吸血種レイノート=ファンブルク2
——再生は完了した。
ドンッ!
ツルツル滑るガラス張りの壁面を蹴りつけて、真下に向かって加速する。
『虚景
ギュオンッ!
背後から見えない斬撃が降り注いだ。
——左脚が飛ぶ。
「そんなことも出来るのか……っ!」
ここにきてリーチの差という新たな問題が生まれたことに悪態をつく。
ビルの壁面を削り取り横面に熱波が吹き付ける、左右に鋭く方向転換し灼熱の閃光を避ける、飛んで跳ねて転がって駆ける。
肌に摩擦を感じながら滑る、体を捻って方向を変えて弾幕から逃れる。
斬撃は徐々に精度を増してくる、先読み追い込み狙い撃ち、これでは地上に着く前に真っ二つだ。
「迎え撃つしかない……!」
ギッ。
壁に腕を突き刺してそこを起点に方向転換、体の向きを調整して思い切り体を跳ね上げる。
昇りゆく朝日、飛び立つ鷲、流星の如く飛翔し目標へ接近。
「げっ……!」
男は私の急接近に驚き速度を落とした、良い反応速度だがこっちの方が早い。
鉤爪一閃、紅刃が空気を削ぐ。
だが男は壁面を叩いて自分の体を浮かせ、飛び上がりながら私の背後を取り、両腕を風車のように回転させ斬撃を放った。
血で鎧を形成、振り返ってガードを間に合わせたが効果があったとは言い難い、腕ごと持っていかれてしまう。
「だが……ッ!」
今ヤツは空中で無防備、足場のないそんな場所では回避行動も取れん、まんまと釣られたな!
宙返り、両足を壁面に付けて飛翔、格好の的となった二刀使いの首を——
ギュインッ!ガンッ!
「!?」
男の腕からワイヤーのような物が飛び出した、それは壁面に深々と突き刺さり、不自然なまでの空中機動を可能とした。
すれ違う。
空中で無防備になったのは私の方だ。
マズイッ!今すぐに血の足場を作って離脱を——
「な……血が操れない……!?」
突然の事態に一瞬思考が止まる、そしてそんな私の様子を見て男がニヤリと笑みを浮かべた。
「ああ、やっぱ効いてたんだな」
男が構えを取った。
「……!」
瞳孔が開いていく。
『殲景——』
私は咄嗟に腕を前に突き出した。
さっきは出来た、さっきは出来たんだ、注射針を打ち込まれた直後も可能だった、だから私はこうして建物の外に居る。
一か八かの性質変化、血の力を手のひらに集約させて炸裂させる!
ドォォォォン!
やった発動したぞ!足場は作れなくても爆発ならさせられる!
男は爆撃をもろに食らって煙の中に沈んで行った、奴は生身の人間だかなりのダメージ……
『——
ブォン!
「なっ……」
爆煙の中から飛び出す八つの斬撃、腕を血で覆って攻撃を打ち落とす。
ひとつ、ふたつ。
みっつ、よっつ。
「グ、アアアッ!」
五発目がガードを掻い潜る、片腕を飛ばされながら六発目を弾いた。
しかし片腕を失くした事で対処が出来なくなった、七発目でもう片方の腕も斬られる、残りの一発を足で受け止めるが防御が成立したとは言えない。
足ごと胴体を真っ二つに切り裂かれる、焼き切られた空気が焦げた匂いを放つ、そして黒煙の中から男の姿が現れた。
右腕と左脚を失って。
「クッッッソ痛ぇなァ!」
自分の体を盾に、爆発を防いだのか……!
私には両手両足が存在しない、しかもあの剣に切られる度再生が遅くなる、つまり今アドバンテージは向こうに。
——ザン。
逆袈裟二連、そして流れるように首をはねる、完全に打つ手を失くした私に向かって鉄筒を構える男、またあの針を打ち込むつもりか!
「く、そ……」
為す、術が。
——パァン。
撃ち抜かれた頭部は、まるでビリヤードの球みたいに弾かれ、遥か地上へ落下していった。
自分の中で何か取り返しのつかないものが破壊される感覚があった。
落ちていく途中で再生が完了する、しかし体は動かせない、もがくことすらも。
男が追って来る気配は無い、どうやらヤツもあれが最後の力だったようだ、地上に向けて力なく落下していくのが視界の端に写る。
バァァンッ!
体が何か硬いものに打ち付けられた、何かに激突した勢いでバウンドし、ゴロゴロと転がってまた下に落ちる。
赤に青に水色に、眩しい光が瞳を焼く、私はただ流れに身を任せるしかない。
何度か物に激突し、やがて私は高速で走る鉄の箱の上に落ちそこで止まった。
「……」
指先ひとつ動かせない、力が失われていくのを感じる、弱く弱く弱くなっていく、最強無敵の超生物が己を喪失していく感覚。
景色が流れていく。
「まだ、だ」
まだ、間に合う。
まだやる事がある。
この敗走を致命的なものにしない為に、今のうちでなければきっとやれない、残りの力を使って最後の抵抗をするんだ。
作り変えろ、身長骨格人相別物に成り代われ、これまでの自分を捨て去るんだ。
「この借りは……必ず……」
この日、吸血種レイノート=ファンブルクは、ただひとりの人間の手によって打ち負かされた——。
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ブラッディ・ムーンは白熱電球に挫かれる ぽえーひろーん_(_っ・ω・)っヌーン @tamrni
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