SupERnAturaL

 おお……まじで行くのか、本当に大丈夫なのか……?


「ところで僕はどうしようか?」棈木さんだ「マークされているという前提に立てば一緒のところを見られない方がいいと思うんだけど」


 うーん、そうなんだよな、その懸念があるにはある……。


「大丈夫ですよ」シイナさんだ「ウサチンがそういってますし」

「いや知らんが」ウサチンだ「なにを根拠にいっとるんだ」

「でも呼ばれてるって」

「呼ばれてはいる。たぶん」


 ……まあ、身の危険があるかと問われればさすがにノーだろう。でも……問題は立ち入り禁止の場所に入っちゃって、なんというか立場が悪くなることだ。ひっきりなしにサービスポールがつきまとうような事態はさけたいしな。


 ……でもなあ、棈木さんがマークされているのか、そこからして本当かどうかわからないからなぁ。


 いや、だからこそ、その答えを知るには一緒に動くしかない、か……。


「棈木さんも一緒にいきましょう。その方がいろいろとはっきりするかもしれない」


 棈木さんはふと俺を見やって、目を輝かせる……!


「うわー! 嬉しいなぁ! やっぱり僕の見る目は正しかった、君こそ求めていた新たなる仲間だ……!」


 なんかいきなり話がカッ飛んだがっ? というか仲間っておれはべつにオカルトはあまり……。


「すごい! よかったね、トキトークン!」

「よきよき」


 なんか二人からも応援されているがっ? いやいや、おれはべつに……って、さっきから棈木さんがひっきりなしにしゃべってるな……。


「うちはいいよ、おすすめだよ、界隈じゃわりと名が知れてるし、いろいろと体験したこともあってね、実際、この辺りは不思議な現象が多発してるんだ」


 ええ? なにそれ、初耳なんだがっ……?

 そしてシイナさんが目を輝かせる!


「へえー! どんなことがあったんですっ?」


「聞きたいかい?」棈木さんはニッコリと笑む「そうだなぁ、じゃあ、あれにしようかな」


 なんか棈木さんの体験談が始まったが……?


【ELECTRICUS】


 ……ここからちょっと遠くにあるビジネスホテルの話でね、ホテルサニットって知ってる? そこの617号室がやばいって話があったんだ。このネタを持ってきたのはうちの研究会の木宮って奴なんだけど、なにがやばいのかって聞いても、いまいち要領を得ないんだよ。とにかくなんかやばいらしいんだ。


 まあ車で片道30分くらいの近場だし、突撃取材しても良かったんだけど、その部屋はツインで12,000円だからね、2人で割っても6,000円、なにかと入り用な学生には痛いっちゃ痛い。だからまずはネタの大元である木宮のおじさんに聞いてみようって話になったんだ。


 そして少し電話で話したんだけど、これまた要領を得ない感じでさ、とにかくおかしい、奇妙なんだっていうんだよ。だから単刀直入に聞いたさ、幽霊を見たんですかって。


 でも答えはノーだった。そういうのを見たわけじゃないけど、なんかこう、おかしなことが起こったっていうんだ。一言では言い表せない感じのようだった。


 木宮のおじさん自身もいろいろと調べたらしくてね、その結果によると、その部屋でおかしな体験をした人が他にもけっこういたらしい。


 もっと具体的な体験談を聞きたかったけど、木宮のおじさんは忙しいらしくてね、けっきょくよくわからないまま話は終わってしまった。でも、多少なりとも噂になっているなら仕方ない、いってみようかって話になった。


 参加したのは4人、もちろん予約したよ。いきなり行って部屋が空いてなかったら困るからね。印象的だったのはホテルマンの態度だったな。617号室と指定すると明らかに困惑した口調になってね、でもホテル側としてはおかしな部屋と認めるわけにはいかないようで、実際、その部屋でなにか事件が起こったとか、そういう噂はなかったんだ。本当にそうなのか、それとも握り潰されたのか、その辺はわからないけど、ともかく過去にはなにもないことになっているようだった。


