介護を生業として/短歌の部・二十首連作部門

蜂賀三月

介護を生業として

実の子を忘れていても花を愛で花瓶の水はいつも新鮮



ケアコール鳴る走るすぐケアコール特別養護老人ホーム



カラフルな錠剤いくつも並べたら薬の数の自慢大会



春先にベッドサイドで死神を待つあの人の夕焼け小焼け



「黄金の折り紙なんて私にはもったいない」と百寿の媼



春うららふっと笑顔で託される防空壕で過ごした夜を



声変わりした孫のバリトンボイス トランペットなる気管カニューレ



目を閉じて花火の音だけ聴いている 鮮やかに咲くスターマインよ



「兄ちゃんの作る味噌汁おいしいわ」思わず笑う「お湯淹れただけ」



甘すぎるバニラの香りとろけそう命を繋ぐ経腸栄養剤エンシュア・リキッド



短冊に「死にたい」なんて代筆を頼まれたとは誰にも言えず



口ずさむアンパンマンのマーチ 早朝四時の心臓マッサージ



すぐ慣れるなんて言ってた先輩の申し送りの声が震える



使い捨て手袋越しに伝わった35.5度の体温



羽生える車椅子にはお出かけのバケットハット引っ掛けてある



空襲で必死に逃げたこの町で今人生の終わり迎える



冬に死ぬものは多いの利用者も介護している人の心も



夜勤明けシフト最後の先輩にマルボロメンソカートンであげる



お別れの鈍行列車ひとつずつあなたのために停まるのだろう



人生の最終回で私たち良い俳優になれたでしょうか

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介護を生業として/短歌の部・二十首連作部門 蜂賀三月 @Apis3281

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