a WALK

「天気いいねー」


 シイナさんは背伸びをする。


「このへんってなにがあるか知ってる?」

「シラン。知ってる?」

「いや……あのへんに店があるくらいかな」


 それなりに目を引くのはあの鋭利な三角屋根の喫茶店らしきものだけど……よく見ると立ち看板にラーメンって書いてるな。というかその側にもラーメン屋があるようだし、なんかあそこだけラーメン密度高くねぇ?


「あそこ、なんだか味のある喫茶店……喫茶店なの?」

「ドライブスルーじゃない? ラーメンの看板もあるけど」

「ドライブスルーでラーメン提供するの?」


 あ、本当だ、ドライブスルーっぽい受け渡しの窓口があるし、よく見たらちゃんとドライブスルーの看板もある。


「き、気になるけど……今日はあっちの方にいくんだもんね!」


 シイナさんは大股で歩いていく……ので、おれたちもいくか。


 右手の並木、その裏に駐車場があるけど、あらためて見てもとんでもなく広いな。小さい電車のようなものが今日も動いている。


「というかさ、なんかヘンじゃない?」


 シイナさんは駐車場を見つめるが?


「なんでこんなに広大なんだろ? 立体駐車場の方がよくない?」


 たしかに、ミニ電車っぽいのをわざわざ走らせてるからなぁ。維持費とか考えると立体の方が安そうではある。


「あれ?」さらになにか発見したらしい「まだ工事してるね?」


 ああ、たしかに……駐車場の奥手、丘の方で工事してるな?


「公園をつくっておるのさ」ウサチンさんだ「なんかそういうのができるとかって父がいっておったわ」

「おったの?」

「おったわ」


 なんで急におごそかな口調になったんだ?


 それにしても公園か。どのくらいの規模かわからないが、シティの人口からして相応のものにしないとならないだろうな。あの丘すら削るのかもしれない。


「あ、お店が増えてきた」


 ああ、駐車場をすぎて川をはさんだ先から急に店舗の数が増えたな。居酒屋のチェーン店や古本屋、ハンコ屋にコンビニと……どこにでもある店ばかり……っと、ウサチンさんが古本屋をのぞき込んだ?


「よく本読むの?」

「そこそこ」

「ウサチンは本屋が好きなんだもんね」

「ウン」


 なるほど、本に対するスタンスってひとによってけっこう違うようだからな。読書より本が、本より本屋の方が好きというタイプはいる。おれは読書は好きだが本は大切にしないタイプなんで、きっと世間的には不評だろう……。


「あっ、こっちいこ!」


 とか思ってるうちにアーケード商店街の入り口が見えてきた。服や靴の店、ゲーセン、業務用食品店に焼肉屋、またもラーメン屋、骨董屋にカラオケと楽しげな雰囲気で人通りもかなり多い。羊大の学生もたくさんいそうだ。


「ホウ、栄えておりやがるのう」


 ウサチンさんはときどき口調がおかしくなるなぁ……。


「もうちょっと行ったら羊大があるけど、いってみる?」

「これからイヤというほど通うんだし、いいでしょ」

「そう? じゃあ、ちょっとこの辺ぶらぶら歩こうか」


 アーケードは思った以上に長いようだな。地下鉄の入り口もあったし、アクセスは便利らしい。そなえつけのベンチには流行ものなんだろう、似たような格好の4人組が大声でだべってていかにも大学生って感じだ。あるいはおれたちの先輩なのかもしれない……ってあれ? ふいにシイナさんが道をはずれた?


 アーケードから出るかたちになったけどいいのか? どこへ向かうつもりなんだろう?


「なんかいいのないかなぁ?」


 シイナさん、大股でどんどん歩くからけっこう足が速いな。やや背の低めなウサチンさんだが、そのペースに慣れてるのか軽やかなステップでついていく。


 ……ふたりは仲よしなようだけど、けっこう印象ちがうな。シイナさんはやや背が高くて髪がロング、セーターを着てふわっとしてる印象に対し、ウサチンさんはやや背が低くて髪もショート、水色のパーカーを着てヘッドホンを首にかけている。シイナさん明朗で活動的、ウサチンさんはどこかアンニュイな感じだ。


「そういえばさ」


 うっ? シイナさんがすごい角度で左折、姿を消す!