 それから相談をして、617号室には僕と木宮が泊まることになった。残りの二人は隣のツインさ。すぐに譲ってくれたところを見るに内心、怖がってたのかもしれないね。


 サニットは結構大きいホテルだったよ。でもまあ内装はよくある感じさ、なんとなく暖色で、シンプルなカウンターに小綺麗な応接セット、それに朝食バイキングとかがあるやつ。で、カウンターのホテルマンは僕らを訝しげにちらちら見やるわけだ、ほら、悪評を立てられたら彼らだって困るだろうしさ、実際には好奇心まみれの学生4人に過ぎないんだけどね。


 そして僕らはわくわくしながら6階へ、617号室の前に立った。でも変な感じはまるでなかったんだ、なかもいたって普通、よくある小綺麗な感じだよ。


 とはいえ僕らにはお化け屋敷だ、さあこいと期待しつつ室内を物色した。でも残念ながら、お札とかは発見できなかったな。


 なにかあるらしいとはいっても、見た目はただのビジネスホテル、僕らは物色に飽きておしゃべりしたり、トランプしたり、映画を見たりしていた。なるべく室内にいなきゃならないからね、やっぱり暇なもんさ。夕方になっても特におかしなことはなし、その頃には、まあ、そんなもんだよなぁって気持ちにはなってたよ。


 こういう類の話じゃハズレなんて当たり前でさ、僕らもいうほど信じてたわけじゃなかったから、さすがに少しは外に出かけようって話になった。


 それでホテルの近くに量がすごくて有名な定食屋があったからそこにいってさ、スーパーでお酒とか買って、小旅行気分だよ。夜はもちろん飲み会、怪談リレーをしながらのんで、なんかやってたホラー観て、またのんで、深夜にラーメン食べにいって楽しかったせいか夜にはあの部屋のことなんか半ばどうでもよくなっていた。そしていつの間にか眠っちゃってたんだ。


 ……目を覚ました時刻はよくわからないけど、たぶん午前3時とかそのくらいだろう。とにかく番組放送が終わる時間帯さ。なんでそういう表現をするのかというと、テレビから聞こえる音声で察したからだ。


 地上波とかは無料だったからね、それを垂れ流しにしていてさ、聞こえてくるわけだ、クロージングってやつだよ。穏やかな音楽が流れたりして、例えばJOABCTV、JOABCTV、こちらは何々放送ですっていうやつ。


 でも、そのときは様子が違ったんだ。なにかね、女性が含み笑いをするような感じでJOなんとかTV、JOなんとかTV、こちらはっはっはっ……って続くんだよ。なに放送だったのかは覚えていない。


 はあ? って思うよね、だから画面を観ようとしたんだよ。でも突然、ものすごく怖くなってきてね、これはダメだ、観てはいけないって、自分に言い聞かせていた。


 しかも、おかしなことに放送が続いているんだ。淡々とよくわからないことを語っていた。落ち着いた男性の声で、銀河の果てとか、輝く星とか最初はそういう話で、次はインパラがどうとか、ライオンがなんだって話に移って、さらには人体の、細胞の、精神の秘奥がどうとかって話になって、最後には切り開くのだ、切り開くのだ、切り開くのだ……ってずっと続いていたと思う。


 怖かったけど、同時にすごく気になってね、僕は意を決してテレビの方を向いたんだ。すると、なんていうかな、赤くうごめいてる何かが一瞬見えて、すぐにカラーバーで覆われてしまった。


 ……意味不明だよね? でも、僕はこれを体験したんだ。もちろんみんなに話したけど、木宮以外は信じてくれなかった。


【THE CITY】


「着いたね」


 ふと見上げるとシティの前だ、もう着いたのか……。


「ヘンな話ですね」シイナさんが首をかしげる「幽霊っぽくない感じ」

「そうなんだよね」棈木さんは同意する「寝ぼけていたとか夢を見ていたんだっていわれたけど、僕は寝ぼけるタチじゃないし、起きてから一睡もしないでみんなが起きるのを待ってたんだ、どちらも違うんだよ」


