第2話 亡霊

視点:高蔵


俺は高蔵夜月たかくらやづき

今、新入りと一緒に楽しそうに笑ってやがる、八事華火の右腕の様な存在だ。


そんな中、新しい奴が入ってきた。

聞くにはあまり名のない情報屋なんだとか…

(何故、八事はあんな奴を…)

俺にはさっぱりわからない。

普通、情報屋なんて雇う必要なんてない。

俺は疑問を持ったまま、仕事の準備に取り掛かる。


俺は注射針を取り出し、腕の血管に針を刺す。

そしてチューブを繋ぎ、その先にある宝石へと俺の血を流し続ける。

およそ30mlといったところで針を抜き、即座に止血する。

そして俺の血を吸った宝石に思念を送り、それを具現化する。


そして現れたのは小さなポータルだ。

その中にあるのは、様々な武器達だ。

拳銃、爆弾、それから予備の輸血パック。

これが俺の持っている宝石の能力、自由に武器を出し入れする力。

これがあることで、何かと苦労がしないのが良いところだ。


「よし、弾薬も詰め終わった」

俺は準備出来た拳銃をポータルに投げ入れる。

そして俺は八事の前に歩み寄る。

「ボス、そろそろ仕事だ」

「ああ、もうそんな時間か…」

八事は能天気な性格もあってか、時間にルーズな一面がある。

「あ!せっかくだし黒川も行こっか!」 

「え、」

「…なっ!」

そして、突拍子もない発言をする。


「私がついて行ってもいいの?」

「ああ、私は問題ないよ。ねぇ、高蔵?」

八事は俺に聞いてくる。

「まぁ、良いんじゃないか?」

一旦、小手調べと行こうか。

彼女がどれだけの強さなのか、この目で確かめるには丁度いい。


そして、俺達は車へ乗り込み移動する。

勿論、俺が運転する側だ。

ボスの右腕として当然の責務さ。

そんな中、横からタバコの香りが鼻につく。

「……ふぅ」

気づけば横の情報屋は何も言わずタバコを吹かしていた。

「あ、自己紹介忘れてた」

それより気づくべきものが、あるのではないのか…

その礼儀は良いとして、マナーが欠如してやがる…

「まぁ、いいさ。俺は高蔵夜月。好きに呼んでもらって構わない」

「私は黒川玲。私の事も好きに呼んでよ」

まぁ、悪い奴では無い…のだろうか…


「さて、今から私たちの仕事内容の説明をしよう」

そして、八事は説明らしきものを話し始める。

「今から行くとこは、えーと…誰だっけ?

伊部なんたら、ってやつが何かやってるらしいから今から殺しに行く!」

はぁ、この人に説明を任せるのは止めておくべきだった。

俺はため息をついた。

そして横を見れば黒川の顔は「ぽかーん」とした表情で固まっていた。


「……今から、政治家の伊部元晴って奴を殺す。

彼奴はマフィアの行動を裏で黙認している。

それをコッチと関係のある政治家が依頼してきたからそれを引き受けて、今に至る。」

こんくらい話せば、大体理解できるだろう。

そして黒川は「…なるほど」と言い、目的地到着した。


着いたのは山奥の別荘。

「そういえば、敵はどのぐらい?」

黒川は車から降りる時に言う。

「あんまりわかんないけど、マフィア潰しもするから、結構いるよ〜」

八事は呑気にそう返した。

「じゃあ、私が囮になろうか?」

黒川はそう言った。

「その意図は?」

八事は問いかける。

「私、避けるのだけは得意だから」

黒川は自慢気に答える。

「…分かった!」

「ええ!?…マジすか!ボス!?」

八事の言葉に俺は語彙力を失う。

「え?何が?」

八事は自分の言ったことを理解できるだろうか…

「いや、彼女が囮って…殺す気ですか?」

俺はそう説得してみたものの「まぁ、一回やってみよ!」の一言で聞いてはくれなかった。


そんなことがあり、黒川が単独で別荘に突っ込むことになった。

そして、俺と八事は合図と共に外から突撃して、周りの敵を一掃する。

まあ、こんな感じの立ち回りらしい。


そして、俺は一面ガラス張りのリビングを凝視して合図を待つ。

って、合図って何?聞いてないんだが…

そう思っていたらいつの間にか黒川は人混みの中にいた。

そして窓側に近い人に近づき、肩をたたく。

それに反応して振り向いた瞬間、横から一直線に平手打ちする。

「は?ビンタ?」

俺は困惑するが八事はすでに手榴弾を投げ飛ばしていた。

「え?合図じゃないの?」

「アレが合図なの?!」

俺が驚くと同時に投げた手榴弾は爆発する。

「…やるしかないか」

そして俺は側にあるポータルから慌ててアサルトライフルを取り出し、乱射する。


場は一気に混戦状態になりそして、敵の血が舞い続ける。

俺は至る所にポータルを作り、八事はそこから拳銃を取り、敵を撃ち続ける。

そして、弾がなくなれば、別のポータルから取り出し、また撃ち続ける。

黒川は大物の惹き付け役として相手を煽り続ける。

しかし、彼女は敵の攻撃を数ミリ単位で避け続ける。

その実力は凄いが一切攻撃をしない。

(攻撃の隙は何回かあったはずだが…)


