いいお土産ができたぜ 4

大昔、この金玉川では、クチベラシやコケシが行われることが多かったそうだ。


ここら辺は昔、痩せた土地であった。

それなのに人はどんどん増えていく。

食い扶持もないのに、子供を複数持つ家庭は苦しかった。

周囲の村人に子供達は厄介者扱いされ、親に米を盗んでくるように使われる子供さえいた。


そんな中で、子供達は大人によって殺されていった。

生まれたことさえ無かったことにされた子供もいる。

墓に名を刻まれることすらないのだ。


大人達は、子供ができるとその母親を堕胎させるために、金玉川に入らせた。


生まれた小さな子供も、殺して金玉川に流すこともあった。


不遇な時代というものが、今は穏やかなこの土地にもある。



その存在を無かったことにされた子供達の魂は、金玉川に止まることが多かった。


同じ年代の生きている子供を見ると、一緒に遊ぼうと思って川の中に引きずり込む霊として、ずっとここにいる。


そんな、なんとも悲しい子供の霊を、魂を、どうか心安らかにあるようにと、願って側にいるのだ。

このくたびれたオッサンは。


「おらは、あの子たちが、透明な体のままでおるように見守っとるんな。あの子たちの魂が黒く染まらんようにな」


オッサンの言っていることは、生きている人間にはよく分からない。

しかし、このオッサンは純粋で優しい慈しみの心で、この金玉川にいるのだと岩村は思う。



「あの、川底の緑色に輝く砂は、アレは何だったの?何か意味があってあそこに存在したんだろ?」


「そうさ、アレは子供達に人気のオモチャのようなもんでな。みんな、子供の霊たちはアレを出てくるところから楽しみにしておる」


きっと、こんな心優しいオッサンが用意したものだ。

子供の霊たちにとって、ブランコやすべり台みたいなもんなんだな。

と、想像する岩村に被せてカッパは言う。


「おらのうんこよ。アレは」



(おらのうんこよ。アレは!?)



「うんこー!?」


思わず叫んでしまった岩村。


「え?うんこ。今さらだけど、あんな緑色に輝くもんなの?うんこって」


「そうよぅ。子供ってのはみんな、うんこが大好きでな。おらの尻の穴から出てくるところから、大笑いして楽しみにしておるよ」


「いや、その子供ってのはみんな~に自分も含まれてる気がして嫌なんだけど。うんこ、みんなそんな楽しめるの?あんなそんなどんな」


「小僧っ子も小さい頃はアレが宝物に見えていたじゃろ」


「ま、まあな」

岩村は言い直す。

「いや、でも、そんなケツから出てくるの楽しみに待つほど好きじゃないけどね!けっしてうんこ、そこまで好きじゃないけどね!」


ショックだわー。

もうあの緑色の砂見ても触らんようにしよ。

と、心の中で呟く岩村は気づいた。


もう空が暗くなりはじめている。

一番星も輝きだした。


「オッサン、そろそろ帰らんとだわ」

と言って振り向くと、カッパの姿がなくなっている。


「は?いつの間に消えたの?オッサン、オッサン!」

岩村が呼んでも出てこない。


カッパの座っていた所を暗がりに見る。

すると、そこには星明かりに照らされ緑色に輝くうんこがある。

その横に石ころを乗せたメモがあった。


達筆で、

「リコピン採れよ」

とある。



「いや、キュウリのうんこならカリウムだろ!」

と、叫ぶ岩村。

「その前に、オッサンのケツから出たようなもん食わねーからな!」



それから、岩村は何度か友達と金玉川に足を運んだ。

ある日は、テッちゃんと。


「そんなこんなでさぁ、カッパが居たんだよ。この金玉川に」

「ほう。それで俺に会わそうってか。そんな都合よく居るかねぇ」


居なかった。

代わりに、石ころを乗せた達筆のメモと、緑色のうんこがあった。


「カテキン採れよ」


いや、だからさぁ、キュウリのうんこならカリウムだろ!

と心で叫ぶ岩村。

テッちゃんは言う。

「カテキンって、このうんこ、お茶の成分入ってんの?」


「いや、どっちかって言うとカリウム。キュウリだろ。その前に食べねーけどな」



ある日は、ダイちゃんと。

「あの緑の巨乳の仲間がいたって?面白いじゃん」

「ああ、今日こそはあのオッサンに会おうぜ」


やっぱり居なかった。


代わりに、石ころを乗せた達筆のメモと、緑色のうんこがあった。


「カロテン採れよ」


いや、色が違うんだよな。野菜の成分の専門家ではないから良く分からんけど、多分、色が違うんだよな。


ダイちゃんは大笑いしていた。



ある日は、カズと。

「お前、あの会社クビになるそうじゃん。ガンちゃん頑張ってたのに、悔しいよな」


「そうなんだよ、カズ。そんでもこれは新しいスタートだと思って、一からやってみるわ。あのオッサンに相談しよ」


やっぱり居なかった。


代わりに、石ころを乗せた達筆のメモと、緑色のうんこがあった。


「青酸カリ採れよ」


「殺す気かー!」

思わず叫んでしまった岩村。


大爆笑するカズ。


なんだあのオッサンは。人が会社クビになって苦境に立たされているっていう場面で、青酸カリ採れってか。自殺しろって言ってんのか。


あんの川のカッパカ野郎!


岩村は激怒しながらも笑った。

変な心境だった。



終わり。


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川のカッパカ野郎! 久保田愉也 @yukimitaina

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