 たしかに要領を得ない話ではある。だからこそ、その木宮って人のおじさんの態度も納得がいく気がするな。その人がどんな体験をしたのかわからないけど、きっと短時間では伝えきれないことだったんだろう。


「なかなかオモロかった」ウサチンは満足なようだ「どっちかっていうと宇宙人とかソッチ系の電波話っぽい。テレビだけに」

「そうかもね」棈木さんは笑う「さて、いまは目の前の不可思議だ。鬼が出るか蛇が出るか……それともなにも出ないか」


 正直、なにも出てほしくないんだけど……これから最低でも4年はここに住むつもりなんだし……。


「じゃあ、いきましょうか」


 エントランスホールはあいかわらず混み合ってるので階段で8階まで行くしかないな。棈木さんはサービスポールを気にしてるのか、しきりに背後を振り返ってるが……いやほんと、もし追ってきてたらかなりの恐怖だぞ……。


 そして……8階まで来た。ええと、たしか82……なんとかくらいだが……。


「たぶん82……なんとかって番号の部屋の近くだったと思うんですけど……」

「ほう、まあここからは足で探すしかないだろうね」


 そして辺りを見てまわるが、それらしいものはないな……?


「ありませんね……」

「まあ最悪、出たり消えたりするドアかもしれないしね」


 ええ……なにそれ……?

 ふつう、見つからないならおれの勘違いとかソッチ方面でかたづけねぇ?


 いや、信じてくれるのは嬉しいんだけど……。


「ここは特殊な技術が多数、使用されてると聞く。ドアのひとつくらい消えたように見せかけるのは造作もないことだよ」


 そんなことってある? でも、だとしたら見つからないんじゃ……。


「こっち、これじゃない?」


 うんっ? ウサチンが角の向こうから手まねきしてるが……?


 まあ、いちおう見てみようか……って、これはっ!


「ううっ……!」


 あった、これかも、この、鈍い光沢のある金属製ドア……! 少なくとも昨夜見たドアと同じ形状ではあるはず……!


「あ、ああ……! たぶん、これだ……! よく見つけたね……!」

「なんか音がしてたから」


 音、だって? いや、なんにも聞こえないが……。


 ドアに視線が集まる、その材質などもそうだが、なんの部屋なのか表記がまるでないな。引き手があるので横にスライドして開くだろうということしかわからない……。


「へえ、ここがそうかぁ……」棈木さんはドアを観察する「……たしかにおかしいな、錠前も鍵穴もナンバーロックもカードリーダーもない……」


 棈木さんはドアを調べまくるが、はたから見たらかなり怪しいなぁ……。


「あの、開かないなら無理には……」

「いや、おかしいよ。だって鍵が……」


 棈木さんが引き手に指をかけると、普通にドアが開いた……。


「あれっ……?」


 ……ええ? そもそも鍵がかかってない?

 まじかよ、奥に向かって通路が続いてるが……。


「なーんだ」シイナさんは笑う「最初から出入り自由のところなんだよ」

「いや、おかしい」棈木さんは真剣な表情だ「もしそうならドアは必要ないはずだよ。仮に必要でも自動ドアとか、通るのに抵抗のないデザインにするはずだ。こんな重たい金属ドアにはしない」


 たしかに……。それに、奥の通路は廊下より殺風景だ、照明も薄暗い。住人が好きに入っていい場所には見えないな……。


「呼ばれておるわ……!」


 ふとウサチンが厳粛な声を出したが、やっぱりなんにも聞こえない……。


 というかどうするっ? まじで行くのかこの先へっ……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

thE CiTy もんたな @ponchikincon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