殘酷で苦しい世界に執念の一撃を

炊飯器にいるこめつぶ

第1話 情報屋 黒川玲

視点:黒川


空がより一層、暗くなり多くの人が寝静まった頃。


この時間になると夜の街の光がより一層、輝いて見える。



そんな中、路地裏でひっそりと情報の取引を行っているのが私、黒川玲くろかわ れい

しがない情報屋さ。


他人のやり取りを盗み聞き、それを必要としているとこに売る。

それが情報屋。


けれども全く上手くいかない。

情報の質は悪くはない。

私の師匠はこう言っていた。


『トップになれる』


この一言だけだった。

情報屋にトップもクソもないでしょ…と、この言葉を思い出すと、毎回ツッコミたくなる。


案の定、今日も誰も来なかった。

気分が乗らないまま、私は行きつけのバーへ向かった。


バーの扉を開け、席につき私は

「コープス・リバイバーを」

そう言ってなけなしの金で買ったタバコに火を付ける。

ここのバーは昔から師匠といっしょに行ってた場所だった。

私が未成年であっても、マスターは追い返すことはなくソフトドリンクを渡してくれた。

マスターは口数は少ないが作るカクテルは美味しいし、ふわっと感じる様な優しさがなんか好きだ。


そうして、私は最初の一杯に口をつけようとした時

バーの扉が開いた。

そして、私のグラスに視線を合わせてその人は言った。

「コープス・リバイバー…聞いた通りだ」

まるで私を探していたかの様な言い方だった。

そして、その人は私の席の横に座った。

「マスター、私も彼女と同じのちょうだい」

「かしこまりました。」

彼女は迷わずそれを注文した。

私は隣に視線を移し顔を確認した。

それと同時に

「ここ、よく来るの?」

「まあね、私の好きな場所だから」

初対面かつ最初の会話にしては積極的な人だ。

そして、この人は一応聞いたことがある。

「──でなんの用?殺し屋 八事華火やごと はなび


殺し屋、またの名『裏の裁判所』

目には目を歯には歯をという言葉そっくりに

相談者が失ったものと同等の物を相手から奪う。

それがコイツのとこのスタンスだ。

そしてそのボスがこの八事華火と言う女。


「はは、やっぱ知ってたんだ。

さすが、腕っぷしだけは一流っていう名があるほどだね」

「腕っぷしだけって酷くない?」

「だって、情報の質を上げようばかりにいろんなところ駆け回るのはいいけどその結果、客が毎回あんたを探すことになってるから…」


だから、客足が少ないのか。

やっと、なぜ人が来ないかの問題が解決した。

「そういうことだったのか、ありがと。」

「いやいや、今までやってて気づかないとやばい問題でしょ」

頭を下げながらお礼をいう私に若干変な目で見ながらそう言った。

「えーと、話が少し脱線したから本題に戻すね」

そうして華火は要件を単刀直入に言った。

「今回ここに来た理由は貴方を専属の情報屋として引き入れようという話さ。」


この話を聞いて私は驚いた。

「──なぜ私を?」

私は理由を聞く。

腕の良い情報屋は他にもいるはずだ。

しかも、専属の情報屋はあまり聞いたことがない。

その質問に華火はこう答えた。

「引き入れる理由は大してない。けれど一つ挙げるなら、貴方のそのやり方かな。」

「私のやり方?」

「そう。貴方の情報の集め方は大胆だからね。

普通、敵のヤサに単身で乗り込んで情報を盗み聞きするやつ居ないし、それで一人も殺さず無傷で帰ってくる。だから『亡霊』なんて名が付いてるんでしょ」

いつの間にそんなあだ名がついていたとは…

私は少し驚いたが華火は「なんで知らなかったんだよ、あんた情報屋でしょ…」って言われてしまった。


「一応、金なら沢山用意したから入ってくれな─」

「わかった」

私は迷わず即答した。

「──速い判断だね…」

「だってこのままやってても金が無いんだもん。」

「それは、宣伝が上手くいってないだけじゃ…」

たしかにそれは正しい。

だが、今からまともにやるぐらいなら入った方がいい!

