第12話 行方

 田んぼと畑が面積の大半を占め、道路にいるのは電柱だけの、一目見ただけで分かる田舎。カラスやスズメより、人の数が少ない場所。

 建ち並ぶ民家から孤立して、町の隅に細々と建っている一軒家。


 一軒家の一階で、盲目の男はテレビを聴いていた。


 「まったくこの国は、良いことしても知らん振りのくせに、悪いことするとすぐ捕まるな」


 盲目の男がひとり呟くと、階段をドタドタと下りる音が乱入して来る。


 「ねえねえ、いつになったらさ、僕は学校に行けるの?もう中学生の年齢になっちゃうよ?」


 そう言いながら2階から下りて来たのは、寝癖だらけの寝起きの少年。ぶかぶかのパジャマを着た少年は、盲目の男に近づく。


 「ごめんねぇ。いつか必ず、学校通えるようにするから」


 「いつかって、いつ?」


 盲目の男の隣の椅子に座り、少年は聞く。


 「君が中学生の年齢になるまでには」


 「それじゃあ、間に合わないよ!」


 「中学生は13歳からだから、まだ間に合うよ。君は今10歳でしょ?」


 盲目の男は、テーブルの上のリモコンを手に取ってテレビに向ける。


 「あっ!ガムポン始まる時間じゃん!見るからテレビ消さないで!あと音大きく!」


 少年に言われた通り、盲目の男は音量を上げて、リモコンを机の上に戻す。


 「そーえば、ガムポンのお気に入りのキーホルダー持ってたと思うんだけど、どこいったのかなぁ?知らない?」


 「...知らないよ。部屋散らかってるから無くなるんだよ。ちゃんと掃除して、整理整頓しないとダメだよ?」


 「はいはい」


 少年はテレビに夢中で、盲目の男の話など耳に入らない。適当な返事をして、テレビの画面に吸い込まれる。


 「あー!面白かったー!」


 アニメを見終わった少年は、リモコンを手に取り他のチャンネルに切り替える。しかし、興味をそそられる番組は放送されていなかったため、テレビを消す。


 「見終わったなら、顔洗って歯磨いてきな。もうお昼だから。あと着替えもね」


 「はーい」


 アニメを見終わって満足した少年は、大人しく言うことに従う。

 歯を磨いて、顔を洗って、服も着替えた。


 「やることがなくなった」


 「部屋の掃除は?」


 盲目の男の言葉は右から左で、少年は駄々をコネ始める。


 「もぉー!ここ田舎過ぎるよ!楽しいことが少な過ぎる!田んぼと畑しかない!あと野良猫!」


 「岐阜はいい所だよ。静かだし空気も美味しい」


 「空気なんてどこも同じ味だよ!」


 「もう少ししたら、お父さんにもお兄ちゃんとお姉ちゃんにも、会えるからね。辛抱して」


 盲目の男の言葉に、少年は間の抜けた顔を浮かべる。


 「え?お兄ちゃんとお姉ちゃん?何言ってんの?僕は一人っ子でしょ?」


 「...あれ?そうだったっけ?人違いかな」


 「おじさん人違いするほど、知り合いいるの?」


 「酷いなあ。俺は知り合いたくさんいるよ」


 言ってから、盲目の男は窓の外に目をやる。


 「今日は天気も良いし、買い物着いて来てくれる?」


 「あー、うん。まぁ、いいよ。部屋の片付けするよりはマシだし」


 立ち上がって玄関で靴を履き、2人は家を後にする。

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星の散り方と生まれ方 ちゃもちょあちゃ @chamochoacha

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