「オカルトめいた話って……」


 おっと、のんびりしてると置いてかれるな。少し急いで追いつこう。


「……なんだろうね?」


 ああ、話がよく聞こえなかったな。


「ごめん、オカルトがどうしたって?」

「うん? いえね、呪われた幽霊屋敷とかあるじゃない? 悪霊が住み着いていて、泊まったり、とり壊そうとすると事故が起きて危険みたいな」

「ああー、あるね」

「そこにさ、戦車とか突撃したらどうなるんだろうねって話」


 せ、戦車……? なんの話だ……?


「大砲でふっとばしたらどうなるんだろ? 軍人さん呪われるかな?」

「ど、どうなんだろう……?」

「物理攻撃は効かなそう」ウサチンさんだ「悪霊が怒ってさ、戦車の電子回路とか壊したり、最悪のっとられるよ」

「そっか……強いね、悪霊」

「でも対策はあるよ」


 ふとウサチンさんがにんまりとする……。


「呪いパワーのとどかない衛星軌道上からレーザー砲で攻撃するんだよ。電磁波なら悪霊にも効きそうじゃん」


 レ、レーザー砲……?


「そんなすごいのあるの?」

「まだないけど、思えばそこまでする必要もないカモ。ECM爆弾でも除霊できそうだし」

「なにそれ?」

「強力な電磁パルスを放出する装置だよ。それなら悪霊にも効くんじゃないかな」

「レンジでチンするみたいに? ほかほかになるかなぁ」


 いったいなんの話なんだ……。


「でもまあ」おれも話にのっかるか「そういうところに呪われたモノを置いてったらどうなるのかなって思ったことあるなぁ。悪霊同士で争うのか、それとも同調してより強大になるのか」

「あ、それ興味ある! 捨てても戻ってくる人形が戻ってこれなくなりそう。そして呪物でいっぱいになった屋敷を戦車がふっとばすんだ!」


 だからなんでそうなるんだ……っと、シイナさんが立ち止まった? その前には喫茶店、白い木造建築でテラスもあるな。


「ホワイトラビッツだって、ウサチン的にどう?」

「よきよき」

「トキトークン的にはどう?

「かわいい店だね」

「じゃ、ちょっと入ってみよう!」


 さっき飲み物買うの忘れてて喉もかわいたし、ちょうどよかったな。


「いらっしゃいませぇーん」


 エプロン姿の女性店員がパタパタと白いウサギのふわふわなスリッパを鳴らしてやってきた。それが琴線に触れたのかシイナさんが凝視してるな……。


「店内にしますかぁ? テラス席もおすすめですよぅ!」

「じゃあ、テラスで!」


 今日は天気もいいし、テーブルも床も真っ白なテラス席が輝いている。


「じゃあ、クッキーセットと紅茶、コーヒー、コーヒーで」

「しょうち、いたしましたぁー」


 注文を受けた店員さんは奇妙なステップで奥へと消えていくが……シイナさんはやはりあのスリッパが気になるらしく、じっと見つめている……。


「……それにしても、この辺って活気があるね」

「栄えておりやがるわいな」


 だからなんでそんな口調に?


「まあ、とりあえず不自由はないみたいだよね。といってもシティになんでもあるようだけど」

「そうだ、シティのあれだけど」


 ……っと、シイナさんがズイと近づいてきた……!


「ね、例の先輩に相談としかしないの?」

「え、なんで……?」

「アドバイスとかもらえるかもよ?」

「それは、まあ……」


 ……といっても、とりあえずシイナさんたちに相談して一段落した感あるんだけど……。


「もしトキトークンの不安が的中しててもさ、外で会えば問題ないんじゃない? まさかここまで監視してるわけもないだろうし」


 それはたしかに……? そこまでやってたらさすがに異常すぎるしな……。


 でも、それとはべつに関わり合いになるのは……って、ううっ、シイナさんが期待をこめまくったまなざしで見てくるっ……!


