第6話 村人、ロックワームを倒す
『キュルルルル!!!』
僕が駆け寄ると同時、ロックワームが首を僕に向けて勢いよく伸ばす。
まずい……! と直感的に判断した僕は急ブレーキをかけて横へと移動。ロックワームの攻撃を躱す。
「【一閃剛式】!!」
大上段に振り上げて、高速で振り下ろす剣技。
一閃剛式。一閃の速度はそのままに、力をさらに強めた剣技だ。
鋼鉄すらやすやすと切り裂く剣技だが、それはロックワームの硬い皮に弾かれてしまう。
『キュルルル!』
「うわっ……と! 僕の攻撃はまるで効いていない感じだね」
僕は飛び退いてロックワームから距離を取る。
ロックワームは追撃を仕掛けてくることはなく、崖側に戻り、こちらの動きを伺っている。
対する僕は先ほどの手応えを感じて、勝機が薄いことを悟っていた。
身体の皮が硬いだけならなんとかなる。しかし、その内側の肉は弾力があり、こちらの力を跳ね返す特性があるのだ。
「これまでの魔物とは一段も二段も違うね」
あれを斬る方法なら、既に思いついている。
素早く、力強く。この二つを両立させるだけのこと。
力が逃げる間もなく、素早く斬り裂く。一閃瞬式と一閃剛式を組み合わせたかのような剣技が必要だ。
けれど、それは何度か試しても成功したことがない技だ。
「【
フローラさんの声が聞こえてきたかと思うと、僕の身体が力強い光に包まれていく。
それだけじゃない。僕が持っている剣も火を纏い始めた。
「強化魔法と加護魔法……それと付与魔法ですっ! どこまで通用するか分かりませんが!!」
「ありがとう! これならなんだか……!」
出来る気がする!!
僕は剣を構えて、ロックワームを見据える。ロックワームも僕への警戒を高めたのか、じっと僕に意識を向けながら、グググと身体を縮めた。
……来るっ! そう思った刹那、ロックワームはその場で暴れ回る!
崖が揺れて大量の岩雪崩が起きる。ロックワームはその中にうまく姿を消した。
「主よ、光の主よ。我らを守りたまえ! 【聖結界】!!」
フローラさんが再び魔法を発動する。僕とフローラさんを覆う光のドームが展開され、岩雪崩を防ぐ。
『キュルルルルルオオオオ!!!』
その結界を見て、ロックワームがけたたましい叫び声と共に更に暴れ、岩雪崩の強さを増していく。
「く……うぅ……!!」
フローラさんの結界にヒビが入る。どうやらうかうかと見ている暇は無さそうだ。
「【一閃乱式】」
試作段階だった剣技を解き放つ。
一閃乱式。それは全方位に向かって無数の斬撃を放つ一閃。
フローラさんの結界に降り注ぐ岩達をことごとく粉微塵になるまで斬り刻む!
「え……こんな剣技が」
フローラさんの驚く声を聞く間もなく、ロックワームが突撃を開始する。
目標はもちろん僕っ! 僕は剣を逆手に構える。
「今なら……一瞬あれば充分!!」
ロックワームの懐に入り込み、呼吸と共に剣技を放つ。フローラさんの魔法のおかげでできる新たな剣技。その名を!!
「【一閃煉獄式】」
炎を纏った剣がロックワームを斬り裂く。赤色の光が剣の軌道を宙に描き、ロックワームの皮を焼き、肉を焦がす。
『キュルルル!!!!』
ロックワームが雄叫びを上げる。僕はそのまま首を斬り飛ばす。
「うわっ!?」
フローラさんの声の前、斬り飛ばされたロックワームの首が地面に落ちて土煙を上げる。
首を失ったロックワームは痙攣した後、ずるりと力を失い、その体も地面に落ちていく。
「……凄いなフローラさんの魔法。すごく動きやすかった」
「……す、凄いですよアレフさん!! ろ、ロックワームを一人で倒しちゃうなんて!!」
フローラさんは僕へと駆け寄り、手をぎゅっと強く握りしめながらそう言う。
あまりの興奮で距離が近いのもあってか、ついつい彼女が女の子というのを意識してしまう。
「いやいや、フローラさんのおかげだよ。フローラさんの魔法がなければ簡単には倒せなかった」
「何を言ってるんですかっ! どれだけ私の魔法で強化されていたとしても、アレフさんの剣技と身体能力がないとできない芸当ですよっ!!」
「そ、そうかなあ……? 僕はフローラさんがすごすぎただけだと思うけど」
「そんなことはありませんっ!! 私の方こそまだまだです。ロックワームの攻撃を正確に予知できていれば、もっと強い結界を張ることができたのに」
フローラさんは目に見えて落ち込む。
もっと強い結界が張れるのかという驚きと、ただでさえ僕を強化してくれたのに、それ以上の働きを自分に求める責任感の強さに、僕は驚きを隠せなかった。
「気にすることじゃないさ。フローラさんの魔法があったからこそ、岩雪崩にも難なく対処できたんだから。フローラさんこそもっと自分に自信を持つべきだ」
「そ、そうですかね? ……少しだけ、やっぱり自分って聖女には相応しくないのかなとか思ったり……」
「そんなことはないさっ! それは僕が保証する。僕みたいなただの村人よりも、君の方がもっと価値がある」
僕みたいな剣技しか使えない人よりも、フローラさんみたいに手広く魔法を使える人の方がよほど価値がある。
「あはは……そう言ってくれて嬉しいです。で、でもアレフさんが凄かったのは本当なんですからねっ!! ロックワームを一人で倒すなんて偉業なんですからっ!!」
「あはは……でもにわかには信じ難いんだ。こうした今でも自分の剣は師匠に追いついたのかどうか」
剣の鍛錬は師匠に追いつくためにやっていると言っても過言じゃない。
いつか見た師匠の剣に憧れてしまったから、僕は剣を振り続けている。
自分の中ではまだまだ遠いと感じているけど、それでもフローラさんはすごいって言ってくれる。
「師匠は僕の剣をなんて言ってくれるかな。厳しい人だからベタ褒めはないと思うけど」
「そんなことはありませんよ! きっと褒めてくれるはずです!! でも、王都に行く前に、これをなんとかしないといけませんね」
フローラさんはロックワームの死体を見てそう口にする。
確かにこれは滅入りそうな作業だ。これをどうにかしないと魔物がたかって危険なことになるだろう。
「村のみんなを頼ろう。聖女の言葉があればみんな喜んで力を貸してくれるはずだ」
「あはは……。あんまり自分のことを聖女っていうのも気が引けますが、仕方ありませんね」
「そうなのかい? 僕の前では気軽に言ってた気がするけど」
僕がそういうとフローラさんは頬を僅かに赤く染めて、ぷいっと顔を背けてしまう。
「あ、アレフさんだけは特別ですっ! それはその、アレフさんがあまりにも知らなさすぎるから……」
「あははごめんね。まだまだ知らないことばかりだから色々と教えてね。聖女様」
「も、もうっ! そんなことを言って……。聖女様って言われるの、こう、恥ずかしいんですからね色々とっ!」
笑いながら怒るフローラさんを見て、少しだけ心の距離が近づいたのを感じるのであった。
勇者パーティーを追放された聖女を助けた。真の勇者は僕だったらしい 路紬 @bakazuma
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