしは意を決すると敷居を跨いで玄関を潜り広い土間に入ったわ。
「こんにちは。弥生です。またお邪魔させて戴きました」
こう云ってお辞儀をすると奥から歩いて来る気配がして頭を上げた。
「いらっしゃい。随分と早く着いたねぇ。驚いちまったよ。まぁ、そんな所に居ないで早くお上がり」
「婆ぁば。またお世話になります。宜しくお願い致します」
「あぁ。よく来たねぇ。そんな堅っ苦しい挨拶は後で良いから、居間でお茶にしようじゃないか」
「はい。それでは遠慮なくお邪魔させて貰いますね」
師匠に促されてあたしはサンダルを脱いで小上がりに上がったわ。
そして鎮座する観音様像に軽く手を併せて師匠に付き従い居間へ向かった。
あたしを追うように紫音ちゃんと綾音ちゃんも後ろから歩いて来るわね。
殿軍は当然だけど璃央さんでこの順番だとあたしはお姫様ポジションだわ。
そんな馬鹿な事を考えながら歩くと透真さんの待つ居間に到着したの。
「透真さん。こんにちは。またお邪魔させて戴きました。宜しくお願い致します」
「やぁ。弥生ちゃん。いらっしゃい。何もない家だけどゆっくりして下さいね」
「何も無いなんてそんな。お世話になります」
「ねぇね。こっち すわって」
「綾音ちゃん、ありがとうね」
「さぁ。お茶にしようじゃないか。直に彩華も戻って来るだろうよ。ほら、弥生も座りな。璃央もだよ」
以前と変わらず暖かくあたしは迎えられてお茶に誘われたわ。
お茶と云えばお茶菓子は付き物だから、早速だけどお土産の『とうきょうバーなな』をお渡ししようかしらね。
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