そう思っていると、奥から一人の男が現れる。

「あれ?良い感じにイケるかと思ったらほとんど死んどるやん」

この状況で一切、取り乱すことのない口調と表情。

それと同時にさっき殺した奴らが亡霊の様に起き上がる。

黒川は彼に問う。

「この状況、嵌められたね…」

「ご名答。しかし、もう遅い。」

彼は笑いながらこう言った。

しかし、俺と八事は…

「あ!これがネクロマンサーってやつか!」

「矢田がここに居たら仕事進まなくなりますね……」

「あ〜ね、あの子テンション上がると話が止まらないからな〜」

この状況でしょうもない会話をしていた。

「……」

そして黒川は俺たちを変な目で見る。

「殺し屋って案外雑魚ばっかりだな」

そして、奴は手元の銃で俺たちに標準を合わせ引き金を引く。


まぁ、こんなので死んじゃあ生きてられんよな。

「わっ、あぶなっ!」

「……」

前から飛んで来た銃弾を普通に躱す。

そして俺も手元のポータルから素早く拳銃を取り出し、早撃ちの一発をお返しする。

しかし、その弾は横から操られた死体が横から肉壁となり、標的には当たらない。

「── チッ」

こいつ、普通にやりやがる…

「ボス、こいつ俺が殺していいすか?」

俺は八事に聞く。

「りょーかい。じゃあ、私は目的の人のとこに行くよ。」

そう言って八事は奥の部屋へ向かった。


「さて、始めようか」

俺が足に力を入れた時、俺と奴の間に酒瓶が投げられた。

「私もいるんだけど……」

あ、なんか忘れてた。

そして、奴が従う死体が一斉に黒川へ向かう。

「うおっ、ちょっと多くない!」

黒川は逃げながら手当たり次第に酒瓶を投げ続ける。

しかしそれは当たらず、全て床に叩きつけられるだけであった。


まぁ、これで一対一の状況になった。

俺は思いっきり地面を蹴り、距離を詰める。

腰からナイフを取り出し思いっきり斜めに振り下ろす。

しかし、相手の反応速度も尋常じゃない。

俺のナイフは虚しくも空を切る。

ここまでの手慣れを雇えるとは……

だが、これはブラフだ。

すでに俺の振り下ろした右手はすでに異空間の中。

そして取り出すのは装填済みの拳銃。

俺は奴に向けて2発の銃声を響かせる。

「うっ……」

右肩と横腹に一発ずつ銃弾が奴の身体を貫いた。

「クソがっ!」

奴がそう言うと同時に黒川が惹きつけていた死体どもが俺に向かってくる。

俺はすぐさま何かを取り出そうとする。

そして手に取ったのは黒川が持っていたライター。

おそらく逃げ回ってた時に投げ入れたのだろう。

「さあ、焼却の時間だ」

俺はそのライターをフワッと投げ落とす。

そのライターは床に飛び散った酒に引火する。

その青い炎は円を描く様に燃え盛る。

結果、向かって来た死体は悲鳴をあげながら燃えて力を失う。

「おいおい、嘘だろ……」

奴はこの状況に言葉を失った。

俺はその隙をついて奴の心臓をナイフで突き刺した。

「グハッ───」

奴は吐血し、だが不敵な笑みを浮かべながら息絶えた。


「名前……聞いてなかったな…」

俺はひと段落ついた時、今更ながら頭によぎってしまった。

「あいつの事なら知ってるから後で話すよ」

「はぁ、ってなんか燃えてる!」

目標を追ってた八事が帰って来たがこの有り様に驚いていた。

「あ、おかえり」

「帰って来ましたか」


そして、八事は俺たちに報告する

「ごめん、逃げられた……」

「あちゃー…」

「まぁ、仕方ないですね」

このご時世、逃げる方法はいくらでもある。

そのため、逃げられたらほとんど対処のしようがない。

誰が、どうやって、どの力を使ったのか、そしてどこにいるのか。

これらの内容が分かりにくいのが現状だ。

「これは早く調べとくよ」

そう話は進み、俺たちは車へ乗り込んだ。


「さて、これから黒川にはいっぱい働いてもらうことになるよ〜」

八事は車の中で黒川に言った。

「それなら、歓迎会早くしないとですね。」

俺の言葉に八事の心は躍る。

「なら、いい店予約しとけよ〜」

「はいはい、わかりましたよ…」

八事は、後部座席から上半身を乗り出し俺をおちょくりだす。

「ははっ」

その横で黒川は笑った。


この、息苦しい世界で笑っていられる機会もあまり少ない。

いつ誰が死ぬかわからない。

相手がどんな人であれど人殺しは悪だ。

でも、この時間だけでも笑えるのなら笑って過ごさせてほしい。




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殘酷で苦しい世界に執念の一撃を 炊飯器にいるこめつぶ @kasiwaten0056

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