第39話なんで許可を求めてるの?

「っえ? なに、その服装どうしたの?」


 俺たちのことなんか視界にも入ってないように、通り抜け。

 名前を呼んだ彼女は月見に抱きつき「ううん、やっぱ答えなくて良い」と嬉しそうに力強く抱きつく。


「どうして、ここに呼んだの?」

「いや、俺じゃない」


 苺谷が俺に疑いをかけるので速攻否定する。

 聞いてきたってことは、もう月見自身が呼んだことしかあり得ない。

 あり得ないが、抱きつかれた彼女も面食らってびっくりしているから、予想はしていなかったようだ。

 服装やらチェックし、告白する上で、避けては通れない比較対象てき

 そんな彼女がよりによって今日現れ、変わろうとする月見の姿を喜ぶなんて。皮肉だな。


「ねぇ、ところで何してたの?」

「あ、あのね、ちょっと相談事してたの」


 青葉が「相談……ね」と俺たちを一度見て、月見の耳元へヒソヒソと語りかける。

『ほんとうにだいじょうぶ? きたえてるからあのふたりならボコボコにできるよ』

 青葉はニコッと拳を立てて、自信満々に任せなさいとでも言いたげにアピールする。

 うぁぉ、武闘派ぁ……これからお前が機嫌損ねようとしてる相手、血の気多すぎじゃないか。


「応援しているんですかね?

 それにしてもわざわざ彼女に伝えるなんて、少し焼き入れしないとダメですね」


 信じられない、とばかりに苺谷は鬱憤が溜まっている様子。

 

「おおかたあの様子だと寮の場所だけを聞かれ、教えたんだろ。

 仮にも親友って言うんだし、嘘も拒否も……な?」

「はぁぁ……ま、来てしまったからには、もうしょうがないですね」


 自分でも言ってしまう、と想像したのか苺谷は落ち着いたっぽい。

 良かった、危うく俺らの方が焼かれる所だった。

 これで裏へ連れて、怒ったりなんかしたら、それこそ虐めていると誤解されかねない。

 

「う、ううん、本当に大丈夫だから心配しなくても大丈夫っ!! どうしてここに?」

「この学校ってお昼ご飯でないじゃん?

 私、料理作るの好きだからさ、りゅうちゃんとゆあのお弁当も一緒に作ろうかなって思って」

「そ、それで聞いてきたの? 私、お弁当代なんて出せないからいい——」


 月見はこれからのこともあり、申し訳なさやらで居心地が悪そうにしながら、青葉の拘束から逃れようともがく。

 

「お弁当代がないなんて分かってる、だから来たんだよっ!! 好きなものとか変わってない?」


 っえ、なに、月見が金がないことを察して無料でお弁当作りに来た幼馴染ってこと?

 すっげぇ……俺の理想にしてた青春の幼馴染に欲しいレベルの人材だ。

 羨ましいけど……最悪だな、これから幼馴染の二人に割って入ろうとしているところの月見にとっては尚更。


「っく……」


 というか俺たちの財布事情を考えてなかった苺谷より上回るのやめてくれ。

 指導係としての立場とか、面目が丸潰れじゃん。

 ただでさえ、月見のファッションセンスで心が傷ついているのかも知れない脆い子なんだから。

 もう不貞腐れちゃって帰っちゃいそうだよ、この子。

 

「これから3人は予定がある感じ?」


 スゥハァ、スゥハァっと薬物でもきめているみたいに月見を吸いながら質問してくる。

 お前の友達、キモいな……少し鳥肌立ったぞ。


「えぇっと、買い物に行こうかなって」

「買い物? お金は彼女が出してくれるの?」


 しどろもどろに目を逸らした月見に、引っかかった青葉が苺谷を指さす。

 出会った時から俺たちはワッペンつけているからな、苺谷しかお金を持っていないことは分かりきっているか。


「いいえ、私は絶対に出しません」

 

 しかし、困ったな。

 苺谷が迷う演技すらなく、頑固たる意志で否定したせいもあって。

 俺たち二人が物欲しそうにする月見を連れた傍ら、買い物を楽しもうとするクズとでも思ってるぞ。

 あの目は。


「それってゆあは二人の買い物を見てるだけってこと?」


 良くないって、ここは月見のために嘘でも奢るって言うところだろ。

 今からでも遅くない、思い直させようと思って肘で苺谷の腕を突く。

 けれど、返ってきたのはいつもの敬語でもなく「なにッ」と実に短く、鬱陶しさが伝わってくる言葉だった。


「いや……奢ったらどうか…………なんでもない」


 奢るという言葉を出した途端、苺谷の目が一段と刺してくる。

 昨日は太っ腹だったのに……と思ったけど、こいつ自身は1円も出してないな。

 友達っていえば、いつでも食えるんじゃとか思ってあの後に確認したらって、グループは同列に扱う学校のルールでしかなかったし。


「ね、私も行ってい? 久しぶりに会ったし、ゆあの欲しいもの全部奢るからさ」


 友達の友達、と遊んでいるところに割り込むか。

 普通の神経をしていたら空気を悪くするし、遠慮するべき場面だろうに……。


「えっ、えっと、それはその……聞いてみないと」


 月見が『どうしよう』助けて欲しそうな目を投げかけ。


「まず、ゆあの意見を聞きたかったんだけど……ねーえ? 貴方たちもいいよね?」


 それに気づいた青葉が余計、猜疑心を募らせ、微笑で俺たちへ同意を求める。

 

 ダメかな、迷惑だったら、とか否定ではなく『いい』という肯定から入る疑問形に意図を感じるのは気のせいかな。

 まったく……ここで俺たちに振るのは最悪だぞ。

 ほら、今も口元は笑っているけど眼輪筋が収縮してないから、意思決定も全て管理するDV現場にいる目だよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 18:40 予定は変更される可能性があります

少子化対策で恋愛にギャンブルの興奮を にくまも @nikumamo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