鳥さんと鳥飼さん

かごのぼっち

鳥さんと鳥飼さん

 鳥飼さんは鳥さんが大好きです。


 鳥飼さんの大好きな鳥さんに、オスのモモイロインコのモモちゃんがおりました。

 残念ながら今はもういません。


 モモちゃんは名前の通りのピンクの体色が特徴の、大型の鳥さんです。冠羽は白っぽいピンクで、翼や尾羽はグレーです。


 モモイロインコは名前にインコってついていますが、実はオウムさんです。


 大型の鳥さんを飼うのが初めての鳥飼さんは、モモちゃんを飼うにあたって、たくさん調べました。そもそも日本ではまだあまり飼われていなかった鳥さんで、情報が少なかったからです。


 鳥さんはとてもデリケートな生き物で、体調を悪くすると、犬猫などに比べて早急に悪くなってしまいます。なので先ず、近くに診察してくれる獣医さんを見つけなくてはいけませんでした。


 なかなか見つかりませんでした。大型のインコはとても危険で、獣医さんと言えども診察を拒否する場合がほとんどなのです。そして、何よりも、そんな大型の鳥さんを診る事が出来る獣医さんそのものが、とても少ないのです。


 たくさんの獣医さんをあたって、様々なエキゾチックアニマルを診てくれる、とても頼もしい獣医さんに出会う事ができました。(うちのプレーリードッグは大変お世話になりました)


 大型の鳥さんはストレスが溜まりやすい為に、雑に扱うとすぐに死に繋がります。爪を切るのにも細心の注意(血が出てはいけません)をはらいます。クリッピング(羽切り)は初列風切羽を縦に半分切る事で大きなストレスを軽減します。飛ぶと危険で、飛べないとストレス、この間を選択します。


 食べ物は始め、なるべく現地の食性に近付けて与えていましたが、獣医さんの薦めでペレットに変えました。モモイロインコさんの分布はとても広く、種や果実を食べていると言っても、何をどれくらい食べているかなど、特定出来ないのでどうしても栄養バランスが悪くなるからです。(今では、どんな鳥さんも、なるべくペレットを与えるようにしております)


 モモちゃんは甘えん坊さんなので、鳥飼さんが家にいる時はなるべくモモちゃんをケージから出して遊んでおりました。


 何年かすると、言葉もいくつか覚えました。すみません、実は「おはよう」「バイバイ」「モモちゃん」のみっつだけです。


 モモちゃんがケージの外に出ている時は、鳥飼さんにべったりついて行きました。

 家に帰ると、モモちゃん、と言って鳥飼さんを呼びました。鳥飼さんが行くと、冠羽をブワッと膨らませて、かまってちゃんになります。

 あまり相手をしてあげられない時は、キュイ──ッ!と大きな声で呼んで、近くに寄ると、頭を振ってアピールするのです。そして、大好きな落花生を与えても、受け取らずにブワッと顔を膨らませるのです。そんな時、鳥飼さんは、たまらずかまってあげちゃいました。


 モモちゃんは鳥飼さんの事が大好きだったのです。


 十七年経った冬のある日。


 鳥飼さんが家に帰ると、モモちゃんがケージの床にしゃがみ込んでおりました。鳥飼さんはこれはいけない、と、その日のうちに獣医さんと連絡をとって、診てもらいに行きました。

 原因は解らないけれど、非常に危険な状態で、温度管理と飲み物に薬を混ぜて与える事しか出来る事がないと言われてしまいました。


 家に帰ると、部屋の温度を二十八度まで上げて、水もあまり飲まないので、スポイトで口に運んであげました。


 モモちゃんは大型の鳥さんなので、すぐにどうにかなるものではありませんが、食欲は回復せず、身体もぐったりとしていました。


 何度も鳥さんの最期に向き合ってきた鳥飼さんは、モモちゃんとの最期を覚悟しました。


 でも、モモちゃんはとても苦しそうなのに、鳥飼さんの顔を見ると、顔を膨らませようとしてくれるのです。

 きれいには膨らみませんでした。


 最後は、力なく鳥飼さんに寄り添って、息を引き取りました。


 鳥さんは、亡くなると、あれ? こんなに細かったっけ? と思えるくらいに羽毛に空気がなくなって、身体もどんどん硬くなってゆきます。 


 鳥飼さんは泣きました。


 鳥飼さんは、モモちゃんと一緒に過ごした時間を、たっぷりと振り返りながら、モモちゃんとの最期の時間を終えました。


 朝、お庭でお別れです。


 モモちゃん、たくさんの楽しい時間をありがとう!


 これが、モモちゃんに贈った最後の言葉でした。



 

 これから鳥さんを飼いたいと思っている人へ


 


 飼い主は責任を持って、鳥さんの一生にまるっと向き合う必要があります。

 

 買うのは簡単です。


 でも、飼うのは簡単ではありません。


 鳥さんを飼うキッカケは何だって良いでしょう。


 可愛いから。


 ビビっときたから。


 だけど、飼うと決めたのなら、先ず知ってください。これから飼おうとしている、その生態を。その命の在り方を。必ず別れが来るということを。


 そりゃあ、人のそれよりは短い時間かも知れませんが、一生分の思い出がそこにあります。


 鳥さんの一生。


 あなたは責任持てますか?

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