いいお土産ができたぜ 3

ある、稲刈りの近づく残暑厳しい日じゃった。


おらとカッパ姉さんはいつものごとく会瀬を楽しんでおった。


「あなた、本当にイケメンね。お婆ちゃんのタンスの奥から発掘されたお面のような匂いがするわ。とっても素敵よ」


「君の美しさには負けるよ。この川のエメラルドブルーのような、宝石みたいな胸が魅力的さ」


「あら、あなたのイケメンには負けるわ」


「君の美しさを永遠にしたい」


「そうね。私もあなたのイケメンっプリを永遠にしたいわ」


そんな夢のようにキラキラした会話を楽しむと、カッパ姉さんは金玉川を泳いでいった。


それを微笑みながら眺めていたおらに、カッパ姉さんは気づいて手を振った。


「あなたを永遠にしたい。ちょっと待っててくれるかしら?いつまでもカッコイイあなたに最高の贈り物をするわ!」


彼女はそう言って姿を消した。




それから程なくして、天気が崩れた。

空が真っ黒な雲に覆われたと思ったら、雨がザーザーと降りだし、稲光りが轟くように鳴り響いた。



再び姿を現した彼女は、緑色の返り血に染まっていた。


「どうしたんだい?どこかケガでもしたのかい?」


心配でオロオロするおらに、彼女は満面の笑みで言った。


「皮を剥ぐのに抵抗されて手間取ったけど、あなたみたいなイケメンがいたから、合羽にしてみたの」


と言って差し出されたのは、おらによく似たカッパの皮だった。


「どう?素敵でしょう?これで、あなたは永遠よ」


ゾクッとした。

おらは恐怖なのかプレゼントに歓喜しているのか、震えたよ。

心の臓がドクッドクッと不整脈を起こしそうなほど高鳴るのを感じた。


彼女の屈託のない無邪気な笑顔に、さらにまた恋をしてしまっただよ。




「待て待て待て待てー!」

岩村は、勝手に始まったカッパの一人語りに突っ込みを入れるのを躊躇わなかった。


「明らかに恋じゃない!違う!」


カッパは「ほぉぅ」と関心を示したのか鳴いた。


「じゃあ、おらの心は何に打ち震えておったんじゃ?」


「恐怖だよ!」


岩村は二度言う。

「恐怖でしかないよ!アホが!」



「まー、サイコパスっ子天然っ子っていうのもカッパ姉さんの魅力だなむ」


「サイコパスっ子天然っ子って何。新たな萌えっ子見つけたみたいな語り口で言ってんなよ!」

岩村は頭を抱えた。



「まーそんな訳で、小僧っ子。カッパ姉さんには会わん方がいいぞい」


「なんとなくお前も恐怖を認めてる訳ね。分かったよ。緑の巨乳に会うのは諦める」



しかしだな。

と、岩村は思う。

ファンタジックでファビュラスなファファファなトリガーに出会わんことには、自分は成功できないのでは、と。


「小僧っ子、何か勘違いしとるかな。カッパ姉さんに会えば成功できるとか」


「うん。まあ」


「カッパ姉さんは、おらより色々上位の存在でな。今のお主では会える神格ではないんじゃよ」


「神格?何それ」


「人間に説明は難しいが。子供しか出会えない神がいる、と言えば分かるか?」


「ほー、俺が子供なら出会えるんか?」


「まあなぁ。理屈だけ言えば、そうなるなむ。しかし、それは無理じゃろう?お主はもう、立派なくたびれたオッサンじゃ」


「立派なくたびれたオッサン?言ってくれるじゃんか。この、本物のくたびれたオッサン!」


「まーそう怒るなむ」


じゃあ何でカッパ姉さんの話しをしたんだ?

このくたびれたオッサン!

という岩村の心を読んだのか、カッパは言う。


「カッパ姉さんには会えんがな。お主、成功しとる仲間が羨ましかろう?」


「ああ、そうだな!アイツらみたいに成功して、左団扇で、故郷に錦を飾りてーよな」


「そうじゃろそうじゃろ、悔しかろう」


「アイツらみたいに東京出てって、高級ホテルのラウンジ貸しきって騒ぎてーよ」


「そうじゃろそうじゃろ」


「アイツらみたいに長野の雪山でスノボーやスキーしてさ、恋人見つけて騒ぎてーよ」


「そうじゃろそうじゃろ」




「何がしてーんだよ。そうじゃろしか言わんオッサン!」

一通り悔しいことを叫び倒した岩村は、突っ込んだ。


オッサンは、ここら辺の地酒「結 -むすび-」を徳利に入れ替え、お猪口で呑みはじめている。


「俺の話しは酒のつまみじゃねーぞ、コラ」


「まーお主も一杯やらんか」


そうだ、酒でも呑みたい気分だ。と思った岩村は、差し出されたお猪口を手に取った。


「まさかコレ、お前の尿とかじゃねーよな?」


「お主見とらんかったか?結 -むすび-の瓶からちゃんと入れ替えとったよ」


「結 -むすび-」は、岩村の好きな酒の一つだ。

ここら辺のブランド米「むすび姫」を使った純米酒で、ピリッとくるがさっぱりしていて後にひかない潔さが良い。


「やっぱりうめーな。結 -むすび-は」


「おらも好きだぁ。カッパ姉さんと一緒に呑むと格別よ」


すると、またカッパは一人で勝手に語り始めた。


カッパは、自分のことをミズハメノカミの眷属だと言った。

ミズハメノカミは、御手洗いを司る神であり、水の性質を持つという。

水の神の面も持つカッパは、この金玉川で、あるミッションを与えられ、永く住んでいるらしい。


そのミッションというものは、なんとも切ない。



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