第2-4話 一言で表せるなら苦労はしない

 『デバイス』配布後に移動した体育館横に設置されていたプレハブ小屋の中は見た目通りの大きさだった。

 人数分が座れるだけの長机とパイプ椅子はこの試験のために用意されたプレハブ小屋であることを伺わせる。


「それでは改めて試験合格おめでとう。私は君達の担任となる桜桃ゆすらうめ弥生やよいだ。教員資格は持っているがどちらかと言うと探索者シーカー向けの実技の方が得意だ」

 黒のショートヘアの頭を掻きながらいまだに防弾ベストを着けたままの弥生先生が自己紹介を行う。


「君達には自己紹介も兼ねて役職ロールの確認とデバイスのステータスアプリの設定をしてもらう。ちなみに私のプロフィール画面はこうだ――」


:――――――――――――――――:

名前:桜桃ゆすらうめ弥生やよい

SNS名:やよい先生

表示役職ロール:戦士

:――――――――――――――――:


 名前は本名固定のためデバイスを受け取った時点で設定されているが、SNS名、表示役職ロールは入力する必要がある。

 ただし、役職ロールは必ずしも正確に書く必要はなく、前衛、後衛とか、戦士系等、大雑把なもので良いらしい。このあたりは神からの厳重な個人情報保護のお達しがあったらしい。

 ちなみに、掲示板アプリとかでは『やよい先生@戦士』のように表示されるとか。なお、匿名投稿も有りらしい。


「それでは自分の役職ロールとステータスを確認してプロフィールを設定してくれ」


「ありさ先生~、この『役職ロール』の前にある『特性アライメント』ってのはなんですか? あーしのは『かしましい』ってあるんですけどぉ、そもそも『かしましい』って何?」


 金髪ギャルっぽい女子が大きく手を振って質問をした。名前は……聞いてないな。


「ん? ああ、簡単に言うとそれぞれの個性だな。[素早い]【武闘家】とかだと元々素早さAGIの高い【武闘家】が更に素早くなったりする。[寡黙な]【魔術師】ならスキルに『詠唱短縮』が付いたりと組み合わせによってはかなり使える場合もあるな」


 『特性アライメント』は個人の特性、要は性格等に大きく影響を受ける。また、これによって『役職ロール』自体に幅が出るようになる。

 先生の説明にあったように取得スキルに影響を及ぼすこともあり、特性と役職の組み合わせの影響は大事となるのだ。


『なあ、ワンコ、結局『特性アライメント』ってどうやって決まるようになったんだ?』

 ふよふよとふらついている秩序の獣わんこに心の中で話しかけた。

 今日のワンコは朔良さくら達にも見えていないのを良いことに好き勝手動き回っており若干鬱陶しい。


『みんなに憑いてる眷属が決めてるぱう』


 このアップデートされる世界ではゲームっぽいシステムのために秩序の獣わんこの眷属、ちっこいワンコがベータプレイヤー一人ひとりに憑いているらしいが、いつもは俺にも見ることはできない。


『やっぱりサイコロを振って決めたのか?』


『違うぱう。眷属がその人の性質を見て判断したぱう』


「ほほう、つまり、俺のはワンコが設定したということか……」


:――――――――――――――――:

名前:十月とつきかい

役職ロール:[おやつをくれない]【冒険家ディーラー】/【調停者ルーラー

:――――――――――――――――:


 目の前に広げたステータス画面を指さすとワンコはそっと目を逸らして消えた。


「逃げやがったな」

 神の眷属だから食べる必要はないと言っていたわりにおやつをねだってくるのだが、ここのところは量を制限していたのを根に持っていたらしい。


―― ピコン


 デバイスのSNSの通知音がなる。


さくら@拳士「やほやほ。パーティ用のグループ作ったよ」


 隣に座っている朔良さくらからだった。


カイ@冒険家「おま、となりなんだからしゃべれよ」

蒼真@武士「カイが最後なので帰りになにか奢りな」

みよみよ@まほーK「デザートフェア行きたい」

さくら@拳士「あー、それ私も行きたいと思ってたの」



「はい、ちゅーもーく! どうやら全員プロフィール設定も終わったようなので、今日の説明はこれで終わりとします。まあ、なにかあったらデバイスのSNSから問い合わせてくれ」


 最後に保護者向けの紙の資料等が配られて推薦入試という名の入学説明が終わった。

 なお、この時点で暫定的に探索者として国家公務員扱いとなるらしい。この辺りの仕組みは実際の運用を通して調整されていくとのことだ。



 ◆ ◇ ◆



「『探索者免許』に『モンスター図鑑』『アイテム図鑑』、『迷宮地図』か……どれもベータ版となってるけどかなり使えそうなアプリばっかだな」

「思った以上に人の世界の道具は便利ぱうね」


 学校支給の『デバイス』には学校用のアプリだけでなく、探索者用のアプリもプリインストールされていた。

 神の声から二ヶ月と経っていないのにアプリが揃っているのには理由がある。

 これらのアプリは元々ゲームの補助アプリとしてスマホ用に開発されていたものを流用したとのことらしい。

 AR用ゲームとして展開しようとしていたところに現実リアルなファンタジーが来てしまったのだ。


「結局、あのモンスターの名前は『水饅頭』になったぱう? 混沌の獣にゃんこがモンスターの名前決めても意味ないって愚痴ってたぱう」

 ワンコがまだ一匹しか登録されていない『モンスター図鑑』を見ている。


「ああ、他はもっとしょうもないダジャレと厨二心あふれる名前だったからなぁ。って、混沌の獣にゃんことは?」

 聞き捨てならない情報が聞こえたのをスルーはしない。


「ん、言ったことなかったぱう? ボクの同僚にあたるダンジョン側のシステム管理者ぱう」

「ワンコがプレイヤー側のシステムで、その同僚がモンスター側ってこと?」

 こいつに同僚がいたことも驚きだが俺がプレイヤー側だけで良かった理由もわかった。


「そうぱう。混沌の獣にゃんこの方でもカイの【調停者ルーラー】みたいに【統括者キーパー】を選んでシステム構築してるぱう」


「なあ、ワンコ。一つだけ聞いていいかい?」

「ん? なにぱう。答えられることなら答えるぱうよ。あ、おやつ増やしてくれたら口も軽くなるぱう」


「いや、おやつはおいておいて、その【統括者キーパー】とやらはゲームやダンジョンに詳しいのかい?」


 ワンコは何を馬鹿なことを言わんばかりの表情を浮かべる。


「もちろん決まってるぱう。カイの言うところのミリしらぱう」


 図書室ダンジョンの神話級モンスターの謎が解けた気がした……


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TRPG風ダンジョンはじめました ~ミリしらTRPG β0.5~ 水城みつは @mituha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