 ……ええ? まじで呼べって空気ぃ?


「じ……じゃあ、ちょっと、連絡してみようかなぁ……?」

「いっちゃえいっちゃえー!」


 ぐっ……シイナさんはノリノリだし……ウサチンさんもとめてくれる気配がない……。


 はあ……じゃあ、かけてみるか……。うう、ちょっと話したとはいえ知らない人にかけるのは緊張するなぁ……! でも女の子の手前、ビクビクしたくもない……。


 え、ええい、かけちまおう……!


 呼び出し音がいち、にの、さん、しの、ごときて……なんだでないのか……と安堵した途端につながりやがった……!


『はい、僕です!』


 はつらつとした声が響く……! 僕ですってなんだよ……。

 くっ、気圧されてもよくない、ここは平静を保たないと……!


「あ、あの、昨夜お話しした者ですけど……」

『ああー君か! 電話、待ってたよ!』

「それで、ちょっと話したいことがありまして……」

『そうか! 僕はいつでもいいよ!』


 ……で、棈木さんを喫茶店まで呼んでしまったが……。

 ああ、本当によかったのかなぁ……?


【THE CITY】


 コーヒーを飲みながら待ってること15分、なんか走ってる妙な人がいるなぁ……と思ったら棈木さんだった、昨夜と似た格好、白いシャツに黒いパンツ姿で直接こっちへやってくる……。


「やあやあ、よく電話してくれたねーって、お友達も一緒か、いいねぇ!」


 笑顔の棈木さんは正面から回ってテラスへとやってくる。


「どうも! 僕は棈木一臣です、よろしくよろしく」


 お互いに自己紹介をし、昨夜あった事を話すと棈木さんは一転して神妙な顔を見せ、うなる。


「……うーむ、なるほど、偶然にしてはちょっとタイミングがおもしろすぎるな。でもまだオープンしてそう時間が経ってないからね、ただのシステム障害ってこともありえる」

「そうなんですよね」

「とはいえ、サービスポールの挙動も怪しいし、疑うには充分か」


 棈木さんは注文したミルクティーをすする。


「それにしても、その誘導された先のドアってのが気になるなぁ! そこはなんの部屋だったんだい?」

「それが……よくわからないんです、住居でも店でもありませんでしたし。たぶん、用具入れとか管理側のものだと思うんですが……」

「おもしろいなぁ、そこがどこか、覚えてるかい?」

「いいえ……いえ……」たしか、近隣が82……1なんとかのはず「……たどれないことも、ないかも?」

「ははあ、いいね、あるいはなんらかの意図があるかもしれない、行ってみる価値はあるよ」


 まあ……そういう流れになっちゃうよなぁ……。


「ところでウサチン選手は」シイナさんだ「どう思う?」

「このクッキー、超ウマイ」

「そうじゃなくって、リスクがあると思う?」


 ウサチンさんはクッキーをのみ込み、コーヒーをすする。

 そしてなにやら立ち上がったっ……?


「呼ばれておるわ……!」


 そういって、また座った。


 呼ばれてる……? というか、なぜに立ち上がった?


「……えっと、ウサチンさん?」

「ウサチンでいいぜ。なんならウケミでもいいぜ」


 なんかニヒルに親指を立てるが、ええっと……?


「そっかー、じゃあいこっか!」

「ああ、そうしよう!」棈木さんだ「よし、探検としゃれこもうか!」


 ええ……? まじでいく感じぃ……?

 しかもウサチンさん……ウサチンのひとことで決まった……?


 というかおれの承認は? そこはとくに求めてない感じ?


「どーしたの? はやくいこう!」


 シイナさんは……まぶしいくらいの笑顔だが……。


「どうしたトッキー、いくんだろ?」


 なんかウサチンがイケメン口調でトッキー呼びしてきたが……。

 ……本当に、大丈夫なのか?

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