「じゃ、この話は成立ってことでいい?」

「うん、問題ない。」


という感じで私との契約が完了し、華火の仕事場へ向かうことになった。


その道中…


「いやー、酒代まで奢ってくれるとは…」

「まぁ、良いよー。雇ったからには酒の一杯や二杯奢るのは当然でしょう?」

呑気な表情でそう言う華火。

「そういえば、私たち秘密裏にやってることがあるんだよね〜」

華火は表情を変えずとても重要そうな話題をしれっと吐き出した。

「……それって、私に言っていいの?」

「え?だってもう私達、仲間じゃん。」

そう告げる華火の目には『信頼』の二文字が私の顔に浮かび上がるような、透き通った黒い目をしていた。


彼女の目には何が見えているのか、その絶対的信頼と自信はどこから来るものなのか考えれば考えるほど謎の多い人物だと私は思った。


裏切りが簡単にできてしまう世の中、私が罠に嵌める可能性もあればその逆もある。

だが、この圧倒的信頼は信じざるを得なかった。

だから私は華火に関して考える事をやめた。


相手がここまで信じてくれているんだ。

それなら、全力で答えるのが私なり答えであり、私なりの彼女への感情表現だ。


「…で、その内容は?」

「最近、これについては知ってるでしょ?」

そう言って、一つの宝石を見せてきた。

一見ただの宝石。

だがこれは私達の様な真っ当な道から外れた者だけがしっている宝石だ。


「これね…今の裏社会だったらほぼ全員持ってるやつじゃない?」

この宝石が出たのはおよそ数年前。

これが突如、裏社会の人間達に出回ったことによって今までの常識が覆るほどのヤバい代物だ。

おまけに死体を消し去る謎機能付き。


それもあって警察に被害届を出しても解決しない事が多々ある。

裏社会の人間にとっては警察からの横槍が飛んでこないのは便利だが、私達情報屋が情報を仕入れにくいため良いことばかりの物ではないのが現実だ。

「代償を払う代わりに膨大の力を得る謎の宝石。私達はこれの真実を探ろうと裏でこっそり計画している。」

これを持っているほとんどの人は入手経路不明と答える。なぜならいつの間にか手元にあるからだ。

そのため条件もわからないため、誰一人この真実を解明出来てない。

「正直、外道達にとって都合の良い道具だからこっち側からすればメリットでしかないが、いかんせん原理があまりにも謎すぎる。」

このペンダントは人体への影響が大きいが故これで死ぬやつも少なくはない。

「まぁ、それを今から頑張って見つけるしかないよね〜」

「──こっちも頑張ってみるよ」


そして着いた場所は大通りから離れた場所にある相談所だった。

華火は裏口の鍵を開ける。


「さぁ、はいって良いよ〜」

そう言われて、私は中へ入る。

目の前は相談所の休憩室だった。

そして8人の従業員らしき人が目の前にいた。

何故か漂う強者のオーラ。


「あ~、コイツらについて大雑把に話すとね。

まず、アニオタの矢田。

模倣の天才って言われてる茶屋。

酒クズの堀田。

永遠、中二病の矢場。

殺人鬼、上前。

双子の名城姉妹。

そして、そこで二郎食べてる高蔵。

まぁ、詳しく知りたいのなら自分で調べたら良いさ」

そう言って私に中途半端な他己紹介を淡々と話した。

絶望的に他己紹介と言うには一人一人の情報が少なすぎるが、まぁいいや。


華火が話し終えた後、目の前にやってきたのは一人の青年。

「ようこそ、僕達の組織へ。」

「ありがとう。私は黒川玲、これからよろしく。」

陽気な雰囲気をまとわせながら話しかける彼。

「僕は矢田直之やだ なおゆき。さっそくだけど…好きなアニメジャンルは?」

しかし、まともな人ではなかった。

合って3秒でアニメジャンル聞いてくるのはコミュニケーション能力がイカれている…

「私アニメ見てない。」

「ガーン!もしかしたら、アニメ友達が出来ると思ったのに…」

私はそもそもアニメを見てない為、彼の希望に答えることはできない。

しかし、想像以上に落ち込む直之には若干、罪悪感が込み上げてくる…


「ははは…まぁ、でもなんかかんや仲良くやれるよ…」

私は何故か、華火から謎のフォローを受けていた。

「そうだよ。別に分かり合えなくても私だってそうだし、あの子には私のお姉ちゃんが話し相手になってくれるから。」

そう言われ、ふと彼を見ればすでにこの人の姉らしき人と話で盛り上がっていた。

「あ、自己紹介が遅れてました!私、名城霜花めいじょう そうかといいます。あっちにいる姉は夏姫なつきです。」

「私は黒川玲、こっちも自己紹介が遅れて申し訳ない。」

「いやいや、そんな謝る必要は…」

謝る私に困惑する霜花。

それを鼻で笑いながら鑑賞している華火。

謎の空間がいつの間にか出来上がっていた。


しかし、今はここが心地良い。

師匠が失踪して早4年、私は一人だった。

そんな私の居場所が新たにできた。

私はこの新たな居場所を失わないことを心の隅で誓うのだった。

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