第4話 セカイ

あれからどれだけ時間が経ったのか。おそらくそれほど経っていないが、体感は一日以上のものだ。


「ラピ…ス。」


あの男が去って、数分。俺の後ろから声がかかる。

この声は良く知っている。


「リラ!!」

「ごめ、ん。私の、私のせ、いで…!」


泣きそうな声でそう嘆くリラ。

生きていることへの喜び、泣きそうなリラへの困惑で動くことができない。

私のせい、というのはどういうことだ?


「私なのよ。私達なのよ。私達二人がカギを、持っていたのよ。だから、 二人は…。」

「ふーん。なるほどねぇ。で、リウの生死はわかってるの?」

「え…責め、ないの…?」

「…俺が今までどんな環境にいたと思ってる?責めるぐらいなら手を考えるほうが有意義な時間だ。……ほら、立て。」


そう言って手を差し伸べる。恐る恐るその手を取るリラを一気に引っ張って立たせる。


「…うわ、危ないわね…。」

「ほら、そんぐらいのがお前は丁度いい。さっさと歩け。ここは大事だが、相手に場所を知られてるんじゃ駄目だ。必要なもんだけもってこい。」


ほぼ焼け野原と言って差し支えない屋敷跡、そこには辛うじて形を保っている部屋がいくつかある。

アルの死体は埋めて、リラと二人で手を合わせた。


そして、何分歩いたのだるうか。

森の中、人の気配のない場所で俺は口を開いた。


「…で、リウはどうなったんだ?」

「それは…」


ゆっくり口を開くリラ。すこし気まずそうな雰囲気だ。


「…リウは、魂だけにされたのよ。そういう魔法でね。」

「…あ~…。え、霊魂系ってムズくなかったか?」


魔法には興味があり、かなりの量の本を読んだ記憶がある。

アルの屋敷にはたくさんの本があり、すごく楽しんで読んだ。


「貴方意外と知識あるわね…」

「奴隷になる前の知識とアルに買われてからの知識だ。…で?」

「えっと…あいつは、肉体を球状にして、意識を途切れさせて連れて行ったのよ。だから…取り返したら肉体を戻せるようにしないとなのよ。」


確か霊魂系を得意とする種族は“狐”。狐系の獣人は神体となる者が霊魂系を得意とし、他の者は変化系統を得意とするはず…。


「じゃひとまず狐界の里こんかいのさとを目指してみるか。」

「狐界の里?あれっておとぎ話じゃ…」


狐界は狐族の獣人が暮らすセカイ。

一応、獣人以外もいたはずだが。


「お前カギの保持者じゃなかったのか?」

「え…それはそうだけど。」


俺は、カギの保持者に昔、あったことがある。白い髪のきれいな女性だったと思う。しかし、俺は子供の頃のことだったので、良く覚えていない。

覚えているのは……。


ーーーーーーーーーー

『君、面白そうだ。“それ”貸してよ。君の知りたいこと教えてあーげる♪』

ーーーーーーーーーー

今でも俺に残っているのは、その明るい声と、長くきれいで、印象的な白髪。

…今はどうでもいいか。


「…昔聞いたことがある。カギの保持者からな。この世界には14個のセカイが存在する。ちなみにここは中央共栄圏の共存セカイ【セントラル】と言われている…はずだ。」

「曖昧ね。」

「悪かったな!」


変なところに突っ込んできやがって…。


「はぁ…。でだ、“狐界の里”は閉鎖圏、独立セカイ【サンシャワー】だったか。そこの都市だったはずだ。まずは【サンシャワー】への…っと、それはまだ先だな。」

「えぇ…。まだどこか行く所あるの?」


そう嫌そうな顔をするリラ。まぁ情報量多いもんな、俺はもうかなり前に整理したからってだけだし。


「それより先にやることあるだろ?」

「はぁ?もったいぶらずに速く言いなさいよ。」

「“生活基盤”…。じゃないと普通に死ねる。」

「た…確かに。」


これはほぼ旅。旅の目標に向かうのは、もう少し先になりそうだ。


ーーーーーーーーーー


「あら、逃してよかったの?」

「…お前か。あぁ、構わないさ。どうせならあの閉鎖圏への道を見つけてくれれば万々歳、できないならあの黒いガキの情報をもらうだけだ。」


目の前の彼は、淡々と表情を変えずにそう言う。そこにさっきまでアル・レーンと話していたときの柔らかさはない。

ただただ目的を達成する機械のようだ。


「まぁいいわ。さて、命令をもらえるかしら?…リーダー。」

「あいつらを影から監視しろ。干渉してもいいが、必要最低限にしろ。」

「りょーかい。あんたは休んでなさい。」


そう言い、踵を返す。彼らの後を追うために、歩き出す。

その背中に、ぶっきらぼうな声がかかる。


「無理はするな。」

「!…は~い。」


相変わらず、不器用なくせに仲間思いなリーダーだなぁ、と。その激励を胸に、あるきだすのだった。

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セカイノカギ ユラ @raia124

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