第3話 日常の終わり

「……そういえば…」


アルの元に向かっている最中、リウが前兆もなく口を開く。

その瞳は俺を捉えておらず、俺に対していっているのかわかりにくい。


「…今年も、もう六月ですね…。」


その言葉に、俺は目を見開く。それがバレないよう、うつむいたまま。

俺は歩き続ける。

その何処か寂しげな呟きを、胸に残して。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…手当が完了いたしました。アル様。」

「そうかい。ありがとうね、リウ。」


リウに軽く礼を言い、直ぐに俺に向き直る。

本当に考えていることが読みにくい男だ。

そう思い、俺が警戒しながらアルの言葉を待つ。


「これが君の奴隷契約書なんだけれど。」


そう言って、アルが俺に見せたのは文字と、魔法陣が刻まれた紙…というより書類である。

これがある限り俺は奴隷だ。


「これ、いらないからさ」

「え?」


ビリリッ!!

俺の困惑を気にも留めずにアルはその書類を破り捨てた。


「これで君は一応平民。と言うことでここの使用人という形で住んでくれないかい?」


にっこり笑ってそう言うアル。後ろの扉はリラが、奥の窓はリウが塞いでいる。そもそもただ外に出ても野垂れ死ぬだけ、俺に選択肢など、無いに等しかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…うわぁ…広…」

「ここを使ってください。貴方の私室という扱いになります。」


リウに案内されたのは、普通より広い部屋。ベッド、クローゼット、机、本棚、ドレッサーまでおいてある。


「こ…こんな部屋…」

「アル様からのプレゼントみたいなものです。どうぞお受け取りください。」

「…はい。有難うございます。」


正直俺にはかなりもったいないが、無下にするわけにもいかないのでありがたく使わせてもらおう。


「では、貴方は使用人ではありますが、特に仕事はありません。自由に過ごして良いそうですよ。」

「えぇ…でも私は…」

「……あぁ。少しだけ指示がありましたね。」


えっ…。なんだろうか。命に関わらないといいのだが。


「私達に遠慮をしないこと、素で話すこと。この2つです。いいですね?」

「え……は、はい。」

「……それは素ではないでしょう?」 


痛いところをつくものだ、この女。


「…あぁ。じゃぁ自由に話させてもらう。改めてよろしくな、リウ。」

「はい。よろしくお願いいたします。ラピス様。」


俺がいきなり呼び捨てにしてよかったのかはわからないが、気にしている様子もないので良いだろう。


「…せっかくなら、俺も呼び捨てにしてくれ、なんというか違和感がすごいんだ。」

「では、ラピス。これからよろしくお願いしますね。」

「あぁ。大分迷惑もかけるだろうがよろしく頼む。」


…………………………


半年の月日を、ほぼこの屋敷で過ごした。

アルやリウ、リラと話してたり、

家事や庭仕事を手伝ったり、

書斎の本を読んだり、

服を買いに行った(連れて行かれた)り、

本当に色々なことをして過ごした。この半年だけで。


今日も、それが続くと思っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「リラ、手伝うことあるか?」


今日は早めに起きたので、厨房のリウの手伝いに来た。しかし料理は終わっているようだ。


「じゃぁ調理は終わったから運ぶのを手伝ってちょうだい。」

「了解。いつも通りのこれごとだよな?」

「えぇ。よろしく頼むわ。」


四人分の料理をワゴンで一気に運ぶ。それほど距離はないが、俺には専門の知識とかが無いので料理の置き方なんかをそのまま置けるこれが一番なのである。


「アル、おはよう。」

「おはよう、ラピス。リラの手伝いかい?」

「そんなところだ。もう時期リラも来るだろ。」

「そうだね、ゆっくり待とうか。」


アルと俺の二人で席に座り、雑談をして二人を待つ。


「何度も聞くけど、ラピスは欲しい物とかはないのかい?」

「衣食住はあるからな。今のところ何にも困ってないし、暇つぶしは本があるからな特にない。」


強いて言うなら少し屋敷の外に出てみたいが、迷いそうだし3人共忙しそうなので言わないでおく。


「そうかい…。何かしてあげたいんだけどねぇ…。」

「生活だけでありがたいさ。こっちは元々奴隷なんだからな。」


平和にいつも通りの会話をしていた、その時。

一瞬だけ、聞いたことのない機械音が聞こえた気がした。


「ん?何のおt…」


ドーーーーン!!


いきなり、視界が白く染まった。

明るさで目が痛い。そして、熱い、肌が焼けるように痛い。

爆発だと気づいたのは体が吹き飛ばされて地面に着地した数秒後だった。


「な…んで、いきなりこんな…。」


「やぁ、アル・レーン君。」


知らない声が周囲に響く。

しかし、あるの名前がよばれている。


「…君は…誰、だい…?」

「名乗るほどのものでもないさ。強いて言うなら…カギを探す者、かな。」

「カギ…だって?なんでそんな…確証すら無いものを…!」


世界のカギ…手に入れたものが大きな力を得ることができると言われている、あのカギ。

それを探して、一体何に…。


「確証…か。その噂そのものが確証といったところかな?」

「なん…だって?噂は噂、確証にはならない…だろう…!」

「その確証のない、不安定な噂が、現代まで残っている。これが確証じゃ物足りないのかな?」


…絶対に、何かある。何か知っていて、はぐらかしているのだ。じゃなければこんな事をそう簡単にできるわけがない。

アルの屋敷は豪邸だ。確証もなしに襲うなんて言うリスクの高いことはできない。


「それが…その噂が本当だとして、なぜ、私の屋敷を狙うんだい?」

「ここに、そのカギがあるからだよ。それ以外ないだろう?」


ここに、世界のカギが?

だとしたら納得がいく。しかし、カギという不確定要素の多いものをどう見つけた?

鍵というのはつまりは何かをすることに対して必ずしなければならないことだ。

世界のカギがどのような形状をしているのかどころか、実態があるのかすらわからない。

わかっているのは、12種類ということだけだ。そもそも本当に12種類なのかすら怪しいところではある。


「君は…カギが何なのか…知っているのかい?」

「逆に聞くがお前は?俺は一方的に情報を渡しに来たわけではないぞ。」

「くっ…」


ここは…リウを、呼ばないと…。


「あぁ。だがどうでもいいか。貴様は今ここであのメイド二人と同じように…」



















「俺が殺すのだからな」



その言葉の数秒後、アルの首と胴はバラバラになった。

呆気なく、そして突然に俺の新しい日常は消え失せた。










ここまでが、俺の始まりのお話。


そしてこれからが今から紡がれる、旅のお話。

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