ConSuLTaTIoN
……うーん、朝か……。
朝日が差し込んでる……いま何時だ? スマホはどこだ……あったあった、まだ5時すぎか……。
うーん、もうちょっと寝ようかな……どうしようか……。
「ううーん……」
……まだ早いけど、起きようかな……でも、まだ5時だし……って、あれっ? いつの間にか七時になってる……。二度寝しちゃったのか……。
そうか……あーあ、天気もよさそうだし、そろそろ起きるかぁ……。
「……えっ?」
……ちょっと待て、この部屋には窓がないんじゃなかったっけ? でも、部屋の上部から朝日が差し込んでるし、青空も見えるけど……本物なわけもないよな、あれもリアリストみたいなやつなのか……?
ええー……? そうなのか、そういうのもあるのか……。いやたしかに、このくらいの設備がないとちょっと圧迫感が強すぎるかもしれないしな……。
「へえー……」
ああいうのもあったのか、他にも知らない機能があるんだろうが……それより腹減ったな。もう実家じゃないし、飯の準備は当然、自分でやらないと。
……ええっと、あるのはクッキーくらいか。まあそれでもいいんだけど、できればトーストやオムレツが食べたいし……しょうがない、ライフマートへ行くとしよう。
「よぉーし、ちょっといってくるかぁ……!」
【THE CITY】
さて部屋から出たが……今朝も通路は静かだな。遠くの窓から本物の朝日が差し込んでいる。
というか、あまりに自然で気づかなかったけど、昼間から通路の明かりは点いてるんだな。そりゃそうか、窓から入ってくる日光だけじゃ奥まった部分まで照らすことはできないしな。
でもこれじゃあ毎日けっこうな電力を使用するんじゃないか? すごい数の世帯が入ってるからってまかなえるんだろうか? まあ、おれが気にすることじゃないが……。
それにあれだ、もうアプリは大丈夫なのか? 昨夜はあんなことになったけど……まだ直ってなかったら大変だぞ、これからまたひっこしでごった返すんだろうし。
まあ、いずれにせよ試してみるしかないか。アプリを起動して、さあ行こう。
【THE CITY】
……そろそろ到着だが……ああよかった、きちんと目的地に到着した、間違いなくライフマートだ。ちゃんと直ってるようだな、よかったよかった。
「いらっしゃいまゝ〜」
……あれっ? 昨夜と同じ店員だな。たしかライフマートって……午後11時くらいに閉店するはずだよな? そして午前7時に開店だから……家に帰ってる時間もあまりなかったろう。人手が足りないのかな? だとしたら大変だな……。
さて食パン、たまご、ケチャップ、あとコーンスープ……インスタントコーヒーも買おうかな……って、あれ? いつの間にかドリンクコーナーに人が、しかも昨夜見た金髪のひとに似てるような……。
……まあ、すぐ近所のひとなんだろうな。よし会計するか。
「ありがとうございましゝ〜」
そろそろ道を覚えようかなとも思うけど、案内があるとつい頼っちゃうんだよな。風景が単調で覚えづらいしなぁ。
というか……あの店員やっぱりなんかヘンじゃねぇ? マスクで隠れててよくわからないが、たぶん口を小刻みに動かしてたし……。
それにヘンといえばやっぱり昨夜のことだ。システム障害はいい、そういうこともあるだろう。でもその結果があのドアの前って、やっぱりどこか腑に落ちないんだよなぁ……。
うーん、誰かに話してみたいけど……いまいちふさわしい相手がいないしなぁ……。シイナさんにしたってどうやったらまた会えるのか……。
入学式まで待たないとならないかなぁ? でもあと2週間くらいあるんだよな、どうしたものか……とか考えてるうちに部屋に着いてしまった。よし、アプリはやっぱり正常なようだな。おかしいままならシティから出るのもひと苦労……。
「……そうか、エントランスホール」
そうだ、あそこにいたらいいかも? 運がよければ姿を見かけることもあるかもしれない。
……でも、ようは待ち伏せだろ? さすがにキモくねぇ? うーん、じゃあやっぱりあの先輩かなぁ……? でも万が一のこともあるからな、安易に使っていい手段じゃないかもしれないし……。
……まあいいか、もやもやするが……しばらく様子見しよう。もしまた妙なことが起こったらあの先輩に連絡してみるか。
とりあえず、朝飯にしようかな……と思ったけど、そういやまだ食器洗ってなかったわ。ちぇっ、面倒だけどしょうがない、さっさと洗って食事にしよう。そして……そうだな、今日は外の様子でも見て回ろうかな。ずっと部屋にいても暇だしな。
【THE CITY】
エントランスホールの人気はまだそこそこだ、どうにもひっこしラッシュはまだ始まってないらしい。
さあ、出かけるにしてもどこへ行こうかな? 地図で周囲を確認……する前にちょっと座って〝KAICHIKU〟でもするか。ログボまだもらってなかったしな。あと、まあ……シイナさんがたまたま通るかもしれないし……。
それにしてもこのゲーム……とにかく改築しては家を売り払い、さらなる改築の資金集めをしていくばかりだけど、いったい終わりはあるのか……? まあおもしろいっちゃおもしろいからいいんだけど……。
……っと、いけない、つい夢中になってた、いつの間にか大荷物の人が増えている。ひっこしラッシュが近いんだろう、昨日見た係員らしきひとたちも現れ始めた。
ここに居座っていても邪魔だろうな。よし、そろそろどこかへ……。
「おは羊毛ぉーふさふさっ!」
おっ? いまの声……。
おおっ、やっぱりシイナさん……だっ? 友だちだろう、ヘッドホンを首からかけてる子に駆け寄ってる……!
