私と共に予知夢を見ようか
「お姉さんは、彩色の人?」
きょとん、と首を傾けるだけで薄紫色の長髪がはらりと舞い、光のない瞳が鼠を狙う猫のように、私を覗き込んでくる。あぁ……目を逸らしたら、大変なことになる。そう直感した。
軽く押した鍵盤が、優しく儚い音を奏でる。久しぶり、今日はどうかよろしくね。なんて、昔みたいに語りかけてみたりして。ピアノをもう一度好きになる方法なんて、もう存在しないのに。
手持ちの無駄に着飾ったドレスではなく、聡くんと都々に似合うといってもらったドレスを着て、パーティのことなんて考えず、頭を空っぽにして、弾き始める。
憎しみが漏れないように必死な演奏で、人を惹き付けられるだろうかなんて懸念は、最初の一音で吹き飛んでいた。
儚く揺れるピアノの音に、笑いが零れそうになる。
この光景とは明らかに場違いな拳銃の先が、俺に向いていたから。
「ごめんね、演奏を邪魔されると困っちゃうんだ。」
だから、そこから一歩も動くなという圧を真正面から浴び、竦む体を奮い立たせ何とか頷く。目の前の男は、隼さん程では無いものの身長が高い。濃く、長いミルクティー色の髪とカラーサングラスで表情はよく見えないが、言うことを聞いた俺に対して微笑んでいるように見える。
「……おにーさんは何者ですか。ギャングってこんな場所を歩けるイメージないんすけど」
「んー?僕はもう一般人だからいいんだよ。ただ銃を持ってて、未成年の女の子を軟禁してて、裏のビジネスをちょこっとしてるだけ」
「(何処が一般人だクソッタレ……!!)」
挙げそうになった悲鳴にも似た叫びをどうにか飲み込み、ただ何もせずピアノを弾いている妹のような存在を眺める。
「悪い、雪奈。今回だけは、助けてやれそうにねぇ」
あまりにも情けない謝罪が漏れ、それを聞いた目の前の男は、にこにこと悪魔のように笑っていた。
だから、信じた。俺が何もしなければ、こいつは大人しく引き下がってくれるのだと。
大人しく引き下がらないからこその、大人だということも忘れて。
「ねぇ、可愛いピアニストさん。僕が声を取り戻してあげようか」
「…………?」
愛おしそうに女の子を抱える青年が、夢想のようなことを口にした。
合成音声の歌姫と人間たちは わたぬい @watanui
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