短歌二十首「ラムネの瓶」

秋犬

短歌二十首「ラムネの瓶」

雷鳴か 遠い狭間で揺れているその魂を拾うのは誰


堤防に神社の隅に砂浜に私の破片が残されたまま


飲み干したラムネの瓶を覗き込み 閉じ込められた夏にキスする


ああこれが恋というものなんでしょう やっと私も人間になれた


ビー玉がころりと飛んで行ったから 明日は私が殺される日


死んだって構わないけど両親に感謝の手紙はしたためておく


そのときはとてもきれいな青空で入道雲が踊っていました


明日とか明後日だとか関係ない 今すぐこの場で殺してほしい


「よろしく」と差し出された手のひらに撫でられ私の輪郭灯る


それまでは風船のような恋でした 今はあなたの傘になりたい


「ウブだね」と少女漫画を読みふけり理想の少女の仕草を学ぶ


夏祭り 浴衣にイカ焼きりんご飴 これからふたりで神様になる


早朝の海辺でふたり手を重ね「好きになった」と今更なんで


「知ってるか、蝉が鳴くのはオスだけだって」「だったら君も鳴いてみれば」


求めれば求めるほどに砂粒が後から後から零れ落ちてく


生命は海から生まれ還りゆく 君と私に寄せ打つ波よ


いつまでも少女のままじゃダメですか 夏と秋の境目もなく


飲み干したラムネの瓶から取り出した夏の気配は手のひらの上


空き缶に集めた蝉の抜け殻は過去最低のゼロ個でした


「明日から夕方上着が必要だって」「じゃあ半袖もそろそろ終わりか」

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短歌二十首「ラムネの瓶」 秋犬 @Anoni

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