「ふさふさ……?」
ヘッドホンの子は首をかしげてるな……。まあ、羊毛はフサフサというよりモコモコなイメージだ。
それよりけっこうな偶然だよ、まさかこんなにすぐ会えるなんて……!
……と思ったが、会えたってのとは違うよな。つーか偶然を装って近づくことすら思いのほかハードルが高い……! なんせ昨日ちょっと話しただけのほぼ知らない間柄、そして知らない人にいきなり話しかけられる恐怖は昨夜おれ自身が体験したことだ……。
……う、うーん、やめようかな? 話したい内容も内容だし、なんというか、下手なことすると今後に悪影響が出そうな気もする……。
……いや、そんなんだからダメなんじゃないか? いちいち無駄な心配してタイミング逃して……なんかいい結果になったことあったか?
いやいやおおげさだろ、そもそも趣旨がちがう、おれはいま話し相手がほしいだけだ、昨夜の奇妙な出来事に関する……。
ああほら、あれこれ考えてる間にいなくなっちゃったよ。はあ……まったく、どんくさい奴だおれってのは……。
……なんだか落ち込んできたな……でかける気力もなくなってきたが……どうしよう、この辺りをテキトーに見てまわるくらいにしようかな? エントランスの奥側からシティの中心へと向かってショッピングモールが展開してるし、あそこだけでも見応えは充分ありそうだしな。
でもまだ開店時間には少し早そうだ。向こうに自販機コーナーがあるみたいだし、なんかのんでから行こうかな。
さて、どんな自販機が……って、これまたすごい! ジュース類はもちろん、ホットスナックやおでん、蕎麦やカレーなんかの自販機もある! どれもなかなかお目にかかれないレア自販機たちだぞ……!
周囲はちょっとした休憩所にもなってるようだし、ここいらに座って時間を潰すか……って、なんだっ? 肩を叩かれたっ?
「あっ、やっぱりトキトークンだ!」
はっ、おおっ? なんでシイナさんがここにっ?
「おは羊毛ぉーふさふさ!」
「ふ、ふさふさ……」
「思うんだけど」シイナさんの友だちだ「羊毛ってもこもこじゃない?」
「羊毛もこもこっていいづらくない? ようもここここってなって舌かんでごはん食べられなくなる」
「じゃあふわふわとか」
「羊毛ふわふわ……」シイナさんはうなる「なんかちょっと違う……」
こ、これはラッキーだ、まさかシイナさんから来てくれるとは……。
「あ、こっちはトキトークン、さっき話したひとね。こっちはウサチンだよ」
ウサチン……?
「ウモトだよ。兎に本で兎本。あと暁は美しいでアケミ。つまり兎本暁美」
「お、おれは時任修吾……」
「この子ね、すごく耳がよくて、大きな音がするとチン! ってなっちゃうからウサチンっていうの」
チ、チンとなるってどういうのだ……?
「ええっと、やっぱり羊大なの?」
「ウン」
ウサチンさんは自販機をじっと見つめ、財布をとり出した。彼女の両肩にシイナさんが手をかける。
「さあウサチン選手はどう出るのかー?」
「タコヤキ……?」
「おっとタコヤキきました! 六個入り、無難な采配ですね」
ウサチンさんは自販機でタコヤキを購入、そして視線はジュースの自販機に……。
「おっとやはり飲み物に手を出すかー? タコヤキはソースがしょっぱいですからねー、しかもこれは揚げタコヤキだー! 油っぽさを押し流したいに違いありません!」
しかしなんだその実況は? ウサチンさんは缶の緑茶を買ったようだ。
「おおっときました缶の緑茶です! ペットボトルを華麗に受け流し、あえて缶を選ぶあたりさすが! すぐに飲みきる覚悟があるのでしょう、しかもあまり見ない銘柄だぞー! 〝よっこらしょ、お茶のも〟だって!」
「意外とウマイ」
「おおっとウサチン選手、知っていた! 〝よっこらしょ、お茶のも〟をすでに飲んでいたー! これは意外な展開です、場内からどよめきが起こっています!」
ウサチンさんは謎の実況を止めるかのごとくシイナさんにタコヤキを差し出し、おれにも勧めてくれたけど遠慮しておこう。
それよりせっかくのチャンスだ、ものにしない手はない! ウサチンさんがタコヤキを食べてる時間があるのも都合がいい、昨夜のことを話してみよう……!
「あの、唐突だけど、ちょっと奇妙というか、判断に困るような話があって……」
「えっ?」おっ? シイナさんの瞳が光った!「なになにっ?」
おお、さすがシイナさん、前向きに話を聞いてくれそうだ……!
【THE CITY】
「……というわけなんだ。どう思う?」
話が終わると……二人は互いに顔を見合わせる。
「へええ? ちょっと面白い話だね?」
「ウン」
……おお、意外と好感触だ? まあ、軽い都市伝説みたいな話だしな。
「……でさ、関係あると思う? 例のドアとサービスポールとか……」
「うーん……」シイナさんは首をかしげる「偶然かもね?」
「やっぱりそう思う……?」
「7対3で偶然かなぁ」
……3か、思ったより高い気もするな。
「3割はあり得るって?」
「ちょっとね、普通、間違えるにしても他のひとの部屋じゃない? そんなヘンなドアに連れてかないよ」
「だよね」ウサチンさんだ「そのあと来たロボットもなんかヘンだね、タイミングがよすぎるっていうか、なんか監視されてるみたい」
そう、なんだよなぁ……。
「でもさ」シイナさんはうなる「そうなるとプライバシー的にあり得ないって気もするけど……。だって監視してるってバレたとき大変じゃない?」
ウサチンさんは最後のタコヤキをほおばり、
「ウン、監視説はイマイチかもね。監視なんて労力がかかるし、相手が要人や犯罪者でもない限りコストの無駄だよ」
たしかに、おれの情報に大した価値はないよなぁ……。
「ただ」ウサチンさんはおれを見やる「監視してるのが人工知能だったとしたらあり得ないこともないかも。情報収集の動機は学習のためとか、ありそうじゃない? すでに人の手を離れて独自に動いててもおかしくないよ」
独自に、進化でもしてるって……?
「そんなことってある?」
「あるかもよ」
「SFの世界だなぁ」
「もう間際まできてるよ」
「でも……」シイナさんだ「お二方、本気でおっしゃってるわけじゃないでしょう?」
まあ……。
「そりゃあね……。でも正直、6対4くらいかな。あ、6が思いすごしって意味でね……」
「そっか……」
「むしろ、ホントであってほしいという願望があるカモ」ウサチンさんだ「なんかクールだし」
カッコイイというか、もしそうだったらまあ、すごいよな……。
「……ともかく話せてよかったよ。まだこのあたりに知り合い少ないし……ちょっと不安だったんだ」
「その名刺の棈木さんってひとには相談しなかったの?」
「まあ、先輩だし……少し気まずいっていうか……」
「でもそのひとおもしろそう。お話してみたいかも」
ええ、まじでぇ……?
「さてと、ウサチン選手も食べ終わったし、そろそろいく? トキトークンもどう? このあたりを散策するの」
「え? でも、お邪魔じゃない?」
「そんなことないよね?」
「ウン」ウサチンさんは頷く「トキトークン、なんかオモロイし」
面白いかな? まあ、奇妙な話ではあったしね……。
「そ、そう? じゃあ……暇だし、ご一緒させてもらおうかな」
「よっし、じゃあいこー!」
なんか思わぬ展開になったな……。
それにしても……二人ともに、少しは怪しいと感じるのか……。
いやでも、ここが人工知能の支配する場所……?
まさか、ね……。
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